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第一章

牢獄から脱出

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「す、すごい」
 トーマスは腰を抜かしていた。想像以上の威力でビックリしたのか、ここまで衝撃があると思っておらず踏ん張っていなかったのか。とりあえず、少し強くしすぎたかしら。どれくらいで穴が開くか見当がつかず、強めに撃ったのは確かだ。牢獄が崩落したりしないわよね。
「ヴィオラ様!」
 牢獄の入り口の方から、沢山の足音が聞こえてくる。衛兵たちが到着してしまったらしい。それにあちらには、すごい音が聞こえただろう。聞こえてくる声に心配も入り混じっている。
「さぁ、脱出よ」
「入口の方には向かえない、これも計算のうちですか……ヴィオラ様すごい」
 トーマスが良く分からないところで感心している。それぐらい誰でも想像ができると思うが、感心してもらっているのは気持ちがいいから否定はしないでおこう。
「後にしなさい、今は逃げる事だけ考えなさい」
 それだけ言って、座り込んでいるトーマスに手を差し出す。トーマスはハッとした表情をしてから、自ら立ち上がった。そして、早足で穴の方に移動すると、逆にこちらに手を差し出してくる。
「ヴィオラ様、行きましょう」
 あっ、キュンッ。何とほほえましい事か。手を借りるのは騎士らしくないと思ったのだろう。強がりというほどではないが、あくまで自分が手を差し伸べる側でいたいという事か。つい少し笑ってしまったが、その手を握ると「よろしくね、騎士様」と呟く。トーマスは笑顔で「お任せください!」と声を上げた。


 牢獄を脱出した後、とりあえず植木に身をひそめて辺りの様子を伺う。衛兵が通りかかるが、認識阻害の魔法を使っているおかげでバレていない。完璧に相手から見えなくなるわけではないが、逃げるにはいい魔法だ。大人の私が覚えていた魔法で、もちろん子供の私は使えなかった。そのおかげで認識阻害魔法など、予想もしていない事だろう。
「この後、どうするんですか?」
 トーマスが小声で問いかけてくる。不安そうにしているのを隠そうとしているのか、両手を握りしめて腰のあたりに押し付けている。可愛らしい物だ。
「このままだと、私は叱られる程度で済むだろうけど、トーマスの事は何が何でも処刑やらなにやら理由をつけて、抹殺しようとしてくるでしょうね」
 私に悪い影響を与えた。そんな風に父上は考えているかもしれない。スラムの人間がヴィオラを惑わしたなんて感じで。私のせいでもなければ、自分のせいでもない。スラムの愚物が悪いと。
「処刑……」
 トーマスがより一層、両手を握りしめた。不安で当たり前だ。今日出会ったばかりの私を信じきれないという事もあるだろう。
「大丈夫よ、考えがあるのよ」
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