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第一章

メイドとの和解、ちょろいわw

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 優しい表情を崩すわけにいかないから、顔には出さない様に祈る。誰にも話していないと言ってほしい。望みは薄いが、どうか。メイドの表情が変わって、慌てたように声を上げた。
「そんなっ、私は決して誰にも喋っておりません!」
「え? 話していない?」
 誰にも報告しなかったのか。こんな大ごとなのに。それはそれでどうなんだ、そんな事を思いつつ疑問を問いかける。
「どうして……何かあった時、報告していなければ、あなたが責任と問われるかもしれなかったのに」
 私の言葉にメイドは、とっさという感じで顔を横に振る。それから弾ける様に声を上げる。
「そ、それは!」
 それから、恐れ多いとでも思ったか、声が小さくなりながら続ける。
「……私はヴィオラ様のメイド、ですので……ヴィオラ様の秘密を誰かに話すなど」
 私の秘密を守りたかったのか。私はいつもこのメイドに、酷い態度をしてきたというのに。この様子だと、陰口さえ叩いていないとみえる。
「ヴィ、ヴィオラ様?」
 両手を口に当てて、少し俯いてしまう。メイドはその態度に不安そうに声を上げていた。 ひどい態度をして、嫌われて当然の仕打ちをしてきたのに。それでも何でもないような小さな秘密だが、それを守ろうとしているのか。メイドの忠誠心に震える。私は何て馬鹿なんでしょう……こんな忠義者がそばにいる事に気づかずに。
 私は、嬉しくて笑いがこみあげてくるのを必死に抑えていた。震えてしまっているのは、止められそうもない。私はやっぱり幸運だ。このメイドは使える。今まで気づかなかった私は馬鹿だ。
 これからは優しくしよう。そうしてやれば簡単になびくだろう。慕って忠誠心を抱いてくれれば、情報収集に有用だ。メイドはどこにでも紛れられる。貴族はメイドを人間と思っていない。だからメイドがいても会話を続ける。それが誰にも言えないようなことでも。それにこのメイド、私の頼みなら多少危険なところでも潜入してくれるだろう。便利な使い捨て密偵の出来上がり。ふふっ。
「……すみません」
 気持ちを整えて、顔を上げるとメイドに歩み寄る。そして肩に手を置く。メイドは体を強張らせた。怒られるとでも思ったのだろう。
「あなたの事を、勘違いしていました」
「勘違い?」
 メイドの両肩を掴んで、しっかりと目を合わせる。
「いつも私と壁があって、嫌われているのかと、それで冷たい態度になってしまって」
「そんな! 嫌ってなんて、私の方こそ嫌われているのかと……」
「それこそ勘違いよ」
 私が微笑んで見せると、メイドは少し驚いたように目を見開いて、それから涙ぐみながら微笑んだ。
「私たちは、すれ違ってしまっていたようね」
「はい!」
 これで関係修復。ふふっ。ちょろいわw
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