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その間に、哲也はタクシーを呼んで栗原に電話をした。栗原はワンコールで電話に出た。
『どうだった?』
「うん、大丈夫。今、陸と一緒。タクシー呼んだ」
『そうか……良かったな……で……陸くん、覚えてた?』
「ああ」
『そうか』
栗原の声が安堵を含む声音に変わったのが分かった。
『タクシーなんて呼ばなくても、俺が迎えに行ってやったのに』
「いいよ。もう遅いし。これ以上お前に迷惑かけられないだろ」
『……お前さぁ……家帰ってから、いきなり陸くんとヤるつもりじゃねぇだろうな』
「はあ? 何言ってんの? お前」
『いや、だって。わざわざタクシー呼んで、俺が一緒だったら邪魔みたいな感じだし?』
「……そんなの今、考えてるわけねぇじゃん! 馬鹿じゃねーの」
『いや、だって、感動の再会なわけだし?』
「再会できたって言っても、根本のところはまだ解決もしてねぇし」
そう言って、ちらっと陸を見ると、陸がきょとんとした顔をしてこちらを見返してきた。
『あ、そうだったな。お前、陸くんに振られてたんだったな』
「……お前、覚えてるくせにわざと言ってるだろ」
『は? 何のこと?』
こいつ……。
わざとらしいとぼけた声出して。小学生からの付き合いだからよく分かる。栗原は今、拗ねているのだ。自分だけ仲間はずれにされたと思って。
「栗原」
『えー?』
「ありがとな」
『…………』
「すげぇ、感謝してる」
『……今度、焼き肉奢れよ』
「分かった」
『しょうがねえから、そこに住んでる最低野郎のことは俺が処理しといてやるわ』
「だけど……」
『いいから。俺に任せとけって。俺だって今回のことは結構ムカついてるしさ』
「おい、お前、犯罪者だけにはなるなよ」
『大丈夫だって。逆にお前になんかさせたら確実に死ぬだろ、あいつ』
「そうだな……。楽には死なせねぇだろうな」
『だろ?だから、任しとけって』
「……分かった」
栗原と簡単に挨拶を交わして携帯を仕舞う。陸の方を向いて確認した。
「陸。お前の荷物は?」
「……全部あいつに取られてて、どこにあるかも分からないんだけど……」
2人はとりあえずタクシーが来るまで部屋を荒らしながら陸の荷物を探した。が、なかなか見つからない。ここではないどこかに隠したのか、捨ててしまったのだろうかと諦めかけた時。
「哲也さん、あった!」
陸が、ベッドの下の奥深くに黒のビニール袋に入れて隠されていたバックパックを見つけた。あの日。陸が家を出て行った時に持っていったバックパックだった。中を確認すると、財布はそのまま入っていた(現金は取られていたが)。しかし、携帯は見当たらない。
「陸、携帯はどうした?」
「……たぶん、あいつが捨てたんだと思う。誰とも連絡が取れないように」
「そうか……」
「ごめんね、哲也さん。哲也さんからもらった携帯なのに」
「そんなのいいって」
「でも……」
哲也は、前と変わらない、妙に真面目なところのある陸にふっと笑って、思わず陸の頭を撫でた。
「相変わらずくそ真面目だな、陸は」
そう言うと、陸もふふっと笑顔を見せた。ふと真面目な顔になってそのままじっと哲也の顔を見つめる。
「どうした?」
「……哲也さん。ありがとう」
「え?」
「俺を探してくれて、迎えにきてくれてありがとう」
「そんなの……」
当たり前、とは言えなかった。なぜなら2人はもう別れているからだ。陸が望んで出て行ったのだから。哲也が恋人のように振る舞うことはもうできない。もし自分が今でも陸の恋人なら。陸が求めてくれているのなら。陸を抱き寄せて思い切り抱き締めるのに。今の自分にはそれができない。
タクシーが来たことを知らせる短いクラクションが聞こえた。哲也は陸に静かに笑いかけた。
「行こう」
『どうだった?』
「うん、大丈夫。今、陸と一緒。タクシー呼んだ」
『そうか……良かったな……で……陸くん、覚えてた?』
「ああ」
『そうか』
栗原の声が安堵を含む声音に変わったのが分かった。
『タクシーなんて呼ばなくても、俺が迎えに行ってやったのに』
「いいよ。もう遅いし。これ以上お前に迷惑かけられないだろ」
『……お前さぁ……家帰ってから、いきなり陸くんとヤるつもりじゃねぇだろうな』
「はあ? 何言ってんの? お前」
『いや、だって。わざわざタクシー呼んで、俺が一緒だったら邪魔みたいな感じだし?』
「……そんなの今、考えてるわけねぇじゃん! 馬鹿じゃねーの」
『いや、だって、感動の再会なわけだし?』
「再会できたって言っても、根本のところはまだ解決もしてねぇし」
そう言って、ちらっと陸を見ると、陸がきょとんとした顔をしてこちらを見返してきた。
『あ、そうだったな。お前、陸くんに振られてたんだったな』
「……お前、覚えてるくせにわざと言ってるだろ」
『は? 何のこと?』
こいつ……。
わざとらしいとぼけた声出して。小学生からの付き合いだからよく分かる。栗原は今、拗ねているのだ。自分だけ仲間はずれにされたと思って。
「栗原」
『えー?』
「ありがとな」
『…………』
「すげぇ、感謝してる」
『……今度、焼き肉奢れよ』
「分かった」
『しょうがねえから、そこに住んでる最低野郎のことは俺が処理しといてやるわ』
「だけど……」
『いいから。俺に任せとけって。俺だって今回のことは結構ムカついてるしさ』
「おい、お前、犯罪者だけにはなるなよ」
『大丈夫だって。逆にお前になんかさせたら確実に死ぬだろ、あいつ』
「そうだな……。楽には死なせねぇだろうな」
『だろ?だから、任しとけって』
「……分かった」
栗原と簡単に挨拶を交わして携帯を仕舞う。陸の方を向いて確認した。
「陸。お前の荷物は?」
「……全部あいつに取られてて、どこにあるかも分からないんだけど……」
2人はとりあえずタクシーが来るまで部屋を荒らしながら陸の荷物を探した。が、なかなか見つからない。ここではないどこかに隠したのか、捨ててしまったのだろうかと諦めかけた時。
「哲也さん、あった!」
陸が、ベッドの下の奥深くに黒のビニール袋に入れて隠されていたバックパックを見つけた。あの日。陸が家を出て行った時に持っていったバックパックだった。中を確認すると、財布はそのまま入っていた(現金は取られていたが)。しかし、携帯は見当たらない。
「陸、携帯はどうした?」
「……たぶん、あいつが捨てたんだと思う。誰とも連絡が取れないように」
「そうか……」
「ごめんね、哲也さん。哲也さんからもらった携帯なのに」
「そんなのいいって」
「でも……」
哲也は、前と変わらない、妙に真面目なところのある陸にふっと笑って、思わず陸の頭を撫でた。
「相変わらずくそ真面目だな、陸は」
そう言うと、陸もふふっと笑顔を見せた。ふと真面目な顔になってそのままじっと哲也の顔を見つめる。
「どうした?」
「……哲也さん。ありがとう」
「え?」
「俺を探してくれて、迎えにきてくれてありがとう」
「そんなの……」
当たり前、とは言えなかった。なぜなら2人はもう別れているからだ。陸が望んで出て行ったのだから。哲也が恋人のように振る舞うことはもうできない。もし自分が今でも陸の恋人なら。陸が求めてくれているのなら。陸を抱き寄せて思い切り抱き締めるのに。今の自分にはそれができない。
タクシーが来たことを知らせる短いクラクションが聞こえた。哲也は陸に静かに笑いかけた。
「行こう」
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