ありそうでない話

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 ケトルがカチッと沸騰したことを知らせる音を立ててはっとなる。ラーメンにお湯を掛けて、フタをした。ラーメンを入れたどんぶりのフタに水蒸気からできた水滴が付いていくのをぼうっと見つめる。

 陸と出会ったのは、そうだ、4年ぐらい前のこんな寒い季節だった。借金の返済に追われて売りと同時に陸が働かされていたゲイバーに哲也が訪れたのがきっかけだった。

 そこのゲイバーは、通常のゲイバーよりも高級感を売りにしており、金持ちを相手にした会員制の店だった。

つまりは、ゲイバーというよりはゲイ専門の高級メンズクラブ、と言った方がしっくりくるかもしれない。

 哲也のクライアントの社長が当時ハマっていて、哲也も同族だと知った途端、ここのクラブに連れてこられたのだ。その社長は、妻子もある50代のおっさんだったが、数年前に若い男を可愛がることに目覚め、それ以来こうしたクラブに通い詰めているらしかった。

 哲也が現れた途端、なぜかクラブのホストたちがあからさまに喜んだ。周りを見渡してその理由をすぐに理解した。こんな会員制の高級クラブに来るような(しかもゲイ専門の)客は、ほとんどが頭のはげ始めたような金持ちの中年男ばかりだった。

そんな中、若い哲也のような客はホストたちからすれば新鮮だったのだろう。哲也もそうだが、若いゲイはこんなところへ来なくても自力で相手を見つけることがたやすいのだろうし。

 それに、どうやら栗原ほどではないが、自分もそこそこ顔は良い方だったようだ。(出会ってずっと後に、陸から『哲也さんは堀が深くて整った顔立ち』と指摘されて知った)色めきたつホストたちに若干引きつつも、案内されたソファへと座る。

 一緒に来た社長に、好きな子を指名できると言われ、あまり乗り気はしなかったがとりあえずきょろきょろとホストたちを遠目から眺めた。
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