ずっと、欲しかった

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 そのまま時は過ぎて、森本は大阪の教育大学に進学していった。実は、全くの偶然だったのだが、倉田も教師を目指して同じ大学に希望を出しており合格も収めていた。しかし、これ以上森本と関わることは辛かった。別で合格していた地元の教育大学に進学を決めた。

 卒業後は森本を思い出すことも減り、倉田はごく普通の大学生活を送ることができた。人見知りの自分だったが彼女もでき、自分が男に欲情したのは気の迷いだったと思えた。

 なのに。

『森本です。宜しくお願いします』

 変わらない笑顔で自分の目の前に再び現れた。大阪で高校の教員になったことは風の噂で聞いていたが、まさか転勤して地元に戻ってくるとは思わなかった。それがほんの3ヶ月前のことだった。

 動揺した。激しく揺すぶられた。それを気付かれたくなくて、森本を避けた。自分たちが高校の同級生だったことを知っているのかいないのか、森本もそのことについては何も言ってはこなかった。

 そんな状態だったので、もちろん森本の私生活のことは何も知らなかった。倉田と森本は、ただの同僚だった。学校で顔を合わせ、必要な時にだけ会話を交わすだけ。

「ん……」

 森本が突然声を上げた。はっと、我に返る。起きたのかと顔を覗いたが、相変わらず目は閉じられており、ただ寝返りを打っただけだったようだ。気持ち良さそうな寝息を立てている。

 その無防備な顔に倉田も自然と笑みが零れた。

 眠る森本の姿は子供のようだった。ふと触れたくなる。腕を伸ばして森本の頭を優しく撫でた。すると、森本が微かに笑った。一瞬起きているのかと驚いて手を止めたが、森本はそのままむにゃむにゃと何か言ってまた寝息を立て始めた。

 壁掛け時計で時刻を確認する。薬が切れるのはもう少し先のはずだ。

 そう。結局、倉田は我慢できなくなったのだ。高校の時に散々苦しんだ気持ちをまた味わえなければならないなんて耐えられなかった。これはただ、森本に欲情しているだけだ。森本さえ手に入れば。森本を抱きさえすれば。この苦しみから解放される。そう思った。

 森本が、毎日部活が終わった後に数時間残っていくのは知っていた。教育熱心とはほど遠い他の教員がとっとと帰る中、面倒な仕事も全て引き受けて頑張る姿は、高校の時となんら変わらなかった。

 この学校は、最後に残った教師が帰る際にセキュリティーを稼働させてから校舎を出ることになっている。つまり、教師が残っている間はセキュリティーカメラも動作していない。妙なところで費用を節約しようとする学校の方針だったが、倉田には好都合だった。

 倉田がしようとしていることを、誰にも気付かれず、証拠も残さず行うには、学校内が最適だと思えた。どちらにせよ、森本の家も知らない。後をつけて行き当たりばったりで襲う方がよっぽどリスクがある。
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