ずっと、欲しかった

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 倉田は自分のスーツの上着を脱ぐと、適当に床に放った。ネクタイを引き外し、それも床に落とす。靴を脱ぐと(律儀だな俺、と思いながら)森本の上に跨がった。上からじっと森本を見下ろす。

 いつの間にか2人ともいい大人になった。目の前の森本は、出会った頃のあの少年らしさが残る可愛さは成りを潜め、代わりに何とも言えない色気が生まれていた。

 森本へと顔を近づけていく。ゆっくりと唇を重ねた。何度が角度を変えて押しつけるように唇を合わせるが。そこで動きを止める。何かがそれ以上進もうとする倉田を留まらせた。あどけない顔で眠る森本を間近で見つめる。

 なんだろう。森本のことを欲しくて堪らないのに。体が疼いて仕方がないのに。心は驚くほど冷めている。自分の体と心の温度差に倉田自身が戸惑った。

 そして。その冷めた心は虚しさに代わり、こうしている間にも倉田の中でじわじわと広がっていった。体の熱が一気に失われ、欲は完全に萎えた。

 なんなんだよ。

 倉田は、はあっ、と大きく息を吐くと、体を起こした。そのままベッドを降りて靴を履く。

 かなりの覚悟で実行した計画が、まさかこのタイミングで自分のやる気が萎えて失敗に終わるとは思ってもみなかった。

 とりあえず、森本のワイシャツのボタンを元に戻していく。それから、森本の体の下から薄い掛け布団を少しずつずらして引き抜くと、森本の上へとそっとかぶせた。ベッドの隣へ簡易椅子を引っ張って寄せ、そこに腰掛ける。

 このまま森本を置いて帰るわけにもいかないし、残っている仕事なんてもちろんなかった。手持ち無沙汰になり、ただ、森本の寝顔を見つめて過ごす。

 見つめている内に、自然と昔のことが蘇ってきた。

 森本と初めて会ったのは、高校の時だった。森本は文武両道で性格も明るく、周りを温かくする太陽のようだった。気さくな人柄で、入学して瞬く間に人気者となり、いつも沢山の友人に囲まれていた。

 一方、倉田は人見知りの上、気難しい性格だったため、人と交わるのが面倒で、いつも気配を消すようにしてやり過ごしていた。それでも、言葉を交わす同級生は何人かいたし、成績もそれなりに良かった。それで事は足りていた。

 森本とは同級生だったが3年間同じクラスになることはなく、高校自体が生徒数の多い学校だったのもあり、会話を交わしたことすらなかった。

 なのに。どうしてこんなに惹かれたのだろう。

 いつの間にか目で追うようになっていた。遠くで見かける度に、あの太陽のような笑顔を見る度に。自分にないものを全て持っているような森本が羨ましくて。

 手に入れたいと思うようになった。

 けれど、その願望がただの羨ましさからくるものではなく、単にあいつの体に欲情しているからだと気付いた時。自分はその自分の中に芽生えた感情を持て余した。どうしていいかも分からなかった。

 
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