変態ストーカーの専属BGにはなりません!

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 不思議な感覚だった。目の前にいるのは確かに自分自身なのに。独立した、1人の人間と対峙たいじしているみたいだった。

「それでね、僕が昔のことを思い出すと、お兄ちゃんが一緒に見てるみたいな感覚がしたの。そのときにわかったよ。僕は、お兄ちゃんの一部なんだって。だから、ここにいて寂しいなんて思わなくていいし、お兄ちゃんだったら、ヒョウちゃんのこと幸せにしてくれるって思った」

 僕にはもうできないから。

 そう言って、少しだけ寂しそうに笑う自分を見つめる。なんだか、この目の前の自分がとても愛おしく思えた。こんな小さな体で、精一杯寂しい気持ちを抑えている自分が。もしも。晃良が記憶をなくしていなくて。この歳で黒崎と離ればなれになったとしたら。同じように寂しい気持ちを抱えながら黒崎のことを想ったのだろうか。

 晃良は早足に幼い自分へと近づいた。

「お兄ちゃん?」

 不思議そうに見上げる少年を力一杯抱き締める。

「いたたっ。お兄ちゃんっ、苦しいっ」
「……そんな寂しい顔しなくてもいいよ」
「……お兄ちゃん?」
「だって。俺らだってずっと一緒なんだから」
「……うん」

 幼い手が晃良の背中に回ってきた。ぎゅううっ、と晃良に負けないくらいの力で抱き締め返される。

「お兄ちゃん」
「ん?」

 少年の晃良がそっと力を緩めて離れた。そして両手を胸の前に出して、何かを包むような仕草をした。何をしてるんだろう? と見ていると。

「おおっ」

 両手の中に突如丸い玉が現れた。明るくて温かいオレンジ色の光に包まれている。

「これなに?? お前、凄いな」
「これ、あげる」
「え?? くれるの??」
「うん。ていうか、これ、お兄ちゃんのだから」
「俺の?」
「そう。お兄ちゃんが忘れてったの」
「……それって……」
「うん。昔のこと」
「…………」

 数秒、お互い見つめ合う。

「……どうしたらいいの?」
「僕から受け取るだけでいいよ」
「そうなの?」
「うん。そしたら、もうお兄ちゃんと僕、一緒になれるから」
「そうか……」

 晃良はふっと笑って目の前にいる、もう1人の自分を見た。

「楽しみだな」

 少年の晃良が、満面の笑みで答えた。

「うんっ」

 そっと自分の右手を伸ばして掌を上に向けた。ゆっくりと口を開く。

「なあ」
「何?」

 きょとんとした顔でこちらを見る、幼い頃の自分に伝える。

「ありがとう」

 そして。

「またな」

 晃良とそっくりな笑顔を小さな晃良が向けた。

「お兄ちゃん」
「ん?」
「ヒョウちゃんをよろしく」
「……うん」

 ころん、と少年の両手から晃良の掌の上に玉が落ちてきた。その瞬間。まばゆい光が玉から放たれた。そのまぶしさに晃良は両目をきつくつむった。温かい光に自分の体全体が包まれるような感覚がした。とても心地よい、優しい光。

 それを感じた途端。

 うわっ。

 記憶が洪水のように晃良になだれ込んできた。とても奇妙な感覚だった。晃良が黒崎と初めて言葉を交わす場面。幼い黒崎と笑顔で笑い合う場面。2人で手をつないで施設を走り回る場面。向かい合って黒崎に勉強を教えてもらっている場面。真剣な顔で見つめ合う場面。黒崎とのファーストキス。初めて裸になって抱き合ったとき。心から、黒崎と一緒にいたいと実感した瞬間。あの、写真で見たクリスマス会での黒崎の笑顔。走馬灯のように駆け巡る。

 俺、やっぱり死ぬんじゃないの?

 よく、死ぬ前に走馬灯のように過去の出来事が頭の中を駆け巡るなどと言うが、まさにこんな感じなのではと次々と記憶がなだれ込んでくる片隅でぼやっと考える。いや、でも、あの子が死んでいないって言ってたしな、と冷静に思い直す。

 そして。記憶が増えれば増えるほど、幼い晃良がじんわりと自分の中に溶け込んでくるのを感じた。

 そう。今。この瞬間。

 完全に1つになった。そう実感した。

『ヒョウちゃんをよろしく』

 そう笑顔で言った幼い晃良の姿が頭の中に浮かぶ。その姿は、やがて霧のようにゆらりと薄れ、音もなく、静かに消えた。
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