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Ready to fight ⑰

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 軽く黒埼をいなしつつ浴室へと向かった。シャワーを浴びる内に、だんだんと緊張していく自分を自覚した。そうか。今、黒埼と2人きりなのだ。自分の気持ちを認めてから完全に2人きりの空間になるのは初めてだった。

 あの我儘わがまま放題のストーカー黒埼に好き勝手をさせる気は毛頭ない。けれど、もっと自分の気持ちに正直になると決意したし、昔の自分を越える努力をするつもりでもあるし、この状況ならば何か進展がないとも限らない。今まで拒否するのが当たり前だったので、果たして自分が今までの態度を改めて臨機応変に行動に移せるのか疑問ではあるが。

 ま、いっか。 

 色々考えても仕方ない。晃良が努力しようとなんだろうと、現時点での黒埼の言動は変わらないだろう。そう。「アキ」を待っている黒埼は。だから重要なのは、これから自分が変えていけるかどうかだ。

 浴室から出てリビングへと戻ると、黒埼がPCを取り出してコタツの上で何やら作業をしていた。キッチンで炭酸水をグラスに注いでから、コタツの中に入る。

「仕事か?」
「ん。研究についての問い合わせが多くて、今。空き時間に対応しないとまっていく一方だから」

 研究、と聞いて今朝方のニュースの件を思い出した。公共の電波を通じて晃良の「ベッドの中」での奉仕行為まで暴露した黒埼が浮かび、沸々と怒りが舞い戻ってきた。怒りをぶつけたくなり、斜め前に座る黒埼の頭を思いっきりはたいた。

「いったぁっ!! ちょっと、何すんの、アキちゃん! なんで俺、殴られてんの??」

 黒埼が不満そうな顔をして晃良を見た。

「お前、あれ、なんだよ。今日のニュース」
「……ああ、あれ? やっぱ、アキちゃん、見てくれたんだぁ。絶対、見てくれるだろうと思った」
「なんで俺があのニュース見てんの知ってんだよ」
「え? だってアキちゃんとこ、いつもケーブルテレビ流れてるじゃん、朝」
「そうだけど……。お前が泊まる時にも点いてたか?」
「どうだったかなぁ?」
「……なあ」
「ん?」
「もう考えないようにしとこうと思ってたど、やっぱ聞くわ」
「何を?」
「正直に言ってくれ。怒んないから。この家に何が仕掛けられてんだ」
「……本当に知りたい?」
「知りたい」
「知ってどうすんの? あれは俺のアキちゃんライフラインだから取られると困るんだけど」
「取らないから。居場所は教えてくれなくていい。何かだけ教えてくれね? 俺の中のモヤモヤをスッキリさせたいだけだから。どうせ取ってもまた付けるだろうし、そこんとこはもう諦めてるから」
「……どうしたの? アキちゃん。やっぱ最近おかしいな」
「そんなことないけどな」
「いや、あるよ。なんだろ……トゲトゲしさがなくなったって言うか……。まあ、さっきは久しぶりにたたかれたけど。なんで急にそんなしおらしくなったの?」
「これも俺の一部だって」
「……可愛いところがあるのは分かってるけど……。今までいっつも怒られてばっかりだったから、なんか調子狂う」
「で、教えてくれるのか?」
「いいけど……。えーと、この家に付けてるのは、『アキちゃんボイス』だけかな。『アキちゃんカメラ』はこの前アキちゃんに怒られてから付けてないし」
「『アキちゃんボイス』って何?」
「マイク。小型の。場所は言えないけど」
「なるほどな……」

 以前、教えていないのに黒埼たちが晃良たちの旅行先に現れたりしたのも、ここで晃良たちが計画を立てているのを聞いていたからか。でも。
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