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Out of control ⑩

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「うわぁっ」
「ちょっと、アキちゃん、声大きい」
「いや、だって……これ、何??」
「え? これ?」
「どうみてもアクションじゃねぇだろ??」
「あれ? そう?」

 黒埼がチケットを出して、携帯のライトで照らして確認した。

「ほんとだ。これ、ホラーだった。間違えて買っちゃったみたいだわ」
「……うそつけ。わざとだろ、お前」
「えー、だって、怖がるアキちゃん、見たいなって思って」
「なんでだよっ」
「いや、昔もお化け怖がって、よくぎゅうっ、て可愛い顔して抱き付いてきてさぁ。その顔がもうたまんなくてぇ」
「……帰る」

 立ち上がろうとした晃良の腕を、黒埼が素早くつかんで引き戻した。

「何すんだよっ」
「アキちゃん。今からアクションのやつ観ようとしたら次まで待たなきゃなんないよ。どうせ待つんだったらこれ観ようよ」
「外で待ったらいいじゃん」
「普段仕事でもっとエグいの経験してるでしょ? それとも、アキちゃん、そんなヘタレだったわけ?」

 ヘタレ、という言葉に、晃良の男らしい一面がぴくりと反応した。確かに、仕事上でリアルに血や傷を目にするのは日常茶飯事だ。そんな経験を何度もしている自分が、作り物の怖さに負けてもいいものか。

「……ヘタレじゃねぇし」

 ぼそっと言い返すと、黒埼がふと笑った。

「ならいいじゃん。どうしても観たくないとこあったら目をつむったらいいし」
「…………」

 自分は別に、グロいのは怖くない。怖いのは、得体のしれない「何か」なわけで。「何か」さえ見なければ。

 晃良は覚悟を決めた。

 この戦い、勝ってやる。

 と、再び見始めた10分後。

 ダメだわ、これ。

「何か」が予想以上に怖かった。正体は全て見せないのに、ちらっと画面の片隅に一瞬だけ現れたり、登場人物の後ろに立っていたりする。見ないようにしようにも、出るタイミングの予測が付かず、完全に回避できない。

 再び黒埼の腕をつかんで、ぎゅうっ、と握り締めた。出るっ、と思うタイミングでとりあえず目をつむる。落ち着いた頃にまたそっと目を開ける。

 そんなことを何度か繰り返していると。

 は?

 怖くて目をつむるタイミングで唇を塞がれた。驚いて目を開くと、黒埼のキスが隣から飛んできたらしい。スクリーンからの逆光で黒埼の表情が微かに見える。唇を重ねたまま目で何してんだよ、と黒埼に訴える。黒埼の目がいやらしく笑ったように見えた。
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