129 / 239
Out of control ⑨
しおりを挟む
(彼氏だと勝手に主張する)黒埼の運転で商業施設へと向かった。店内への入り口付近の駐車スペースに車を停めて、中へと入る。晃良は買い物にはあまり興味がないので、ここに来るのは随分と久しぶりだった。晃良たちのマンションから一番近いこともあり、尚人や涼はよく利用しているらしい。映画館に加え、約200のショップやレストラン、子供のための体験施設などもあり、とても人気がある。だが、平日の昼間だったせいか、今日は混んでいなかった。
「どれにする?」
店舗が並ぶ通路を進み、映画館に入った。案内板を見ながら観る映画を相談する。
「言っとくけど、ホラーは観ないからな」
「アキちゃんは昔から嫌いだったもんね。お化け」
「そうだったのか?」
「うん。あの施設、よく出たからな」
「……マジか……」
その記憶は蘇らなくてもいいな、と密かに思う。
「そしたら、あれにする? アクション系みたいだし」
「そうだな」
「チケット買ってくるから。アキちゃんは待ってて」
「金払うよ」
「デートだから。出させるわけないじゃん」
「いや、でも……」
「いいから。行ってくる」
「うん……じゃあ、ありがとう」
有無を言わせない勢いで断られたので、仕方なく黒埼の好意に甘えることにした。しかし、いつも黒埼に出させてばかりで申し訳なくなる。こちらが払おうとしても、「デートだから」とか、「彼氏だから」(彼氏じゃないが)とか言われて断固拒否されるし。プレゼントだってもらってばかりで、一度もあげたことがない。自分もそこそこ稼いでいる身で金に困っているわけではないし、正直なところ、黒崎にあまり借りを作りたくない。庇護されるのではなく、対等な立場でいたいのだ。
「行こ」
黒埼が戻ってきた。ポップコーンと飲み物も購入してから、一緒にゲートまで向かう。黒埼が手にしていた2人分のチケットをスタッフに見せて、案内された番号のシアターを目指した。
「がらっがらだな」
「そうだね。平日の午前だからじゃない?」
シアターへ入ると。もうすぐ上映するというのに、座っている人はまばらだった。真ん中辺りにカップルが1組、隅の前の方に中年の男が1人座っているだけだった。確かかなり大がかりに宣伝していたアクション映画のはずなのに。シアターも小さめだし随分人気がないんだな、と思った。2人で一番後ろの真ん中へと腰かける。
このとき。晃良は気づくべきだった。これが、黒埼による策略だったということを。
映画開始5分。
おかしい。
スクリーンいっぱいに広がる、アクション映画の華やかな雰囲気とはかけ離れた不気味な描写が続く中。先ほどから恐怖に引きつった顔をして、何かから必死で逃げる白人女性を観ながら、晃良は思った。
「おい、黒埼……「きゃあああああっ!!」」
この映画で本当に合っているかどうか確認しようとしたタイミングで、画面から女の叫び声が響いた。体がびくりと跳ねる。
なになに??
反射的に黒埼の左腕にぎゅうっ、としがみついた。恐る恐るスクリーンに目を向けると、ちょうど女の人が追いつかれた「何か」に惨殺されるシーンだった。
「どれにする?」
店舗が並ぶ通路を進み、映画館に入った。案内板を見ながら観る映画を相談する。
「言っとくけど、ホラーは観ないからな」
「アキちゃんは昔から嫌いだったもんね。お化け」
「そうだったのか?」
「うん。あの施設、よく出たからな」
「……マジか……」
その記憶は蘇らなくてもいいな、と密かに思う。
「そしたら、あれにする? アクション系みたいだし」
「そうだな」
「チケット買ってくるから。アキちゃんは待ってて」
「金払うよ」
「デートだから。出させるわけないじゃん」
「いや、でも……」
「いいから。行ってくる」
「うん……じゃあ、ありがとう」
有無を言わせない勢いで断られたので、仕方なく黒埼の好意に甘えることにした。しかし、いつも黒埼に出させてばかりで申し訳なくなる。こちらが払おうとしても、「デートだから」とか、「彼氏だから」(彼氏じゃないが)とか言われて断固拒否されるし。プレゼントだってもらってばかりで、一度もあげたことがない。自分もそこそこ稼いでいる身で金に困っているわけではないし、正直なところ、黒崎にあまり借りを作りたくない。庇護されるのではなく、対等な立場でいたいのだ。
「行こ」
黒埼が戻ってきた。ポップコーンと飲み物も購入してから、一緒にゲートまで向かう。黒埼が手にしていた2人分のチケットをスタッフに見せて、案内された番号のシアターを目指した。
「がらっがらだな」
「そうだね。平日の午前だからじゃない?」
シアターへ入ると。もうすぐ上映するというのに、座っている人はまばらだった。真ん中辺りにカップルが1組、隅の前の方に中年の男が1人座っているだけだった。確かかなり大がかりに宣伝していたアクション映画のはずなのに。シアターも小さめだし随分人気がないんだな、と思った。2人で一番後ろの真ん中へと腰かける。
このとき。晃良は気づくべきだった。これが、黒埼による策略だったということを。
映画開始5分。
おかしい。
スクリーンいっぱいに広がる、アクション映画の華やかな雰囲気とはかけ離れた不気味な描写が続く中。先ほどから恐怖に引きつった顔をして、何かから必死で逃げる白人女性を観ながら、晃良は思った。
「おい、黒埼……「きゃあああああっ!!」」
この映画で本当に合っているかどうか確認しようとしたタイミングで、画面から女の叫び声が響いた。体がびくりと跳ねる。
なになに??
反射的に黒埼の左腕にぎゅうっ、としがみついた。恐る恐るスクリーンに目を向けると、ちょうど女の人が追いつかれた「何か」に惨殺されるシーンだった。
5
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
隊長さんとボク
ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。
エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。
そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。
王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。
きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。
えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる