上 下
78 / 239

Touched on the past ③

しおりを挟む
『なあ、これ見て』

 1週間前の夜。そう言って、シャワーを終えた涼が浴室から出てきたのが事の発端だった。ソファで尚人とテレビを見て寛いでいた晃良は、涼の掌にちょこんと乗っている小さな物体をのぞいた。

『あれ? これ……』
『これ、カメラだよな。小型の』
『どこにあった?』
『風呂のシャンプーとか置いてある棚んとこ』
『……どういうこと?』

 3人で顔を見合わせる。そしてすぐに状況を理解した。晃良は超特急で浴室に向かい、隅々まで鬼のように調べた。結果、見つかったカメラは3台。

『3台もあったの? どこに?』
『……脱衣所の棚、その反対側の壁にあるコンセント横、浴室のシャワーヘッド近く』
『うわぁ。全てのアングルをカバーしてるよね、それ』
『ほんと、あの人ストーカーだな』
『…………』

 掌に納めたカメラを見つめたまま、晃良はショックで言葉を失った。こんなことをやるのは奴しかいない。あのストーカーで変態野郎の黒埼は、一体いつから晃良の入浴シーンをのぞいていたのだろうか。考えられるのは、以前晃良宅へ泊まっていったときに仕掛けられたということだ。そんな動きには全く気づかなかった。

『晃良くん、晃良くんの寝室も調べた方がいいよ』

 そう尚人に言われて、晃良の背筋が凍った。自分の寝室へと走る。目を凝らして探し回ること30分。

 あいつ……殺す。

 晃良の掌には、さらに5台のカメラが増えていた。

『……晃良くん、大変だね』
『……今頃気づいたか?』

 そのとき、唐突に晃良の携帯が鳴った。画面を確認しなくても、誰なのか見当はつく。大体、晃良の携帯番号を本人には教えたこともないのに。本当は無視してやりたいのだが、文句の1つでも言わなければ気が済まない。晃良は携帯をひっつかむと電話に出た。

『おまえっ……「ちょっと、アキちゃん!! カメラ勝手に回収しないでくれる??」』

 開口一番に文句を言おうとした晃良の言葉は、黒埼の馬鹿でかい抗議の声に無残にも消えていった。ここでひるんだら負けだと、体勢を立て直して黒崎に食ってかかる。

『……はあ? 何言ってんだ、てめぇ! 勝手にカメラ仕掛けといてなんだその態度は! まず、すみませんだろ、この変態白豚野郎が!!』
『はあ?? こっちこそはあ?? なんだけど!! 変態は認めるけど、豚じゃないしっ!!』
『変態は認めるんかいっ!』
『そこはどうでもいいから。とにかく、カメラ戻して』
『するわけねぇだろ、バーカ。勝手に俺の裸を堪能した罪は重いからな』
『いいじゃん、それくらい。それに、アキちゃんも燃えるでしょ? これから。俺に見られてるかと思うと』
『……見たのか? ……その……俺の……』
『当たり前じゃん。アキちゃんのあの、イくときの顔、可愛いかったしぃ』
『……きもい』
『きもくない。ほんとに可愛いいから、アキちゃんのエッチな顔』
『……とにかく。もう見せねぇから』
『ええ~。アキちゃんのケチ。それくらいのサービスいいじゃん。アキちゃんとのエッチお預けさせられてんだから』
『残念だったな。これで一生お預けだな』
『この前は甘えた顔で、心の準備ができるまで待って、って言ったじゃん』
『あんなの、撤回だっつーの!』
『……アキちゃん』

 携帯の向こう側で黒埼の声音が変わった。その低い重圧感のある声に、危機感を覚えて一瞬尻込みする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

23時のプール 2

貴船きよの
BL
あらすじ 『23時のプール』の続編。 高級マンションの最上階にあるプールでの、恋人同士になった市守和哉と蓮見涼介の甘い時間。

いつの間にか結婚したことになってる

真木
恋愛
撫子はあの世行きの列車の中、それはもう麗しい御仁から脅迫めいた求婚を受けて断った。つもりだった。でもなんでか結婚したことになってる。あの世にある高級ホテルの「オーナーの奥方様」。待て、私は結婚していないぞ!というよりそもそも死んでない!そんなあきらめの悪いガッツある女子高生と彼女をまんまと手に入れた曲者オーナーのあの世ライフ。

処理中です...