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Going out with you ⑬

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 少しだけ、黒埼が羨ましかった。黒埼には新しい家族ができた。それは親のいない子供にとって喉から手が出るほど欲しい環境で。それを手に入れることができるのは本当に幸運なことなのだ。晃良も幼い頃は、もし自分にも新しい家族ができていたら、と想像したこともある。兄弟ができることに憧れたこともあった。

 残念ながら晃良は養子に出ることなく大人になってしまった。でも今は、好きな仕事をして、尚人や涼のような友人とも家族とも呼べる存在に出会えたのだし、自力で踏ん張ってきた人生もそんなに悪くはないなと自分では思っている。

 ふと、黒埼の腕が伸びてきた。優しく頭をでられる。なんだろう。今日の黒埼はどこか違う。いつもの強引さ(と変態さ)はあまりなく、なんとなく優しい。これが、デート、という状況下にいるからなのか、それとももともと黒埼にこういった一面があるからなのかはわからないが。

「どうしたの? アキちゃん」
「……なんでもない」
「……ほんとに? 急に黙るから」

 そう言って、優しくで続ける黒埼の手を感じながら思う。黒埼はきっと、晃良の羨ましいと思った気持ちに気づいたのだろう。黒崎なりに気を遣ってくれているのかもしれない。晃良はそっと微笑んで黒埼を見た。

「本当に、なんでもないから」
「……そう?」
「ん」

 黒埼の手がゆっくりと離れていった。その一瞬。その手が離れていくのを寂しいと感じた。もっとでてほしい。もっと優しくしてほしい。それを自覚した自分自身に、心の中で動揺する。

 動揺を押し隠すように、晃良は平静を装ってさらに質問をした。

「俺、1個、疑問に思ってたんだけど」
「何?」
「お前って、帰化したとき、名字変わっただろ?」
「うん。変わったって言うか、変えられたんだけど」
「なんで、未だに日本名使ってんの?」
「まあ……別に向こうは普段どんな名前名乗ってもいいしさ。ミドルネームに黒埼って残してくれたし使おうかなって。あ、それに俺、日本人だったから、急にアメリカ人みたいになんのも慣れないし。どっちにしろ名字なんてあんま使わないから、日本名のまんまでいいかなと思って」

 急に黒埼が色々と言い訳を並べ出したのを見て、晃良はなんとなくピンときた。

「なあ。黒埼の名字って何?」
「……教えない」
「なんで?」
「絶対笑う」
「笑わないって。だから教えて」
「本当に笑わない?」
「うん」
「……マクドナルド」
「…………」
「……アキちゃん。そんな震えるほど我慢するぐらいだったら言いたいこと言って」
「いや……めちゃくちゃ、ベタだな」
「だろ? ヒョウガ・マクドナルドです、って日本で名乗ってみ? まず笑われて、マクドナルドって、ドナルドと親戚ですか? とか、ハンバーガーください、とか絶対弄られるじゃん。それを初めて会う人ごとに言われるの、嫌なわけ」
「まあ、そんな弄りする奴ばかりじゃないとは思うけど、確かにマクドナルドはあの店のイメージ強いからな」
「そうなんだって。だから、黒埼使ってる」
「改名する気はないの? また黒埼だけに戻すことだってできるだろ? アメリカは」
「できるけど、普段は不自由ないし、そのままでいいと思ってる。せっかく、親が変えてくれたし」
「そうか……」

 日本で「黒崎」を使う理由は、単に登録上の名字がベタすぎて恥ずかしかっただけのようだ。確かに見た目はアジア人なのに名字が「マクドナルド」だとしたら、日本では目立つだろう。それに抵抗があるのも理解できる。それでも、養父母に義理立てして名字はそのまま残しておこうとする黒埼に、そういった優しい面もあるのだなと、晃良はほんの少しだけ見直した。
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