65 / 239
Going out with you ⑩
しおりを挟む
黒埼に指示されて着いたのは、高級感溢溢れる、会員制のイタリアンレストランだった。そこにはプライバシーに配慮された個室がいくつか用意されていた。そこの1つに案内される。
店員の様子からして、黒埼はここの常連のようだった。こういった高級な場所はよくお偉いさんが商談や会合を開くときに利用するので、BGとして店に入ったことは何度もあるが、自分が利用するのはもちろん初めてだった。
「おい、黒埼。俺、普段着なんだけど。いいの?」
「大丈夫。個室だから誰も見てないし。俺、スウェットのときとかあるよ」
「それはお前がお得意様だから向こうも文句言えないだけだろ?」
「どうだろ?」
「てか、お前、こっちに住んでねぇのになんでこんなに詳しいんだよ、色々と」
「え? だって、日本しょっちゅう来てたし。ジュンと。よく色んなところ行ってるから」
「そうなのか?」
「ん」
そうは言っても、多忙な中、常連になるくらい日本とアメリカを行ったり来たりできるものだろうか。なんとなく腑に落ちなかったが、そこでウェイターが注文を取りに来たので会話は一旦中断された。
ランチ用のセットメニューからそれぞれ選んで注文した。メインに飲み物とデザートが付いた、高級レストランでも気軽に頼めるシンプルなセットだ。ワインも勧められたが、晃良は車で来ているし、黒埼も帰ってすぐ仕事だからと断って、結局炭酸のミネラルウォーター(これまた高級の)を飲むことした。
飲み物が運ばれてきて、軽く乾杯をする。黒埼が突然ふっと笑った。
「なんだよ?」
「なんか、変な感じ。酒じゃないけど、こうやってアキちゃんと2人でかしこまって乾杯するのが」
「そうか?」
「ん。昔のことしか知らないから。昔は施設のでっかいテーブルでよく向かい合って食べてたけどな。アキはよく喋るしうるさかったから、いっつも怒られてた」
「いや、さすがに大人だからな、俺も。もうそんな、デカい声で食事なんてしねぇし」
「まあ、そうだけど」
そんな会話をしつつ、晃良の心の中に複雑な気持ちが広がる。昔の自分しか知らない黒埼と、今の黒埼しか知らない自分。この微妙な違和感が生まれる度に、胸が苦しくなる。それは罪悪感なのか。喪失感なのか。それとも両方か。
黒埼は気づいているのだろうか。昔の話を黒埼がするとき。
『アキ』
晃良のことを『アキちゃん』ではなく『アキ』と呼ぶこと。それはまるで、今の晃良と昔の晃良に大きい隔たりがあると言われているような気がして、なんというか、自分が欠陥品になったかのような、黒埼に認められていないような、そんな思いに駆られるのだ。
店員の様子からして、黒埼はここの常連のようだった。こういった高級な場所はよくお偉いさんが商談や会合を開くときに利用するので、BGとして店に入ったことは何度もあるが、自分が利用するのはもちろん初めてだった。
「おい、黒埼。俺、普段着なんだけど。いいの?」
「大丈夫。個室だから誰も見てないし。俺、スウェットのときとかあるよ」
「それはお前がお得意様だから向こうも文句言えないだけだろ?」
「どうだろ?」
「てか、お前、こっちに住んでねぇのになんでこんなに詳しいんだよ、色々と」
「え? だって、日本しょっちゅう来てたし。ジュンと。よく色んなところ行ってるから」
「そうなのか?」
「ん」
そうは言っても、多忙な中、常連になるくらい日本とアメリカを行ったり来たりできるものだろうか。なんとなく腑に落ちなかったが、そこでウェイターが注文を取りに来たので会話は一旦中断された。
ランチ用のセットメニューからそれぞれ選んで注文した。メインに飲み物とデザートが付いた、高級レストランでも気軽に頼めるシンプルなセットだ。ワインも勧められたが、晃良は車で来ているし、黒埼も帰ってすぐ仕事だからと断って、結局炭酸のミネラルウォーター(これまた高級の)を飲むことした。
飲み物が運ばれてきて、軽く乾杯をする。黒埼が突然ふっと笑った。
「なんだよ?」
「なんか、変な感じ。酒じゃないけど、こうやってアキちゃんと2人でかしこまって乾杯するのが」
「そうか?」
「ん。昔のことしか知らないから。昔は施設のでっかいテーブルでよく向かい合って食べてたけどな。アキはよく喋るしうるさかったから、いっつも怒られてた」
「いや、さすがに大人だからな、俺も。もうそんな、デカい声で食事なんてしねぇし」
「まあ、そうだけど」
そんな会話をしつつ、晃良の心の中に複雑な気持ちが広がる。昔の自分しか知らない黒埼と、今の黒埼しか知らない自分。この微妙な違和感が生まれる度に、胸が苦しくなる。それは罪悪感なのか。喪失感なのか。それとも両方か。
黒埼は気づいているのだろうか。昔の話を黒埼がするとき。
『アキ』
晃良のことを『アキちゃん』ではなく『アキ』と呼ぶこと。それはまるで、今の晃良と昔の晃良に大きい隔たりがあると言われているような気がして、なんというか、自分が欠陥品になったかのような、黒埼に認められていないような、そんな思いに駆られるのだ。
5
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
当たって砕けていたら彼氏ができました
ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。
学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。
教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。
諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。
寺田絋
自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子
×
三倉莉緒
クールイケメン男子と思われているただの陰キャ
そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。
お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。
お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。
少年ペット契約
眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。
↑上記作品を知らなくても読めます。
小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。
趣味は布団でゴロゴロする事。
ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。
文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。
文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。
文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。
三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。
文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。
※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。
※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~
あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。
※R-18作品です。
モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる