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Going out with you ⑦
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とりあえずコーヒーを2人分煎れて、マグカップを手にリビングに戻る。リビングテーブルにカップを置いて、少し大きめのL字型のソファに黒埼から距離を置いて座った。その途端、黒埼から不満の声が上がる。
「アキちゃん、こっち座って」
ぽんぽん、と隣を叩きながら黒埼が拗ねた顔をしてこちらを見た。
「いや、いい」
「なんで? さっきはあんなに甘い感じだったのに」
さっきのあの作戦を、会って早々使ったことに後悔し始める。あの作戦は確かに効果的だが、その見返りとして黒埼にあまり冷たくできない雰囲気がなんとなく生まれてしまう。急にまた拒否反応を示せば、あれが作戦であり、晃良の本心からではないと、いくら基本自分の都合で生きている黒埼でも気づくかもしれない。
作戦の詰めが甘かったな。
晃良は心の中で反省しつつ、渋々と立ち上がった。黒埼の隣へと移動して、警戒しながら腰を下ろした。
「アキちゃん。なんでそんなに警戒してんの?」
「いや……なんとなく」
「なにそれ」
呆れた顔をしつつ、黒埼が手を伸ばしてきた。優しく頭を撫でられる。
「今日、どこ行きたい?」
「……そのことだけど」
「何?」
晃良は言いにくそうに説明した。
「俺が黒埼を呼び出したのは、デートしたいわけじゃなかったんだけど……」
「は?」
「ん、だから、会って話したかったのは事実だけど、それは会ったらもっと色々思い出すきっかけになるかもと思って……」
「そしたら、記憶取り戻すためだけに俺は呼ばれたってこと??」
「呼んではないけどな。話したいって言ったのはそういうこと」
「……そうなの?」
「そう」
ちらっと黒埼を見上げた。もっとブツブツと文句を言われるかと思ったが。意外にも黒埼は優しい顔で晃良を見返していた。黒崎がふっと笑って口を開く。
「だったら、いいじゃん。別にデートしても。どっちにしろ一緒に過ごすことに意味があるんだよね?」
「まあ……」
「そしたらしよう、デート。てか、アキちゃん。どっかでデートの約束消費しないと……」
そこで黒埼が言葉を止めて、口角をゆっくりと上げながらいやらしく笑った。
「何日間もアキちゃん離せなくなるけど」
「よし、行こ! デート」
晃良は素早く立ち上がると、ほとんど飲んでないコーヒーをさっさと片づけた。少しでも消費しなくてはっ、と思いながら急いで財布を取りに部屋に戻る途中で、リビングの入り口でニヤけた顔をして立っている涼と鉢合わせした。
「……何してんの?」
「いや、なんか、入るタイミングなくした」
「普通に入ってきたらいいだろ」
「だって、今にもそこでなんか始まりそうな雰囲気だったし」
「なんかってなんだよ」
その晃良の問いには答えず、相変わらずニヤけた顔で涼が晃良を見返した。
「晃良くんの心の準備ができるまであの人待てるといいけどな」
シャワー浴びてくるわ~、と言いたいことだけ言ってさっさと浴室に向かう涼の背中を唖然として見つめる。
あいつ。どっから聞いてたんだ。
きっと黒崎とした会話の内容は、晃良の知らぬところであっという間に尚人にも(下手すると有栖にも)伝わるのだろうな、と心の中で深々と溜息を吐いた。
「アキちゃん、こっち座って」
ぽんぽん、と隣を叩きながら黒埼が拗ねた顔をしてこちらを見た。
「いや、いい」
「なんで? さっきはあんなに甘い感じだったのに」
さっきのあの作戦を、会って早々使ったことに後悔し始める。あの作戦は確かに効果的だが、その見返りとして黒埼にあまり冷たくできない雰囲気がなんとなく生まれてしまう。急にまた拒否反応を示せば、あれが作戦であり、晃良の本心からではないと、いくら基本自分の都合で生きている黒埼でも気づくかもしれない。
作戦の詰めが甘かったな。
晃良は心の中で反省しつつ、渋々と立ち上がった。黒埼の隣へと移動して、警戒しながら腰を下ろした。
「アキちゃん。なんでそんなに警戒してんの?」
「いや……なんとなく」
「なにそれ」
呆れた顔をしつつ、黒埼が手を伸ばしてきた。優しく頭を撫でられる。
「今日、どこ行きたい?」
「……そのことだけど」
「何?」
晃良は言いにくそうに説明した。
「俺が黒埼を呼び出したのは、デートしたいわけじゃなかったんだけど……」
「は?」
「ん、だから、会って話したかったのは事実だけど、それは会ったらもっと色々思い出すきっかけになるかもと思って……」
「そしたら、記憶取り戻すためだけに俺は呼ばれたってこと??」
「呼んではないけどな。話したいって言ったのはそういうこと」
「……そうなの?」
「そう」
ちらっと黒埼を見上げた。もっとブツブツと文句を言われるかと思ったが。意外にも黒埼は優しい顔で晃良を見返していた。黒崎がふっと笑って口を開く。
「だったら、いいじゃん。別にデートしても。どっちにしろ一緒に過ごすことに意味があるんだよね?」
「まあ……」
「そしたらしよう、デート。てか、アキちゃん。どっかでデートの約束消費しないと……」
そこで黒埼が言葉を止めて、口角をゆっくりと上げながらいやらしく笑った。
「何日間もアキちゃん離せなくなるけど」
「よし、行こ! デート」
晃良は素早く立ち上がると、ほとんど飲んでないコーヒーをさっさと片づけた。少しでも消費しなくてはっ、と思いながら急いで財布を取りに部屋に戻る途中で、リビングの入り口でニヤけた顔をして立っている涼と鉢合わせした。
「……何してんの?」
「いや、なんか、入るタイミングなくした」
「普通に入ってきたらいいだろ」
「だって、今にもそこでなんか始まりそうな雰囲気だったし」
「なんかってなんだよ」
その晃良の問いには答えず、相変わらずニヤけた顔で涼が晃良を見返した。
「晃良くんの心の準備ができるまであの人待てるといいけどな」
シャワー浴びてくるわ~、と言いたいことだけ言ってさっさと浴室に向かう涼の背中を唖然として見つめる。
あいつ。どっから聞いてたんだ。
きっと黒崎とした会話の内容は、晃良の知らぬところであっという間に尚人にも(下手すると有栖にも)伝わるのだろうな、と心の中で深々と溜息を吐いた。
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