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クッキー・センセーション ①

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「なにこれ」

 10月末の最終日。仕事に切りがついて久しぶりに数日の休みが取れた晃良は、新聞を読みながらゆっくりと朝食を済ませた。その後、昨夜から放ったらかしにしておいた携帯をチェックして眉を潜める。

 PCのEメールアカウントに届いていた1通のメール。携帯にアカウント登録してあるので、携帯でもチェックできるようにしてあるのだが。それは、見覚えのないアドレスからのメッセージだった。迷惑メールか? と思った直後、差し出し人が黒埼だということに気づく。

 ていうか。いつの間に俺のメールアドレスを手に入れたんだ?

 もう驚きはしないが。あの変態ストーカー男の黒埼は、晃良のプライベートな個人情報をどんな方法を使っているのか(恐ろしくて知りたくはない)、いとも簡単に手に入れて、こうして勝手に晃良と接触してくるのだった。

 メールの件名が、「大好きな俺のアキちゃんへ」とあったので、見慣れないメールアドレスでもすぐに黒埼だと見当が付くあたり、晃良も黒埼にかなり慣れ始めてしまっているのかもしれない。

 その事実にぞっとする。確かに、黒埼とはただのクライアントから知り合いぐらいまでには関係が進展してはいる。先月、約束していたので渋々晃良宅に泊めてはいるし(そして一緒に寝起きもした)、過去のことを思い出す努力をする約束もしたにはした。だが結局のところ今の関係は、知り合いを仕方なく泊めてあげたレベル、だと晃良は思っている。しかし黒埼は、再会したときから晃良がすっかり黒埼に惚れていて、両想いであると信じて疑わない節があった。

 さて、どうする。

 このままゴミ箱ファイルへとぶち込んでもいいかと思ったが。なんせ変態のくせに、インテリでもある黒埼なので、無下にすると倍返しで自分の身に何かが起こるのではないかと不安になってくる。

 晃良は恐る恐る指で画面をスクロールして、メールの内容を確認した。

「ん?」

 そこには、ただ一言、「Trick(トリック) or(オア) Treat(トリート)?」と書かれていた。そしてその下には2つの添付ファイル。1つのファイル名は「Trick」で、もう1つのファイル名は「Treat」となっていた。

 そこで、今日はハロウィンだったな、と思い出す。そういったイベント事には大して興味がない晃良なので、完全に忘れていた。

「Trick(トリック) or(オア) Treat(トリート)」って何だったっけ?

 そう思って携帯でそのまま調べてみると。

 ああ、そうか。お菓子をもらうやつか。

 ハロウィンは、もともと「収穫感謝祭」の意味があり、秋の収穫を祝う祭りとしてアイルランドやスコットランドから始まったらしい。しかしアメリカではイベント化して広がり、ハロウィンには子供たちが仮装して家々を周り、お菓子をもらう習慣がついたようだ。その際に「Trick or Treat」(お菓子をくれないとイタズラするぞ)と言うのが決まり文句として定着している。

 で、黒埼からのメールの件だが。

 怪し過ぎる……。

 わざわざ「Trick or Treat?」と書いてきて、それぞれファイルがあるということは、どちらか選べということだろうか。普通に考えたら「Treat」だろうけど。お菓子がもらえるわけでもないだろうし。黒埼の考えていることが読めないので、裏をかいて「Trick」という可能性もある。
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