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Don't believe in never ⑦

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「お前……なんで……」
「それはこっちのセリフなんだけど」

 黒埼は黒のジーンズと体のラインに程よく沿った白の無地のTシャツを身に着け、その上からライトグレーの半袖のシャツを羽織っていた。以前会ったときのよれよれのスウェット上下ではなく、ちゃんとした服を身に纏っていた。今日は眼鏡も外している。こうしてそれなりの格好をしていると、黒埼はかなりの男前だった。モデルのようなスタイルの良さ。アイドルのような色白の顔。

「……あいつは?」
「丁重にお帰りいただいた」

 丁重に、に語気を強めて黒埼が答えた。そこでようやく晃良に闘志が戻ってきた。黒埼をぐっと睨んで抗議する。

「どういうつもりだ」
「だって、アキちゃんが浮気しようとするから」
「浮気じゃねーだろ!! お前と俺はそもそも付き合ってないし、なんの関係もないだろーが!!」
「そう思ってんのはアキちゃんだけだって。俺とアキちゃんは運命の糸で結ばれてんの」
「バカ言うなっ! そんな勝手な言い草あるかっ。俺の恋路を邪魔すんな!!」
「邪魔するに決まってんじゃん!! アキちゃんと俺の間に入って来る奴は許さないし、どんな手使ってでも邪魔するからなっ!! アキちゃんは俺のもんだしっ」
「俺はお前のもんじゃねぇ!!」

 睨み合いながらもそこで一旦、沈黙が生まれた。すると、黒埼が出し抜けに立ち上がって、ずんずんと晃良の方へ向かってきた。晃良が一瞬怯んだ隙に、腕を掴まれて引っ張られる。とっさにその反動を利用して黒埼を逆に投げ落とそうとしたが、その動きは読まれており簡単にかわされた。晃良の心に火が点いた。

 ラブホテルの一室に、格闘技大会でも行われているかのような緊張した空気が漂う。その中で相手を組み伏せようともみ合いが暫く続いた。しかし、バスローブ姿だった晃良は、いつものように機敏に体が動かせず不利だった。一瞬の隙をつかれて、足をすくわれた。あっ、と思ったときには、うつ伏せにベッドの上に抑え付けられていた。

「何すんだよっ!!」

 抗議する晃良の声を無視して、黒埼は晃良のバスローブを足元から捲り上げた。晃良の下着だけを付けた下半身が露わになる。黒埼の右手が乱暴に晃良の下着を掴むと、一気に下までずり下げた。

 抵抗しようとジタバタ足を動かそうとするが、黒埼に体重をかけられてがっちりと押さえられおり、どうしようもなかった。黒埼がポツリと呟いた。

「……なんで」
「…………」
「なんで……他の奴なわけ」

 その言葉の意味を晃良が考えるより前に、黒埼の指が、晃良の後ろを這った。思わず晃良の体がビクリと反応する。孔の周りをただ、ゆっくりとなぞり続ける。
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