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Just the beginning ㉒

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『いつからだったっけな。俺もたぶん最初は気づいてなかったと思う。力使うときは集中してるときだけだし。だけど、同じ顔がいる、ってなんかで気づいたら気になるようになって、章良くんと一緒にいるときに現われる奴だって』

 たぶん、機動隊んときから。そう涼に言われて、背筋がぞっとした。

『それって、涼と会ったときからずっとってことか……?』
『うん……そう。ただ、現れるって言っても、毎回とかじゃねぇし。たまーになんだよ。それに別に近づいてくるわけでもねぇし。ただ、見てるだけ。だから、あんま章良くんを怖がらせるのもなと思って言ってなかったんだけど。てか、俺も忘れてたし。さっきこいつ見るまで』
『…………』

 この事実がにわかには信じられなかった。章良のことをあらかじめ知っていて、最初から章良が目的で今回の依頼をしたことは、黒埼との会話から明らかになったが、BG関連で接点があったのだろうと踏んでいた。しかし、章良が警察官として働いていたそんな前から知られていたとは。

 章良の行くところに現われて、何をするでもなくただ見ているなんて、まるでストーカーだ。

 一体、黒崎はいつ、どこで章良を見つけて、こんな何年にも渡って章良を追うまでになったのか。そして、なぜ今になって、章良の前に堂々と現われたのか。

 とんとん、とドアがノックされた。確認してドアを開けると、有栖が笑顔で立っていた。

『乾さん、お休みのところすみません。あ、酉井さんもいらっしゃったんですか。飛び出して行ったっきり帰ってこられないから心配しました』
『……いや、おたくのストーカーに逃げられて探し回ってたんすけど』
『涼』

 章良が涼をたしなめる。涼は不機嫌な顔をして押し黙った。有栖はきょとんとした顔をして、事態を把握していないようだった。

『どうかなさったんですか?』
『……もしかして黒崎さんを探してます?』
『はい。ここにいることがわかったので迎えにきました』
『……どういう意味ですか?』
『ああ、うちの黒崎、しょっちゅう逃げるんです。だから、腕時計とか色々な物に発信器がつけてあって、探せるようになってるんで』

 ちょっと、失礼します。と有栖は部屋の中へと入っていった。ベッドに横たわる黒崎を見ても顔色1つ変えず、やっぱり、ガッちゃん、ここだったんだぁ。と笑った。

 章良は涼と顔を見合わせて目だけで合図すると、有栖のほうへと歩み寄った。有栖は不思議そうな顔でこちらを見ている。

『なんでしょう?』
『有栖さん。ちょっと、事情聞かせてもらえますか?』
『なんのですか?』
『今回の依頼について。詳しく説明していただけますか?』
『はあ……。いいですけど、黒崎からは聞いてませんか?』
『いえ』
『そうですかぁ。ガッちゃんはいざとなると照れ屋だからなぁ』

 ふふふ、と楽しそうに笑う有栖に不安が募る。もしかすると。あんな変人黒崎と付き合えるくらいだから、有栖だって感覚がずれている可能性は大いにある。気を失った黒崎を見ても全く驚いた様子もなかったし。まともに会話ができるだろうか。

『とりあえず、黒崎さんは酉井がお部屋までお運びします』
『あ、そうですか? ありがとうございます。俺だとガッちゃん大きすぎて運ぶの大変なんで』
『それでは、有栖さんはこちらに残って、私とお話していただけますか?』
『はい。わかりました』
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