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Just the beginning ⑳

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 デスクに置いておいた携帯が鳴った。画面で相手を確認して電話に出る。

「はい」
『……章良くん? 大丈夫? めちゃくちゃ機嫌悪いじゃん』
「悪いなんてもんじゃない。最低最悪」
『どうしたの?』
「話すと長くなるから後でな」
『うん……。あ、頼まれてた件、調べたよ』
「どうだった?」
『やっぱり、章良くんが思ったとおりだった。今回の依頼、向こうの正式なルートからの依頼じゃなかった。クライアント個人で勝手に依頼したみたい』
「……だろうな」
『……何かあったの?』
「まあ、それを裏づけるようなことがな」
『そうなの? なんか、その、黒崎って人、よく困らせてるみたいでさ。警護してても、勝手に抜け出してどっか行ったり、我儘し放題らしいよ。普段向こうで警護してるエージェントに問い合わせたけど、相当困ってるみたいだった』
「……だろうな」
『しょっちゅう日本に黙って来てたみたいだし。何の目的かはわかんないけど。ああ、あと、名前わかったからそこから調べてみたんだけどさ。アメリカでの経歴で、その人、軍所属だったこともあるみたい』
「軍?」
『うん。特殊技能兵として所属してた記録があった。数年で辞めてるけど。その後は研究一本になったみたいだけどね』
「特殊技能って……そしたら軍医としてってことか?」
『たぶん。あと科学者としても』
「そうか……」

 これで納得がいった。あの素人ではない動きは、軍での訓練を受けていたからだったのか。

「尚人」
『何?』
「この依頼、途中辞退したいんだけど」
『ええ?? だって、章良くん、これ、報酬凄いよ』
「うん、わかってるけど。別に警護する必要ないから、あいつ」
『あいつって……。ほんと、何があったの?』
「お前、明日の朝、こっち来れるか? そんとき、詳しいことは説明するわ。涼にはもう辞退の了承は得たから」
『え?? 涼ちゃん、了承したの?? 新しいPC買うって、あんなに張り切ってカタログ集めてたのに??』
「まあ……事情が変わったからな」
『ちょっと、気になるじゃん。なになに?』
「明日言うから。とにかくあいつじゃなくて、俺が要警護だから」
『要警護って……危険ってこと?』
「ある意味な」
『章良くんが?』
「そう。俺の貞操の危機」

 なにそれー?? とさらに追求しようとする尚人をなだめて電話を切った。ふうっ、と溜息を吐いて、ホテルのベッドへと腰かける。さきほど急いで綺麗にしたおかげで、自分の欲で汚れや匂いがつかずに済んだカーペットをじっと見る。

 カーペットを眺めていたら、1時間ほど前のあのゴタゴタが、再び記憶に蘇ってきた。
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