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Just the beginning ⑮
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同じホテルの下の階へとエレベーターで向かう。章良の部屋はもちろん、お手頃価格のシングルルームだった。自宅まで帰ることもできたが、次の朝早く交代する予定だったので、ホテルへ泊まったほうが良いだろうと考えたのだが、正解だった。我儘黒崎に振り回されて、精神的にも肉体的にも倒れる寸前だったからだ。
エレベーターを降りて部屋を向かおうと歩き出したが、どうしても煙草が吸いたくなって向きを変えた。最近控えていたのだが、今日は無性に吸いたい気分だった。ホテル近くのコンビニで煙草と夕食を買って、ホテルの屋外に設置されている喫煙所へ着くと、時間をかけて1本吸った。
吸う間、考えたくもないのに、今日の黒崎の傍若無人な行動が蘇ってきた。思わず顔をしかめる。
警護中にさりげなく探ったところ、2人の出身が関東地区ということはわかったが、なんせ黒崎の我儘が炸裂していたので、ほとんど探りを入れる余裕がなかった。
休暇、とは聞いていたが。聞いていたけども。黒崎(と有栖)の観光にあと1週間付き合わなければならないのはきつい。それに。さきほど涼にも触れたが、どうも今回の警護は不審な点がいくつかある。
章良は内ポケットから携帯を取り出して、尚人へと電話した。数コールで繋がる。
『章良くん? お疲れ』
「お疲れ」
『涼ちゃんと交代した?』
「ん。今、一服してんだけど」
『あれ。珍しいね、章良くん。もしかして、めちゃくちゃ大変だった?』
「地獄だったぞ」
『えーそうなの? 俺、明日、夜交代なのにそんなの聞いたら嫌だな~』
「夜は楽だわ、たぶん。遊園地にいかされることもないしな」
『……そう?』
なぜ遊園地? という疑問が沸いたような声で尚人が答えた。面倒だったのでそこの説明はせずに本題に入る。
「で。ちょっと聞きたいんだけど。クライアントのこと」
『うん、どうしたの?』
「名前、黒崎氷雅だったんだけど。どうも引っかかんだよ。観光で来てんのはわかってんだけど。警護つける必要あるのかって。ちょっとさ、依頼が来たルート、もう一度調べてくれねぇかな?」
『わかった。なるべく早く連絡するな』
「うん、頼むな」
『あ、章良くん』
「ん?」
『その、黒崎って言う人、イケメンだった?』
「……お前、涼と同じこと聞くのな」
『えー、だって、いつも文句言ってるから。おっさんばっかりだって』
「若い男前だったけど、俺の心をくすぐるタイプではなかった」
『ふーん。そうなんだ。残念だね』
「別にいいよ、仕事だし」
『そっかぁ。そしたら調べてみるね』
「ん、よろしく」
携帯をポケットに戻すと、短くなった煙草を灰皿に押しつけた。重い足を引きずりながらホテルの自室へと向かう。
歩きながら、今朝、空港で黒崎に会ったときのことを振り返る。あのとき、黒崎に感じたどこかで会ったような感覚。気のせいかと思っていたが、今日1日一緒に過ごして、度々同じ感覚が章良を襲った。感じる度、不思議と懐かしさのようなものが膨らんだ。その感覚は章良の中に残っているあるある感覚に似ていた。けれど、それが黒崎と結びつくとは突拍子もなさ過ぎてどうしても考えられなかった。
まさかな。
章良はふと沸いた可能性を素早く打ち消した。そんな偶然あるわけもない。疲れているから余計なことを考えてしまうのだ、きっと。とっとと部屋に戻って早く休もうと、疲れた足を無理やりに速めた。
このとき、章良は勤務時間外ということもあって完全に油断していた。いつもなら気づくような小さな違和感も察知できなかったのだ。
エレベーターを降りて部屋を向かおうと歩き出したが、どうしても煙草が吸いたくなって向きを変えた。最近控えていたのだが、今日は無性に吸いたい気分だった。ホテル近くのコンビニで煙草と夕食を買って、ホテルの屋外に設置されている喫煙所へ着くと、時間をかけて1本吸った。
吸う間、考えたくもないのに、今日の黒崎の傍若無人な行動が蘇ってきた。思わず顔をしかめる。
警護中にさりげなく探ったところ、2人の出身が関東地区ということはわかったが、なんせ黒崎の我儘が炸裂していたので、ほとんど探りを入れる余裕がなかった。
休暇、とは聞いていたが。聞いていたけども。黒崎(と有栖)の観光にあと1週間付き合わなければならないのはきつい。それに。さきほど涼にも触れたが、どうも今回の警護は不審な点がいくつかある。
章良は内ポケットから携帯を取り出して、尚人へと電話した。数コールで繋がる。
『章良くん? お疲れ』
「お疲れ」
『涼ちゃんと交代した?』
「ん。今、一服してんだけど」
『あれ。珍しいね、章良くん。もしかして、めちゃくちゃ大変だった?』
「地獄だったぞ」
『えーそうなの? 俺、明日、夜交代なのにそんなの聞いたら嫌だな~』
「夜は楽だわ、たぶん。遊園地にいかされることもないしな」
『……そう?』
なぜ遊園地? という疑問が沸いたような声で尚人が答えた。面倒だったのでそこの説明はせずに本題に入る。
「で。ちょっと聞きたいんだけど。クライアントのこと」
『うん、どうしたの?』
「名前、黒崎氷雅だったんだけど。どうも引っかかんだよ。観光で来てんのはわかってんだけど。警護つける必要あるのかって。ちょっとさ、依頼が来たルート、もう一度調べてくれねぇかな?」
『わかった。なるべく早く連絡するな』
「うん、頼むな」
『あ、章良くん』
「ん?」
『その、黒崎って言う人、イケメンだった?』
「……お前、涼と同じこと聞くのな」
『えー、だって、いつも文句言ってるから。おっさんばっかりだって』
「若い男前だったけど、俺の心をくすぐるタイプではなかった」
『ふーん。そうなんだ。残念だね』
「別にいいよ、仕事だし」
『そっかぁ。そしたら調べてみるね』
「ん、よろしく」
携帯をポケットに戻すと、短くなった煙草を灰皿に押しつけた。重い足を引きずりながらホテルの自室へと向かう。
歩きながら、今朝、空港で黒崎に会ったときのことを振り返る。あのとき、黒崎に感じたどこかで会ったような感覚。気のせいかと思っていたが、今日1日一緒に過ごして、度々同じ感覚が章良を襲った。感じる度、不思議と懐かしさのようなものが膨らんだ。その感覚は章良の中に残っているあるある感覚に似ていた。けれど、それが黒崎と結びつくとは突拍子もなさ過ぎてどうしても考えられなかった。
まさかな。
章良はふと沸いた可能性を素早く打ち消した。そんな偶然あるわけもない。疲れているから余計なことを考えてしまうのだ、きっと。とっとと部屋に戻って早く休もうと、疲れた足を無理やりに速めた。
このとき、章良は勤務時間外ということもあって完全に油断していた。いつもなら気づくような小さな違和感も察知できなかったのだ。
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