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Just the beginning ⑨

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 空港特有の雑多な空気が漂う中、急ぎ足で特別ゲートへと向かう。仕事着のシンプルな黒のスーツを身に纏うと、自然と気持ちが引き締まる。

 今朝、自宅を出るときの、涼の不機嫌極まりない顔を思い出す。涼が不機嫌になるのも無理はない。自分たちの休暇が台無しになった上に、その台無しにした張本人は休暇で日本にやってくるのだから。

 休暇だろうとなんだろうと、警護が必要な人物には、誰かがつかねばならない。なぜ章良が指名されたのかは不明だが、エージェントが言うには、日頃の実績をデーターで見てぜひということだったらしい。しかし、どうも納得がいかない。日本人とはいえ、海外からのクライアントならば、章良よりも経験が豊富なBGがいるだろうに。

 章良は一応、英会話を身につけてはいるが、あまり得意としていない。このクライアントがどれだけ日本語でのコミュニケーションを必要としているかもわからないが、総合的に考えて、章良が指名されるのは不自然だ。しかも1人だけ。まあ、確かに、予算や状況によって、1人体勢のこともあるが、今回のクライアントは金には困ってないようだし。色々と不可解なところが多い。

 尚人たちもその辺りが腑に落ちないらしく、章良の身を案じて、章良と交代制で尚人たちも警護できるよう交渉してくれた。元々章良だけで24時間警護するのは不可能なので、クライアント側も了承してはくれた。しかしその代わりに、章良が警護する時間帯は必ず昼間にして欲しい、という変な条件を提示された。

『怪しくね?』

 涼が眉を潜めて呟いた。

『章良くん、気をつけてね』

 尚人も心配そうに章良に声をかけてきた。

 まあ、とりあえず。何か身の危険等を感じたら、回避する心構えだけはしておこう。なるようになるだろう。章良は持ち前のポジティブさでこの依頼を引き受けた。
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