48 / 58
とっておきのI Love You(クローバー続編)
走る
しおりを挟む
靴を履かぬまま、ひたすら走った。汗が流れ落ちて、息が上がる。すれ違う人たちが不思議そうな顔で自分を見ているが気にしている余裕などなかった。
ただ、あの場所からできる限り離れたくて。道も分からないまま、ただやみくもに走った。
「うわっ」
何かに躓いて思いっ切り転ぶ。ゆっくりと体を起こして周りを見る。大きな公園の中にいた。
「あの……大丈夫ですか?」
並木道のど真ん中で派手に転んだ亜貴に、通行人がおそるおそる声をかけてきた。子供連れの母親だった。手を繋がれた小さな子供も心配そうな顔でこちらを見ていた。
「……大丈夫です。ちょっと、急いでたんで……」
そう言って、立ち上がって靴を履いた。その母親が、これどうぞ、とウェットティッシュを差し出してきたので、有り難く受け取る。そのティッシュで汚れた手と顔を拭いた。掌と顔に擦り傷ができたらしく少ししみた。
「良かったら絆創膏もありますけど……」
「あ、大丈夫です。もう家に帰るところなんで」
「そうですか」
「ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をしてお礼をする。母親はにこりと笑って、じゃあ、と子供の手を引いて去っていった。その姿を見送っていると。手を引かれていた子供が突然ぴたりと足を止めた。くるりと振り返ると、こちらへ急いでかけてくる。どうしたのだろう?とその動きを見ていると。
「お兄ちゃん。これ、あげる」
そう言って、何かを差し出された。よく見ると、飴だった。
「飴ちゃんくれるん?」
「おん。だって、お兄ちゃん、痛かったやろ? ママがな、いつも痛い時には飴ちゃんくれんねん。そうすると元気が出るからって」
「これ、ええの? もらって」
「ええよ。俺、今日は飴ちゃんなくても元気やから」
そう言って、その小さな男の子はニコリと笑った。
「……ありがとう。大事にいただくな」
「おん。じゃあねっ」
男の子が手を振って母親の方へと駆けていった。2人に向かって深々とお辞儀をする。
2人が見えなくなるまで後ろ姿を見送った。男の子が時々振り返って、その度に手を振ってくれた。
ただ、あの場所からできる限り離れたくて。道も分からないまま、ただやみくもに走った。
「うわっ」
何かに躓いて思いっ切り転ぶ。ゆっくりと体を起こして周りを見る。大きな公園の中にいた。
「あの……大丈夫ですか?」
並木道のど真ん中で派手に転んだ亜貴に、通行人がおそるおそる声をかけてきた。子供連れの母親だった。手を繋がれた小さな子供も心配そうな顔でこちらを見ていた。
「……大丈夫です。ちょっと、急いでたんで……」
そう言って、立ち上がって靴を履いた。その母親が、これどうぞ、とウェットティッシュを差し出してきたので、有り難く受け取る。そのティッシュで汚れた手と顔を拭いた。掌と顔に擦り傷ができたらしく少ししみた。
「良かったら絆創膏もありますけど……」
「あ、大丈夫です。もう家に帰るところなんで」
「そうですか」
「ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をしてお礼をする。母親はにこりと笑って、じゃあ、と子供の手を引いて去っていった。その姿を見送っていると。手を引かれていた子供が突然ぴたりと足を止めた。くるりと振り返ると、こちらへ急いでかけてくる。どうしたのだろう?とその動きを見ていると。
「お兄ちゃん。これ、あげる」
そう言って、何かを差し出された。よく見ると、飴だった。
「飴ちゃんくれるん?」
「おん。だって、お兄ちゃん、痛かったやろ? ママがな、いつも痛い時には飴ちゃんくれんねん。そうすると元気が出るからって」
「これ、ええの? もらって」
「ええよ。俺、今日は飴ちゃんなくても元気やから」
そう言って、その小さな男の子はニコリと笑った。
「……ありがとう。大事にいただくな」
「おん。じゃあねっ」
男の子が手を振って母親の方へと駆けていった。2人に向かって深々とお辞儀をする。
2人が見えなくなるまで後ろ姿を見送った。男の子が時々振り返って、その度に手を振ってくれた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
年上の恋人は優しい上司
木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。
仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。
基本は受け視点(一人称)です。
一日一花BL企画 参加作品も含まれています。
表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!!
完結済みにいたしました。
6月13日、同人誌を発売しました。
「短冊に秘めた願い事」
悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。
落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。
……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。
残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。
なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。
あれ? デート中じゃないの?
高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡
本編は4ページで完結。
その後、おまけの番外編があります♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる