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クローバー
決断 ①
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文化祭が終わると、3年生はすっかり受験モードと変わった。それぞれが自分の進路に向けて真剣に向き合う時期となり、どこでもその話題で持ちきりだった。
「津田」
担任に呼ばれて顔を上げる。放課後、進路指導な、と言われて頷いた。その様子を見ていた哲夫が尋ねてきた。
「どうしたん? お前、なんか問題あったん? 進路に」
「いや、ちゃうねん」
「そしたらなに?」
「……希望の大学、変えよう思うてんねん」
「え? そうなん?」
「おん。地元に残ろうかと思うてたんやけど。県外も受けて見ようかと思うて」
「なんで急に変えたん?」
「……特に理由はないねんけど。急に他の場所もええかなと思うただけで」
「ふーん。そうなんや」
特に疑問にも思っていない様子で哲夫が答えた。哲夫は大学進学希望者が多いこの学校には珍しく、進学せずに親の経営する小さなスーパーを手伝うことに決めていた。なので、他人の進路にはそんなに興味はないのだろう。買っておいたサンドイッチを一切れ全て口に放り込んで美味そうに咀嚼している。哲也の視線の先に、たまたま教室に入ってきた由美が飛び込んできたようだった。
「なあ……」
「ん?」
「何回も聞くけどなぁ。お前、なんで由美ちゃんと別れたん?」
「……言うたやん、俺が振られたんやって」
「嘘つけ」
「…………」
「他のやつはだませても、俺はだませへんで。由美ちゃん、なんやかんやでお前に惚れとったやん」
「それはないんちゃう?」
「なんでや」
「あっさりやったで、結構」
「そんなん、そうするしかなかったんやろ? 別れよ言われて、ぐずるような女ちゃうやろ」
「まあ……」
文化祭が終わってすぐ。俺から由美に別れを告げた。もうこれ以上、由美も自分自身も騙し通すことはできないと思ったし、由美への罪悪感が強くなる一方だったからだった。
『……分かった』
別れよう。そう言った俺に、由美はいつもと変わらない冷静な表情と声音でそう答えた。
『ほんま、ごめん』
『謝らんでもええよ。なんとなく分かってたし』
『…………』
『じゃあ』
学校の帰り道。由美はいつも別れる時と同じように、少し微笑んであっさりと帰っていった。
「津田」
担任に呼ばれて顔を上げる。放課後、進路指導な、と言われて頷いた。その様子を見ていた哲夫が尋ねてきた。
「どうしたん? お前、なんか問題あったん? 進路に」
「いや、ちゃうねん」
「そしたらなに?」
「……希望の大学、変えよう思うてんねん」
「え? そうなん?」
「おん。地元に残ろうかと思うてたんやけど。県外も受けて見ようかと思うて」
「なんで急に変えたん?」
「……特に理由はないねんけど。急に他の場所もええかなと思うただけで」
「ふーん。そうなんや」
特に疑問にも思っていない様子で哲夫が答えた。哲夫は大学進学希望者が多いこの学校には珍しく、進学せずに親の経営する小さなスーパーを手伝うことに決めていた。なので、他人の進路にはそんなに興味はないのだろう。買っておいたサンドイッチを一切れ全て口に放り込んで美味そうに咀嚼している。哲也の視線の先に、たまたま教室に入ってきた由美が飛び込んできたようだった。
「なあ……」
「ん?」
「何回も聞くけどなぁ。お前、なんで由美ちゃんと別れたん?」
「……言うたやん、俺が振られたんやって」
「嘘つけ」
「…………」
「他のやつはだませても、俺はだませへんで。由美ちゃん、なんやかんやでお前に惚れとったやん」
「それはないんちゃう?」
「なんでや」
「あっさりやったで、結構」
「そんなん、そうするしかなかったんやろ? 別れよ言われて、ぐずるような女ちゃうやろ」
「まあ……」
文化祭が終わってすぐ。俺から由美に別れを告げた。もうこれ以上、由美も自分自身も騙し通すことはできないと思ったし、由美への罪悪感が強くなる一方だったからだった。
『……分かった』
別れよう。そう言った俺に、由美はいつもと変わらない冷静な表情と声音でそう答えた。
『ほんま、ごめん』
『謝らんでもええよ。なんとなく分かってたし』
『…………』
『じゃあ』
学校の帰り道。由美はいつも別れる時と同じように、少し微笑んであっさりと帰っていった。
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