クローバー

文字の大きさ
上 下
2 / 58
クローバー

いつもの朝 ①

しおりを挟む
  洋介ようすけ洋介っ、と自分の名前を呼び続ける母親の声を無視し、布団の中に少しでも長く留まろうと粘る。俺、津田洋介つだようすけはほんまに朝が弱い。どっかの低血圧のOLみたいにしばらくだらだらしないと起きることができないのだ。

 飯よりも睡眠を選ぶ。まあ、食べることも好きだけど。どうしても腹減ったら、哲夫(いつも人の3倍ぐらいの量の弁当を持ってくる友人)の弁当食えばいいし。

 高校最後の年も3学期となり、受験モードの学生も多くなったせいか、学校生活もそんなに刺激がない。部活動も引退してしまったし、他に楽しみもないのでもうこのまま今日は休んでやろうかと掛け布団を頭まで被ったところで、自室のドアが開かれる音が聞こえた。

 来たわ。

「洋介」

 聞き慣れた声が上から降ってきた。毎日毎日、ブレもせずに俺を迎えに来る、隣に住む幼馴染み。どうせ抵抗しても最終的には学校に連れて行かれることは知っていたので、早々に諦めて布団から顔を出した。

工藤亜貴くどうあきがいつもの笑顔で立っていた。ニコリと笑って挨拶される。

「おはよう」
「……はよ」
「はよ起きろや。またギリギリになんで。俺の皆勤賞がかかってんねんから」
「……行くのめんどいねんけど」
「あかんよ。学校行くんは学生の義務やろ」
「なにそれ。誰が決めたん?」
「俺」

 はいはい、起きて~。そう言いながら布団を剥がされた。

「もう~」

 ぶつぶつ言いながらも起き上がる。亜貴がクローゼットにかかっていた制服をさっさと取り出して寄こしてきた。渋々とそれを受け取って着替え始める。その様子をじっと見ている視線に気が付いて顔を亜貴へと向けた。

「何?」
「ん? いや、なんか、洋介、また伸びた? 背」
「ああ……分からんけど、伸びたかも」
「どこまで伸びるんやろ?」
「どうやろうなぁ? もうそない伸びひんのちゃう? 言うても」
「ええなぁ。俺にその数センチ分けて欲しいわ」
「分けられるもんなら分けてやりたいけどな」

 そう言って、俺よりも20センチほど下にある亜貴の顔を見た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幸せのカタチ

杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。 拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

アルファとアルファの結婚準備

金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。  😏ユルユル設定のオメガバースです。 

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...