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クローバー
プロローグ
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ぱちりと目を開けた。いつものバナナ組の教室の天井が見える。リナ先生に、お昼寝の時間やで、って言われてマットにごろんってしてみたけど。今日はなんでか眠くならへん。いつもやったら、ごろんってしたらすぐ起きる時間になってんのに。
こっそりと、顔を横に向けた。先生に気づかれんように、ゆっくり。そこに寝てるはずのアキをかくにんするために。やけど。
おらへん。
アキはそこにいなかった。セミの抜け殻みたいに、マットの上のブランケットがぽっかりと丸くなったまま、中は空っぽだった。
きょろきょろと見回すと、先生も教室におらへんかった。そっとブランケットを剥いで、他のみんなを踏まないように気をつけながらお昼寝タイムから抜け出す。靴を履いて、外へと出た。
アキを探しに園庭をうろうろ歩く。アキが行くところは知ってんねん。大抵、動物がおるところか、草があるところ。
ウサギ小屋にはおらへんかった。小屋の前を素通りして、野菜畑の方へいく。
おった。
じゃがいもとか、さつまいもとかが植えてある野菜畑の手前の小さな草むら。そこに後ろ向きでアキがしゃがんどった。おどかしたろ、とそっとアキに近付いた。
『アキっ!!』
真後ろに立っておっきい声で話しかけた。やけど、アキはびっくりもせんとしゃがんだまま普通に振り返った。
『ヨウちゃん』
『……なんでびっくりせえへんねん』
『ふふっ。やって、ヨウちゃんの匂いがしたで』
『匂い?』
『おん。なんかなぁ、花みたいな匂い』
そう言われて、くんくんと自分の体を匂ってみるけど、全然花の匂いなんてせえへんかった。
『なんも匂わへん』
『ヨウちゃんには分からへんねんで。自分の匂いやから』
『そうなん?』
『おん』
そう言って、アキは立ち上がってこっちを向いた。軽く体を曲げて近づいてきて胸元でくんくんと鼻を鳴らした。
どきん、と体が音を立てた。そう気づいたら、そのどきんが止まらへんくなった。
どきん。どきん。どきん。どきん。
どうしたんやろ??病気になったんやろか?
止まれっ、と思うてぎゅっと両手を握り締めるけど、どきんはますます大きくなった。
アキがめっちゃ近くでこちらを見上げてニコリと笑った。
『ヨウちゃんにプレゼントあんねん』
『プレゼント?』
『これ』
そう言って、アキが掌をこちらに向けてきた。その小さな掌には。
『これなに?』
『クローバーやで。四つ葉やねん』
『クローバー? 四つ葉?』
『おん。これを見つけるとなぁ、幸せになれるねんで。おかんが言うてた』
『そうなん?』
『そうやで。やから、ヨウちゃんにあげるわ』
『え?? ええの? やって、アキが見つけたんやろ?』
『ええねん。1個持ってんねん。家に』
はい。そう言って、アキが掌を更に近づけてきた。
『……ありがとう』
お礼を言って、四つ葉のクローバーを受け取った。どきんどきんはさっきよりは小さくなったけれど、まだ止まらない。
アキが嬉しそうに、あったかい太陽みたいに笑った。
どきんは、また大きく早くなって、先生が呼びにくるまで、ずっとずっと体の中で鳴り響いとった。
あの時の自分は小さすぎて気づかなかったけど。あの瞬間に。俺は、アキに惚れたんやと思う。
男のあいつに。男だと知らずに。
こっそりと、顔を横に向けた。先生に気づかれんように、ゆっくり。そこに寝てるはずのアキをかくにんするために。やけど。
おらへん。
アキはそこにいなかった。セミの抜け殻みたいに、マットの上のブランケットがぽっかりと丸くなったまま、中は空っぽだった。
きょろきょろと見回すと、先生も教室におらへんかった。そっとブランケットを剥いで、他のみんなを踏まないように気をつけながらお昼寝タイムから抜け出す。靴を履いて、外へと出た。
アキを探しに園庭をうろうろ歩く。アキが行くところは知ってんねん。大抵、動物がおるところか、草があるところ。
ウサギ小屋にはおらへんかった。小屋の前を素通りして、野菜畑の方へいく。
おった。
じゃがいもとか、さつまいもとかが植えてある野菜畑の手前の小さな草むら。そこに後ろ向きでアキがしゃがんどった。おどかしたろ、とそっとアキに近付いた。
『アキっ!!』
真後ろに立っておっきい声で話しかけた。やけど、アキはびっくりもせんとしゃがんだまま普通に振り返った。
『ヨウちゃん』
『……なんでびっくりせえへんねん』
『ふふっ。やって、ヨウちゃんの匂いがしたで』
『匂い?』
『おん。なんかなぁ、花みたいな匂い』
そう言われて、くんくんと自分の体を匂ってみるけど、全然花の匂いなんてせえへんかった。
『なんも匂わへん』
『ヨウちゃんには分からへんねんで。自分の匂いやから』
『そうなん?』
『おん』
そう言って、アキは立ち上がってこっちを向いた。軽く体を曲げて近づいてきて胸元でくんくんと鼻を鳴らした。
どきん、と体が音を立てた。そう気づいたら、そのどきんが止まらへんくなった。
どきん。どきん。どきん。どきん。
どうしたんやろ??病気になったんやろか?
止まれっ、と思うてぎゅっと両手を握り締めるけど、どきんはますます大きくなった。
アキがめっちゃ近くでこちらを見上げてニコリと笑った。
『ヨウちゃんにプレゼントあんねん』
『プレゼント?』
『これ』
そう言って、アキが掌をこちらに向けてきた。その小さな掌には。
『これなに?』
『クローバーやで。四つ葉やねん』
『クローバー? 四つ葉?』
『おん。これを見つけるとなぁ、幸せになれるねんで。おかんが言うてた』
『そうなん?』
『そうやで。やから、ヨウちゃんにあげるわ』
『え?? ええの? やって、アキが見つけたんやろ?』
『ええねん。1個持ってんねん。家に』
はい。そう言って、アキが掌を更に近づけてきた。
『……ありがとう』
お礼を言って、四つ葉のクローバーを受け取った。どきんどきんはさっきよりは小さくなったけれど、まだ止まらない。
アキが嬉しそうに、あったかい太陽みたいに笑った。
どきんは、また大きく早くなって、先生が呼びにくるまで、ずっとずっと体の中で鳴り響いとった。
あの時の自分は小さすぎて気づかなかったけど。あの瞬間に。俺は、アキに惚れたんやと思う。
男のあいつに。男だと知らずに。
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