One Night Stand

文字の大きさ
上 下
24 / 38

それが答え

しおりを挟む
 はい、着いた。そう言って、相良が数あるドアの1つで止まり、瑛斗を抱えたまま扉を開けた。

 浴室、と言うべきなのか。そこは、そこそこ広いマンションのリビングぐらいの大きさの部屋だった。その真ん中に洒落た感じの丸い浴槽が置かれている。その少し離れたところに、ガラス戸で仕切られた広いシャワールームがあり、窓際には、何人も同時に入れそうな大きなジャグジーが備え付けられていた。

 それに加えて、椅子やらテーブルやら、休憩用なのか高そうな家具が置かれていて、おまけにアロマの心地良い香りまでした。

 相良がそっと瑛斗を下ろした。咄嗟に相良から距離を取る。

「ほら、瑛斗、脱いで」
「嫌だ!」
「なんで? ほんとに風邪ひくよ」
「ひとりにさせてくれ。そしたら脱ぐから」
「ダメだって。今日1日は文句言わずに俺の言うことなんでも聞く約束だろ?」
「……おい。文句言わねー条件は呑んだけど、お前の言うことなんでも聞くなんて言った覚えないぞ」
「どっちも一緒じゃん。文句言わねーんだろ? だったら脱いで」
「文句言わねーのと、要求をなんでも飲むのは違うだろ?」
「違くないよ。一緒だって」
「一緒じゃない!」
「この期に及んで頑固だな、瑛斗は」

 相良が呆れたような顔をして瑛斗を見た。そして、そのまま瑛斗のほうへ距離を縮めてくる。瑛斗は今こそ貞操の危機だと実感して、あとずさりした。しかし、そのままどんどん追い詰められて、最終的に浴室の壁際まできてしまい後がなくなる。

 どんっ、と相良の両手が瑛斗の顔の真横に押し付けられた。

 まさか、男に壁ドンされるなんて思ってもなかった。

 あ、でも女にされたこともないか、と心の中でぼんやり考えるが、すぐに現実に引き戻される。

 うわーっ。

 相良がぐっと顔を近づけてきた。目の前でじっと瑛斗の目を見つめる。

「瑛斗……。もう、覚悟してんじゃねーの?」
「覚悟って……なんの?」
「俺と、ヤるんだろ?」
「……ヤんない」
「そう? 俺は、てっきりあの時に、瑛斗は覚悟してくれたのかと思ったけど」
「あの時?」
「船で。俺、あの時に瑛斗に選択与えただろ」
「…………」

 痛いところをつかれて黙った。確かに、あの船での会話で、相良は『要求』ではなく、瑛斗に『選択』をくれた。あの時、自分が拒否をしていれば、きっと相良はそのままホテルに瑛斗を送り届けてくれただろう。

 瑛斗は自分から、残ることを、相良と一緒にいることを選んだのだ。

「……瑛斗」

 妙に艶っぽい声で名前を呼ばれて、ビクッと体が震えた。綺麗で、色気を含んだ、相良の瞳。その薄茶色の瞳から自分の目を逸らせない。

「そしたら、ほんとはすっげえ嫌だけど、もう一度だけ選択権やるわ。本気で嫌がる瑛斗と無理やりするような趣味もないし。いや、ほんとは、ちょっと嫌がる瑛斗を見て見たい気もするけど、襲わないって約束もしたし」

 どっちだよ、とツッコむ気力は残されていなかった。ただ、相良の目をじっと見つめて、その言葉を待つ。

「俺は無理やりはしたくない。だから。瑛斗が決めたらいい。嫌だったら、このままホテルまで送っていく。でも……今、首を縦に振るなら……」

 相良の目に欲が現れる。その獣のような目に、自分が狩られる直前のヌーかなにかになったような気がして、瑛斗の鼓動が一気に早くなる。緊張からなのか恐怖からなのか手が微かに震え出した。

「もう待ったはない。俺は瑛斗を抱く」

長い沈黙が訪れた。見つめ合ったまま、ふたりとも動かない。瑛斗はゆっくりと目を閉じて俯いた。

 ああもう。しょーがねーな。

 閉じた目を再び開いて顔を上げた。相良から視線を逸らして、そのままなにも言わずに濡れた服を脱いでいく。相良の視線を感じながら、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと。時間をかけて。

「……それが、瑛斗の答え?」

 全裸になって相良の目の前に立った。じっと相良を見つめる。

 もう迷いはない。きっと、覚悟なんてとうの昔にできていたのだ。相良の言うとおり、あの船の上で、残ることを選択した時に。いや、もしかしたら、相良と出会った瞬間に。ただ、認めるのが怖くて逃げていただけだ。どうしようもなく、相良に惹かれていく自分に。

 認めてしまったら、辛くなるのはわかっているから。この一晩の関係に、始まりも終わりもない。どうしたって交わることのないふたりが、偶然に交わってしまった。それだけ。

 けれど。もう誤魔化しても仕方がない。瑛斗は自分の奥底に生まれた感情を素直に認めることにした。

 俺は、こいつに触れたかった。

 こいつに、惚れてしまった。

『……それが、瑛斗の答え?』

 その相良の最終通告のような問いかけに、瑛斗は自ら唇を相良の唇に重ねて、応えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

隣の家

午後野つばな
BL
源が俺のこと好きになればいいのにーー。 あらすじ  宇野篤郎(うの あつろう)の隣人、日高源(ひだか はじめ)は著名な画家だ。   ひとの心をつかむような絵をまるで息をするように自然に描くことができ、そのくせ絵のこと以外は何もできない、むしろ何もする気がないろくでなし。人好きのする穏やかな笑みを浮かべているくせに、基本他人には興味がなく、ときに残酷なほど冷酷に振る舞える三十過ぎの隣人の中年男に、篤郎はもう長いこと初恋をこじらせているのだった……。 子ども扱いされたくない。けれど自分たちの間にある差はそう簡単には埋めることはできなくてーー。  若いからこそ無謀とも言える勢いと強さとを持つ高校生の主人公と、大人になってしまったからこそ臆病になる大人のずるさ。   二回り年の離れたふたりのじれったいほどの恋物語です。 すてきなイラストはShivaさん(@kiringo69)よりいただきました。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

スノードロップに触れられない

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙* 題字&イラスト:niia 様 ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) アルファだから評価され、アルファだから期待される世界。 先天性のアルファとして生まれた松葉瀬陸真(まつばせ りくま)は、根っからのアルファ嫌いだった。 そんな陸真の怒りを鎮めるのは、いつだって自分よりも可哀想な存在……オメガという人種だ。 しかし、その考えはある日突然……一変した。 『四月から入社しました、矢車菊臣(やぐるま きくおみ)です。一応……先に言っておきますけど、ボクはオメガ性でぇす。……あっ。だからって、襲ったりしないでくださいねぇ?』 自分よりも楽観的に生き、オメガであることをまるで長所のように語る後輩……菊臣との出会い。 『職場のセンパイとして、人生のセンパイとして。後輩オメガに、松葉瀬センパイが知ってる悪いこと……全部、教えてください』 挑発的に笑う菊臣との出会いが、陸真の人生を変えていく。 周りからの身勝手な評価にうんざりし、ひねくれてしまった青年アルファが、自分より弱い存在である筈の後輩オメガによって変わっていくお話です。 可哀想なのはオメガだけじゃないのかもしれない。そんな、他のオメガバース作品とは少し違うかもしれないお話です。 自分勝手で俺様なアルファ嫌いの先輩アルファ×飄々としているあざと可愛い毒舌後輩オメガ でございます!! ※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※不定期で番外編を更新する場合が御座います。 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

処理中です...