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それが答え
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はい、着いた。そう言って、相良が数あるドアの1つで止まり、瑛斗を抱えたまま扉を開けた。
浴室、と言うべきなのか。そこは、そこそこ広いマンションのリビングぐらいの大きさの部屋だった。その真ん中に洒落た感じの丸い浴槽が置かれている。その少し離れたところに、ガラス戸で仕切られた広いシャワールームがあり、窓際には、何人も同時に入れそうな大きなジャグジーが備え付けられていた。
それに加えて、椅子やらテーブルやら、休憩用なのか高そうな家具が置かれていて、おまけにアロマの心地良い香りまでした。
相良がそっと瑛斗を下ろした。咄嗟に相良から距離を取る。
「ほら、瑛斗、脱いで」
「嫌だ!」
「なんで? ほんとに風邪ひくよ」
「ひとりにさせてくれ。そしたら脱ぐから」
「ダメだって。今日1日は文句言わずに俺の言うことなんでも聞く約束だろ?」
「……おい。文句言わねー条件は呑んだけど、お前の言うことなんでも聞くなんて言った覚えないぞ」
「どっちも一緒じゃん。文句言わねーんだろ? だったら脱いで」
「文句言わねーのと、要求をなんでも飲むのは違うだろ?」
「違くないよ。一緒だって」
「一緒じゃない!」
「この期に及んで頑固だな、瑛斗は」
相良が呆れたような顔をして瑛斗を見た。そして、そのまま瑛斗のほうへ距離を縮めてくる。瑛斗は今こそ貞操の危機だと実感して、あとずさりした。しかし、そのままどんどん追い詰められて、最終的に浴室の壁際まできてしまい後がなくなる。
どんっ、と相良の両手が瑛斗の顔の真横に押し付けられた。
まさか、男に壁ドンされるなんて思ってもなかった。
あ、でも女にされたこともないか、と心の中でぼんやり考えるが、すぐに現実に引き戻される。
うわーっ。
相良がぐっと顔を近づけてきた。目の前でじっと瑛斗の目を見つめる。
「瑛斗……。もう、覚悟してんじゃねーの?」
「覚悟って……なんの?」
「俺と、ヤるんだろ?」
「……ヤんない」
「そう? 俺は、てっきりあの時に、瑛斗は覚悟してくれたのかと思ったけど」
「あの時?」
「船で。俺、あの時に瑛斗に選択与えただろ」
「…………」
痛いところをつかれて黙った。確かに、あの船での会話で、相良は『要求』ではなく、瑛斗に『選択』をくれた。あの時、自分が拒否をしていれば、きっと相良はそのままホテルに瑛斗を送り届けてくれただろう。
瑛斗は自分から、残ることを、相良と一緒にいることを選んだのだ。
「……瑛斗」
妙に艶っぽい声で名前を呼ばれて、ビクッと体が震えた。綺麗で、色気を含んだ、相良の瞳。その薄茶色の瞳から自分の目を逸らせない。
「そしたら、ほんとはすっげえ嫌だけど、もう一度だけ選択権やるわ。本気で嫌がる瑛斗と無理やりするような趣味もないし。いや、ほんとは、ちょっと嫌がる瑛斗を見て見たい気もするけど、襲わないって約束もしたし」
どっちだよ、とツッコむ気力は残されていなかった。ただ、相良の目をじっと見つめて、その言葉を待つ。
「俺は無理やりはしたくない。だから。瑛斗が決めたらいい。嫌だったら、このままホテルまで送っていく。でも……今、首を縦に振るなら……」
相良の目に欲が現れる。その獣のような目に、自分が狩られる直前のヌーかなにかになったような気がして、瑛斗の鼓動が一気に早くなる。緊張からなのか恐怖からなのか手が微かに震え出した。
「もう待ったはない。俺は瑛斗を抱く」
長い沈黙が訪れた。見つめ合ったまま、ふたりとも動かない。瑛斗はゆっくりと目を閉じて俯いた。
ああもう。しょーがねーな。
閉じた目を再び開いて顔を上げた。相良から視線を逸らして、そのままなにも言わずに濡れた服を脱いでいく。相良の視線を感じながら、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと。時間をかけて。
「……それが、瑛斗の答え?」
全裸になって相良の目の前に立った。じっと相良を見つめる。
もう迷いはない。きっと、覚悟なんてとうの昔にできていたのだ。相良の言うとおり、あの船の上で、残ることを選択した時に。いや、もしかしたら、相良と出会った瞬間に。ただ、認めるのが怖くて逃げていただけだ。どうしようもなく、相良に惹かれていく自分に。
認めてしまったら、辛くなるのはわかっているから。この一晩の関係に、始まりも終わりもない。どうしたって交わることのないふたりが、偶然に交わってしまった。それだけ。
けれど。もう誤魔化しても仕方がない。瑛斗は自分の奥底に生まれた感情を素直に認めることにした。
俺は、こいつに触れたかった。
こいつに、惚れてしまった。
『……それが、瑛斗の答え?』
その相良の最終通告のような問いかけに、瑛斗は自ら唇を相良の唇に重ねて、応えた。
浴室、と言うべきなのか。そこは、そこそこ広いマンションのリビングぐらいの大きさの部屋だった。その真ん中に洒落た感じの丸い浴槽が置かれている。その少し離れたところに、ガラス戸で仕切られた広いシャワールームがあり、窓際には、何人も同時に入れそうな大きなジャグジーが備え付けられていた。
それに加えて、椅子やらテーブルやら、休憩用なのか高そうな家具が置かれていて、おまけにアロマの心地良い香りまでした。
相良がそっと瑛斗を下ろした。咄嗟に相良から距離を取る。
「ほら、瑛斗、脱いで」
「嫌だ!」
「なんで? ほんとに風邪ひくよ」
「ひとりにさせてくれ。そしたら脱ぐから」
「ダメだって。今日1日は文句言わずに俺の言うことなんでも聞く約束だろ?」
「……おい。文句言わねー条件は呑んだけど、お前の言うことなんでも聞くなんて言った覚えないぞ」
「どっちも一緒じゃん。文句言わねーんだろ? だったら脱いで」
「文句言わねーのと、要求をなんでも飲むのは違うだろ?」
「違くないよ。一緒だって」
「一緒じゃない!」
「この期に及んで頑固だな、瑛斗は」
相良が呆れたような顔をして瑛斗を見た。そして、そのまま瑛斗のほうへ距離を縮めてくる。瑛斗は今こそ貞操の危機だと実感して、あとずさりした。しかし、そのままどんどん追い詰められて、最終的に浴室の壁際まできてしまい後がなくなる。
どんっ、と相良の両手が瑛斗の顔の真横に押し付けられた。
まさか、男に壁ドンされるなんて思ってもなかった。
あ、でも女にされたこともないか、と心の中でぼんやり考えるが、すぐに現実に引き戻される。
うわーっ。
相良がぐっと顔を近づけてきた。目の前でじっと瑛斗の目を見つめる。
「瑛斗……。もう、覚悟してんじゃねーの?」
「覚悟って……なんの?」
「俺と、ヤるんだろ?」
「……ヤんない」
「そう? 俺は、てっきりあの時に、瑛斗は覚悟してくれたのかと思ったけど」
「あの時?」
「船で。俺、あの時に瑛斗に選択与えただろ」
「…………」
痛いところをつかれて黙った。確かに、あの船での会話で、相良は『要求』ではなく、瑛斗に『選択』をくれた。あの時、自分が拒否をしていれば、きっと相良はそのままホテルに瑛斗を送り届けてくれただろう。
瑛斗は自分から、残ることを、相良と一緒にいることを選んだのだ。
「……瑛斗」
妙に艶っぽい声で名前を呼ばれて、ビクッと体が震えた。綺麗で、色気を含んだ、相良の瞳。その薄茶色の瞳から自分の目を逸らせない。
「そしたら、ほんとはすっげえ嫌だけど、もう一度だけ選択権やるわ。本気で嫌がる瑛斗と無理やりするような趣味もないし。いや、ほんとは、ちょっと嫌がる瑛斗を見て見たい気もするけど、襲わないって約束もしたし」
どっちだよ、とツッコむ気力は残されていなかった。ただ、相良の目をじっと見つめて、その言葉を待つ。
「俺は無理やりはしたくない。だから。瑛斗が決めたらいい。嫌だったら、このままホテルまで送っていく。でも……今、首を縦に振るなら……」
相良の目に欲が現れる。その獣のような目に、自分が狩られる直前のヌーかなにかになったような気がして、瑛斗の鼓動が一気に早くなる。緊張からなのか恐怖からなのか手が微かに震え出した。
「もう待ったはない。俺は瑛斗を抱く」
長い沈黙が訪れた。見つめ合ったまま、ふたりとも動かない。瑛斗はゆっくりと目を閉じて俯いた。
ああもう。しょーがねーな。
閉じた目を再び開いて顔を上げた。相良から視線を逸らして、そのままなにも言わずに濡れた服を脱いでいく。相良の視線を感じながら、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと。時間をかけて。
「……それが、瑛斗の答え?」
全裸になって相良の目の前に立った。じっと相良を見つめる。
もう迷いはない。きっと、覚悟なんてとうの昔にできていたのだ。相良の言うとおり、あの船の上で、残ることを選択した時に。いや、もしかしたら、相良と出会った瞬間に。ただ、認めるのが怖くて逃げていただけだ。どうしようもなく、相良に惹かれていく自分に。
認めてしまったら、辛くなるのはわかっているから。この一晩の関係に、始まりも終わりもない。どうしたって交わることのないふたりが、偶然に交わってしまった。それだけ。
けれど。もう誤魔化しても仕方がない。瑛斗は自分の奥底に生まれた感情を素直に認めることにした。
俺は、こいつに触れたかった。
こいつに、惚れてしまった。
『……それが、瑛斗の答え?』
その相良の最終通告のような問いかけに、瑛斗は自ら唇を相良の唇に重ねて、応えた。
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