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第八章 大精霊契約者vs.大精霊の親友

接敵

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 傭兵を乗せたゴーレム車と分かれ、アルティら四騎は道を外れ東へ向かった。
 ただでさえ馬に不慣れな少女は、足下が悪い荒れ地に難儀してしまう。
 リスティアは隣の国なのに、耕作地の外は土が剥き出し岩が転がる荒れ地である。
 乾燥地域ではないはずだが草が少なく、棘の多い藪がいくらか見えるばかりだ。
 風が吹けば砂塵が舞って視界を悪化させた。
 周辺警戒ついでにシルフたちが積極的に砂塵を巻き上げるので、道から見つかる心配はなさそうだ。

 とぼとぼ進む四人に、北から戻ったシルフが凶報をもたらした。
「帝国の騎兵、道以外を何組もやってくるぞ」
 アルティは息を詰まらせた。
 道を来た騎兵は、足下が良いので先行しただけらしい。
 事ここに至って、フォルティスはルークスに知らせる決断をした。
「たとえ傭兵がうまく立ち回ったところで、他の騎兵は誰にも止められることなく、友軍の背後を突くでしょう」
 伝言に「アルティは道を外れたから心配無用」を加えるよう、シルフに指示する。
 シルフを見送るなか、プレイクラウス卿がつぶやいた。
「敵本隊に目が行くあまり、後方警戒が手薄になってしまったか」
「兄上、いくらルークス卿にシルフの友達が多かろうと、六万五千の本隊と四方八方に散った偵察部隊の追跡で出払っていることを、ご理解ください」
「それは理解するがな、王都と陣地との間という『補給路』を敵に押えられるとは」
「それはリスティア軍の所管です。ルークス卿の任務は敵ゴーレムの殲滅までです」
 この熱くなった若者二人を、年配者がたしなめる。
「恐れながらお二方、議論は王都に戻ってからにされてはいががでしょう? 少なくとも、不安に陥った少女の前でなさるのは不適切かと」
 プレイクラウス卿の従者である。
「そうだったな」
「不覚でした。済まない、アルティ」
「い、いえ」
 かしこまる貴族たちに、平民の少女は恐縮してしまった。

                  א

 敵が陣を敷く平原の手前から、帝国軍分遣隊に猛烈な向かい風が吹き付けてきた。
「しめた! 新型ゴーレムのコマンダーはいるぞ!」
 若いジュンマン副官の歓声が車内に響く。
「奴さえ仕留めれば、この戦い我らの勝利だ!」
 部下もゴーレムも持たない師団副官がはしゃぐのに追従ついしょうして、シノシュは笑みを作った。
 内心で彼の評価を最低にしながら。
 何もしない人間ほど口数が多い、それが少年の観測結果である。
 実行の苦労を知らないからだろうが、同じ理由で責任を追及したがるものだ。
 少年の隣で政治将校のファナチが冷ややかに見ているので、革新的にもダメらしかった。

 分遣隊のクリムゾン・レンジャー百基は、平原に出た順に左右に広がる。
 二個大隊が二列横隊となった。
 その後ろの路上にゴーレム車四両、特殊大隊のゴーレムが右の路外に固まる。
 騎兵は偵察に出た分を除いて、特殊大隊のゴーレムを風よけに固まっていた。
 ゴーレム車の先頭に大隊長三人が集まり、ジュンマン副官も同席する。
 これが分遣隊司令部だ。
 シノシュはその横、暴風が吹き荒れる外に立たされた。
 グラン・ノームは半身を土に入れていないと、土中を遠方まで探れない。
 そのまま自由に動けるので、見た目以外は問題なかった。
「よし、前進だ!」
 扉を開けたジュンマンが、シノシュに命じる。
 途端に強風が車内に吹き込み、地図をひっくり返して上にあった積み木を床にばらまいてしまった。
 これに懲りたか、その後は閉ざされた扉ごしに命令してくる。
 しかし風にかき消されて聞きとれない。
 復唱するシノシュの声も聞こえないらしく、ジュンマンは今度は窓を開けた。
 車内から怒声が上がり、若い陸尉は下ろされてしまう。
 交代でシノシュが乗るよう命じられたので、少年の心は地の底まで沈んだ。
 師団副官が血走った目で睨みつけてくるのだ。
(嫉妬されたか)
 自分の戦死報告が心配になった。
 敗戦の責任を重く書かれたら、巻き添えになる家族が増えてしまう。
 シノシュが知る限り、アロガン将軍は事務仕事を部下に任せきりだ。
 大衆風情の戦死報告を自ら書くとは到底思えない。
 何しろ師団長の頭は「ゴーレムの損失責任をいかに軽くするか」でいっぱいになるのだから。
 そんな時に「責任の押しつけ先」をささやく者がいたら?
(渡りに船だろうな……)
 この二年間、敵を作らないようシノシュは慎重に慎重を重ねてきたが、とうとう最期の日になって敵を作ってしまった。
 それも政治将校と師団長の次に、厄介な人物を敵にしてしまった。

 特殊大隊長の命令を、少年は暗い気持ちで車外のグラン・ノームに伝える。
 土の大精霊は頭だけ扉を通り抜けさせていた。
 土精は固体を透過できることを、シノシュは市民に話したことはない。
 ゴーレムコマンダーら精霊士は基本的に大衆であり、師団幹部の例にもれず三人の大隊長は精霊が扱えない市民であった。
 そんな大隊長に、土精の能力を教えたのは、おしゃべりなジュンマン副官以外にいないだろう。
 師団本部のゴーレム車で、彼は何度もそれを見ていたのだから。
 それで「不要」とされた本人は自業自得だが、シノシュを巻き添えにしてくれた。
 そして市民の巻き添えや逆恨みで大衆が破滅するのは、サントル帝国では日常茶飯事であった。

 前進を始めてほどなく、グラン・ノームのオブスタンティアが車内に首を突っ込んだ。
「前方に、我が影響下にないゴーレムを発見した。数は三十」
 ついにシノシュは、ルークスもいる敵部隊に遭遇したのだった。
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