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第七章 激突
帝国軍の罠
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サントル帝国征北軍第七師団は行軍隊形を解き、畑地に兵を入れ陣形を横隊へと変えた。
その前方にクリムゾン・バーサーカー八十四基が二列横隊で並ぶ。
師団の背後と左右側面は軽量型のクリムゾン・レンジャーが固める。
ゴーレムに囲まれた戦闘陣形で大王都ケファレイオまで進撃するのだ。
たった二十基の鹵獲ゴーレムで落とせた首都、蹂躙するのは簡単に思えた。
問題はパトリア軍の新型ゴーレムである。
リスティア軍が惨敗しただけでなく、友軍も五十基が撃破鹵獲されてしまった。
幸い師団には優秀な参謀がおり、新型ゴーレムを陥れる罠が練られていた。
第七師団とゴーレム連隊にはグラン・シルフはおらず、敵にはいる。
そのため敵シルフが好き勝手に帝国部隊を偵察して回っていた。
しかしシルフが見ることができるのは空気中だけ。
地下で何が起きようと、知る由もない。
帝国軍は前進する部隊の後方地下に大規模なトンネルを掘っていた。
ゴーレム担当以外のノームを全て投入し、密かに掘らせている。
新型ゴーレムは軽量型ゴーレム以上の機動力を持っているらしい。
しかし一基しかいないのだ。
百基ものゴーレムを押しとどめるのは不可能である。
一基ずつ撃破していたら、全滅させる前に帝国軍が大王都に到達しかねない。
敵は指揮官を狙うしかない。
その指揮官の前方は主力ゴーレムの大集団。
左右側面は横隊による分厚い歩兵の壁、両側にはゴーレム部隊。
となれば、後ろから攻め込むはずだ。
歩兵の進撃より速く動けるのだから。
そしてトンネルを踏み抜いて足が止まる。
動きさえ封じてしまえば、レンジャーが押し寄せて袋叩きだ。
帝国軍は新型ゴーレムの弱点を掴んでいた。
ソロス川での戦闘を見たシュタール王国の観戦武官が、本国にこう報告したのだ。
「投槍の一撃で新型ゴーレムの頭部は大破した」
新型ゴーレムは速度を重視したため、防御力が弱い。
帝国軍の軽量型ゴーレムより脆いだろう。
「動きさえ封じれば非力なレンジャーでも勝てる」
そう判断したゴーレム連隊長の意見を取り入れ、師団長は「女神狩り」作戦を決意した。
陣形変更を終え、第七師団は進撃を開始。
午後になって、前方に信じられないほど美しいゴーレムを発見した。
銀色の甲冑に身を固め、槍を携えた姿は女神にしか見えなかった。
八十基あまりのゴーレムが横二列に並ぶ光景は壮観だった。
しかしそれらが踏み潰しているのが麦畑なので、ルークスの心は暗く沈んだ。
パトリア王国同様にリスティアも今年の収穫は激減するだろう。
二カ国も飢餓状態となると、同盟諸国の支援も分散してしまう。
確かなのは、北から陸送される食料はリスティア国内で止まってしまうことだ。
(そうなると頼れるのはマルヴァド王国と、南方の都市国家群くらいか)
マルヴァドは裏切っているし、共和制の都市国家をパトリアの貴族は良く思っていないと聞く。
飢餓で苦しむのは貧しい平民である。
その悲劇を招く理由が自分だという事実が、ルークスの心をさらに深く沈ませていた。
「少しでも早く終わらせないと」
そう言ってルークスはイノリを走らせた。
サラマンダーに火炎槍を炙らせながら。
「ゴーレムが走っている!?」
イノリが小走りする様に帝国軍将兵は驚愕した。
だがゴーレム群はどんどん進むので、歩兵は続かねばならない。
八十四基のバーサーカーも一万の兵も、目眩ましと囮である。
女神狩り作戦の主戦力は後方のレンジャー十二基と、ノームたちが掘る地中のトンネルだ。
彼我の距離が急速に縮まる。
と、新型ゴーレムが進路を左にずらした。
師団の右側を迂回し、後方に回ると思われた。
作戦どおりの展開に、帝国軍首脳陣はほくそ笑んだ。
囮もただ歩いているだけでは不自然である。
「投槍用意」
ゴーレム連隊長が命じた。
二列横隊の後列にいる四十二基のバーサーカーの、半数は投槍を投げやすいよう右の肩当てが無い。
それらが投槍を振りかざした。
敵は正面から右端へと移動してきた。
大半が射程外になる。
「第一中隊、投射!」
四本の投槍が投げられた。
敵ゴーレムは足を緩め、軽く横にずれて一本を避け、残りは無視した。
四本全てが外れた。
「敵コマンダーはどこから指示しているのだ?」
連隊長が訝しんだのは一瞬だった。
直後に、それどころではなくなったのだ。
その前方にクリムゾン・バーサーカー八十四基が二列横隊で並ぶ。
師団の背後と左右側面は軽量型のクリムゾン・レンジャーが固める。
ゴーレムに囲まれた戦闘陣形で大王都ケファレイオまで進撃するのだ。
たった二十基の鹵獲ゴーレムで落とせた首都、蹂躙するのは簡単に思えた。
問題はパトリア軍の新型ゴーレムである。
リスティア軍が惨敗しただけでなく、友軍も五十基が撃破鹵獲されてしまった。
幸い師団には優秀な参謀がおり、新型ゴーレムを陥れる罠が練られていた。
第七師団とゴーレム連隊にはグラン・シルフはおらず、敵にはいる。
そのため敵シルフが好き勝手に帝国部隊を偵察して回っていた。
しかしシルフが見ることができるのは空気中だけ。
地下で何が起きようと、知る由もない。
帝国軍は前進する部隊の後方地下に大規模なトンネルを掘っていた。
ゴーレム担当以外のノームを全て投入し、密かに掘らせている。
新型ゴーレムは軽量型ゴーレム以上の機動力を持っているらしい。
しかし一基しかいないのだ。
百基ものゴーレムを押しとどめるのは不可能である。
一基ずつ撃破していたら、全滅させる前に帝国軍が大王都に到達しかねない。
敵は指揮官を狙うしかない。
その指揮官の前方は主力ゴーレムの大集団。
左右側面は横隊による分厚い歩兵の壁、両側にはゴーレム部隊。
となれば、後ろから攻め込むはずだ。
歩兵の進撃より速く動けるのだから。
そしてトンネルを踏み抜いて足が止まる。
動きさえ封じてしまえば、レンジャーが押し寄せて袋叩きだ。
帝国軍は新型ゴーレムの弱点を掴んでいた。
ソロス川での戦闘を見たシュタール王国の観戦武官が、本国にこう報告したのだ。
「投槍の一撃で新型ゴーレムの頭部は大破した」
新型ゴーレムは速度を重視したため、防御力が弱い。
帝国軍の軽量型ゴーレムより脆いだろう。
「動きさえ封じれば非力なレンジャーでも勝てる」
そう判断したゴーレム連隊長の意見を取り入れ、師団長は「女神狩り」作戦を決意した。
陣形変更を終え、第七師団は進撃を開始。
午後になって、前方に信じられないほど美しいゴーレムを発見した。
銀色の甲冑に身を固め、槍を携えた姿は女神にしか見えなかった。
八十基あまりのゴーレムが横二列に並ぶ光景は壮観だった。
しかしそれらが踏み潰しているのが麦畑なので、ルークスの心は暗く沈んだ。
パトリア王国同様にリスティアも今年の収穫は激減するだろう。
二カ国も飢餓状態となると、同盟諸国の支援も分散してしまう。
確かなのは、北から陸送される食料はリスティア国内で止まってしまうことだ。
(そうなると頼れるのはマルヴァド王国と、南方の都市国家群くらいか)
マルヴァドは裏切っているし、共和制の都市国家をパトリアの貴族は良く思っていないと聞く。
飢餓で苦しむのは貧しい平民である。
その悲劇を招く理由が自分だという事実が、ルークスの心をさらに深く沈ませていた。
「少しでも早く終わらせないと」
そう言ってルークスはイノリを走らせた。
サラマンダーに火炎槍を炙らせながら。
「ゴーレムが走っている!?」
イノリが小走りする様に帝国軍将兵は驚愕した。
だがゴーレム群はどんどん進むので、歩兵は続かねばならない。
八十四基のバーサーカーも一万の兵も、目眩ましと囮である。
女神狩り作戦の主戦力は後方のレンジャー十二基と、ノームたちが掘る地中のトンネルだ。
彼我の距離が急速に縮まる。
と、新型ゴーレムが進路を左にずらした。
師団の右側を迂回し、後方に回ると思われた。
作戦どおりの展開に、帝国軍首脳陣はほくそ笑んだ。
囮もただ歩いているだけでは不自然である。
「投槍用意」
ゴーレム連隊長が命じた。
二列横隊の後列にいる四十二基のバーサーカーの、半数は投槍を投げやすいよう右の肩当てが無い。
それらが投槍を振りかざした。
敵は正面から右端へと移動してきた。
大半が射程外になる。
「第一中隊、投射!」
四本の投槍が投げられた。
敵ゴーレムは足を緩め、軽く横にずれて一本を避け、残りは無視した。
四本全てが外れた。
「敵コマンダーはどこから指示しているのだ?」
連隊長が訝しんだのは一瞬だった。
直後に、それどころではなくなったのだ。
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