上 下
21 / 39

19, 末っ子トアセス

しおりを挟む
 つらつらと語られる事実に私は固唾を呑む。あまりにも多すぎる情報量を処理しきれないままペネは続けて語り出した。
「で、トアセスだけどあいつは黒騎士団に入りたがってる。そのために剣術学校も通ってるし」
「え、でもその団長とクロッセスは仲が良くないんじゃ」
 私の言葉に2人は大きく頷く。
「そ、あいつは12歳の時わけも分からず剣術学校を追い出されてる。今から3年前ね。その時は校長から授業態度や成績がどうのこうのって言われたけど、剣術だけなら兄弟一のトアセスが成績で落とされたなんて僕は信じられない。それはあいつも感じてたみたいで、そりゃこの家のせいって結論にもなると思う。僕もそう思うし」
「これも推論ですが、きっとダリアンが手を回したのだと思います。この事でトアセスと大喧嘩をし、彼は家を飛び出しました。成人前の子どもが実家を出ることは出来ないのでたまには帰ってきてますが、特にこの状況を作り出したクロッセス兄様のことは好きになれないのでしょうか、ここ最近会話をした様子さえ見たことがありません」
 アルは寂しそうに窓の外を見る。その様子が馬車の中でのクロッセスの様子に重なる。やはり彼らはよく似ている。

「それなら、今トアセスが通っているっていう剣術学校はどこなの?」
 私の空いたティーカップに新しい紅茶を注ぎながら、アルは答える。
「兄様の昔のご友人がやっているという剣術学校です。国が運営しているところに比べれば小さいですが、兄様が色々手を回して入学手続きをしてくれたみたいです。それに、黒騎士団に入団できるようにと犬猿の仲のはずのダリアン団長にも掛け合っているそうです」
「クロッセスはなんだかんだいいお兄ちゃんをしてるんだね」
 新しい紅茶に口をつけ私は笑って言った。2人の顔もほころんでいたように思う。

 それでも、お節介かもしれないが兄弟の仲が良くないことを私は少し寂しく思う。私と妹が絶賛喧嘩中だからだろうか、クロッセスにすごく同情してしまった。馬車での寂しげな様子が頭に浮かぶ。ここに置いてもらっているお礼に、トアセスと仲直りさせられたらというのは、それこそお節介なのだろうか。


 それに加えて私は涼奈を救い出すためのひとつの壁を知ることが出来た。黒騎士団長ダリアン・ワグナー。

「ダリアンの話だけど、王宮のこと、特に皇子のことに関与し始めたってことは、皇子が今主軸になって進めてる聖女の件もダリアンには大きな決定権があるってことだよね」
 真剣な面持ちの私に合わせて2人の顔も少し曇る。
「セイナさんが妹君を聖女にしたくないと言うなら、ダリアンは大きな障害になりえますね」

 長引いてしまったティータイムは、アルバートの食事の呼び出しによりお開きとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】虐待された少女が公爵家の養女になりました

鈴宮ソラ
ファンタジー
 オラルト伯爵家に生まれたレイは、水色の髪と瞳という非凡な容姿をしていた。あまりに両親に似ていないため両親は彼女を幼い頃から不気味だと虐待しつづける。  レイは考える事をやめた。辛いだけだから、苦しいだけだから。心を閉ざしてしまった。    十数年後。法官として勤めるエメリック公爵によって伯爵の罪は暴かれた。そして公爵はレイの並外れた才能を見抜き、言うのだった。 「私の娘になってください。」 と。  養女として迎えられたレイは家族のあたたかさを知り、貴族の世界で成長していく。 前題 公爵家の養子になりました~最強の氷魔法まで授かっていたようです~

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約者の姉に階段から突き落とされました。婚約破棄させていただきます。

十条沙良
恋愛
聖女の私を嫌いな婚約者の姉に階段から突き落とされました。それでも姉をかばうの?

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

処理中です...