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15,使い

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「まあ、向かいに座るのも悪くないですね」
 アルはそう言って真正面の席に座った。
「客人だったのか?」
 クロッセスの言葉にアルはナプキンを整えながら答えた。
「宮殿からの使いです、セイナさんのことで」
 アルは私の方を少し気にしている。
「というと?」
 気にせず話せと言わんばかりのクロッセスにアルは観念して話し出した。
「セイナさんをホルフマン家に引き渡せと。聖女の姉として丁重に扱うと」
「ホルフマン家か、」
「はい、現在聖女様は宮殿にて手厚いもてなしを受けているそうで、今後第一皇子のルバート様が面倒を見ると仰っていました。聖女様もそれを望んでおられるようで。それに応じて、セイナさんもこちらで面倒を見ると」
 ひと通り話すとアルはフォークを手に取った。
「今、お前が平然と食事をしているあたり、断ったんだな」
「はい、バルシュミードが責任をもってセイナさんを保護するとお断りを。納得はしてないようですが、本日はそのままお帰り頂きました」
 そう言ってアルーセスはようやく食事を口にした。
「宮殿でお世話していただけるなら私はそちらへ行った方がいいのでは?今私がここにいるのはクロッセスの厚意でしょう。迷惑にならないうちにその、ホルフマン家?に行った方が」
「やめておいた方がいいよ」
 そう言ったのはペネセスだった。
「ホルフマン家は精神支配の魔法を代々受け継いでいるから、あいつらに目を見つめられるだけで判断能力が鈍って、そのまま地下に閉じ込められちゃうよ」
 その言葉に思わず背筋が凍る。
「そんな魔法があるの……」
「家ごとに大なり小なり特徴があります。ホルフマン家のようにここまであからさまなのは珍しいですが」
 アルが言うとペネは大きく頷く。
「例えばバルシュミード家はものに魔力を込めることを得意とします。魔道具の開発や剣や杖に魔力を込めて戦う騎士や魔道士になる人が多いです。……私にはその才能はなかったようですが」
 小さく呟いたその言葉に言及する前に、クロッセスが口を開いた。
「今のホルフマンの当主は宰相のメルストだ。精神支配ができる上あいつは頭が回るから、皇子のお気に入りだ。よくそばにいる」
「もしかして、神殿にいた人?藍色の髪の眼鏡をかけた優しそうな……」
 神殿で私に偉そうに説明してくれた人を思い出した。確かにあの人に見つめられていた時有無を言わさぬような圧を感じた。
「確かにあの人が目を見て話してきた時、なんかゾワゾワって変な感じがした気がする」
「そういえば、セイナはあの時宰相と話したんだったな。それにしてはあの時のセイナの態度は毅然としていた。操られなかったのか?」
クロッセスはようやく顔を上げてこちらを見た。
「それは多分セイナの変な魔力のせいだと思うよ」
 反対側からペネの声が飛んでくる。
「あぁ、さっきも言ってたね、変な感じだって。それとなにか関係があるのか?」
 アルの言葉にペネは頷く。
「なんか魔力にしてはすごくドロドロと禍々しい感じ。聖女の魔力は光ってて眩しくて痛いんだけど、セイナの魔力は泥水みたい。けど気持ち悪い訳じゃなくてすごく暖かくて、泥水の温泉みたい」
「褒められてる気がしないんだけど……」
 食事中に泥の話を持ち出したことにクロッセスもアルも顔を歪ませているが、話を遮ることなく水を口にした。
「その魔力はほかの魔力を通しにくいんだ。ほら、綺麗な水は光を通すけど泥水は光を通さないでしょ。セイナの魔力はそんな感じ」
「度々気になってたけど、ペネ、セイナさんは年上で客人だ。セイナと呼び捨てるのはどうかと思うよ」
「でも、兄さんはセイナって呼んでるよ?」
「私は許可を得たからな」
「なら僕も、許してくれるよね。セイナ」
 ペネは子犬のような瞳でこちらを見つめる。
「好きに呼んでください、」
 マイペースが3人集まって私は少し戸惑ってしまった。これが男兄弟というものなのか。
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