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成就編
ありがとう*
しおりを挟むアナルセックス。
知識としては知っている。しかし、寺崎は挿れる側も受け入れる側も、挑戦したことは生まれてこの方一度もない。
勿論、こういうことをするにあたっていずれ接触するであろうもう一つの壁であることは認識していた。
実のところ、荒垣の告白を受け入れてから一度だけゲイビデオを閲覧した。自分はもしかしたら案外バイ寄りの人間なのではないかと。
結果は10秒でギブアップした。修正の入った画面越しでも見ず知らずの男性同士の絡み合いを寺崎は受け入れられなかった。
「…………やっぱ、無理?」
躊躇って思考を飛ばしていた寺崎の意識を、荒垣の声が呼び戻した。
寺崎の顔を覗き込む荒垣の表情は、後悔が滲み出ている。
違う、そんな顔をさせたいわけじゃない。
寺崎は綺麗なままの左手で、荒垣の頬をなぞった。
「試してみていいか?」
荒垣はズボンも下着も取り払って、伏せ目で股を開く。その間に割い入るように、寺崎も陣取った。
女性との性行為でもあまり視線を向けない場所を、まじまじと観察する。
見つめられる恥ずかしさからか、羞恥からくる興奮からか。荒垣の陰茎と秘部がヒクリと震えた。
「あんま見んなって……」
「そうは言っても、これから指挿れるんだろ」
流石に人として見られたくない場所を見ている自覚はある為、寺崎にだって気まずさがある。今は嫌悪感も興奮もない。心は無に近い。
「……挿れるぞ」
「うん…………んぅ!」
荒垣の返事を聞いてから、尻のあわいにローションまみれの、コンドームをはめた指をゆっくりと挿入した。
これでもかとローションを塗りたくったゴム付き指は、案外すんなりと穴の中に飲み込まれた。
女性器とは違う感触に慄きつつ、おそるおそる指を抜き差しする。
「痛くないか?」
「ん……だい、じょうぶ……ふぅ、あ、ぁ……」
「指、増やすぞ」
痛がるどころか、荒垣の吐く息に喘ぎ声が混じる。この分なら本人の言う通り大丈夫そうなので、もう1本、寺崎は指を追加する。
先程よりも抵抗感を感じる穴の縁を解すように、2本の指をグチュグチュと音を立てながら動かす。
すると、指の先に他の部分より若干硬い、しこりのような感触が伝わった。荒垣の腰が跳ねたのは同時だった。
「どうした?」
「ぅあ……そこ、好き…………」
「コレか?」
「んぁ!?ぁ、あ!それ!きも、ちぃ」
確かめるように再度擦ってやれば、先程よりも倍は大きな声で荒垣が喘ぎ出した。余程ここが良いらしい。
そういえば、寺崎がネットで調べた時、男性にだけ存在する、前立腺という場所で気持ちよくなれると記載されていた気がする。もしやそれがここか。
女性のように快感を得れる部位があるなら好都合だ。ただの解す作業にも色が付く。
寺崎は縁を解しながらも、荒垣が善がる場所を重点的に責めてやった。
「荒垣、気持ちいいか?」
「あ、ァあ……ぅん、イイ。けど……アッ、もっと……」
「ああ……指、増やすぞ」
「ん……あ、ア!あァ……!」
3本に増やした指で更にグチュグチュと穴を広げる。コレだけ解れれば、荒垣の方は大丈夫だろう。
問題は、寺崎自身が興奮しきっていないことだ。
予想はしていたが、先ほどまで心が無に近かったこともあり、自身の性器は挿入できるほどの硬度に至っていない。
「てら、さき……?」
黙りこくった寺崎を、荒垣が心配そうに見てくる。
いつまでも黙っている訳にはいかない。寺崎は素直に告げることにした。
「悪い、荒垣。まだ俺が勃ってない」
「え、あ……そっ、か」
「……ちょっと待ってろ。勃たせるから」
そっか、と呟く荒垣の表情に一瞬傷が走ったのが見えてしまった。
幸いにも、この状況に全く反応していない訳ではない。扱いてでも勃たせようと自身のズボンに手をかけたところで、荒垣が起き上がった。
「俺が、舐めようか……?」
「…………は?」
結果。現在立場が逆転して脚を開いた寺崎の間に、今度は荒垣が陣取っている。
先程と違う点は、荒垣は寺崎の股の間に顔を寄せていることか。
「目、閉じてればいいから」
そう言いながら、荒垣は寺崎の下着の中から少しだけ芯を持った寺崎の陰茎を取り出した。
そして何の躊躇もなく、寺崎の陰茎を口に含んだ。
「……っ!ふ……」
「ん……ちゅ、ぶ……んぐ」
直接的な快感に、寺崎の口から吐息が漏れる。
目を閉じていればいい、と言われたが、眼前の視覚的暴力から目を逸らすことはできなかった。
あの荒垣が、寺崎の陰茎を咥えている。
何故かふと、荒垣に初めて会った時のことを思い出した。
あの粗暴で喧嘩っ早かった荒垣が、どこかうっとりとすらした様子で男性器をしゃぶっている。
その記憶とはちぐはぐな行動のギャップと、直接的な快感によって、荒垣の口の中で寺崎の性器は体積を増した。
「もういい、離せ」
「ん、ぢゅ……なんで」
「挿れるんだろ?ならこれだけ硬くなれば十分だ」
確かに寺崎の陰茎はまだ限界を迎えてはいないが、これ以上荒垣の口淫に身を委ねては、そのまま流されて口の中に出してしまいそうだった。
尻まで解したのだ。今回の目的はそこじゃない。
まだやれる、と不貞腐れる荒垣の上半身を起こし、ハグしてやる。
「また今度な」
「……ん」
宥めるように背中をポンポンと叩いてやれば、肩口で頷く気配がした。納得してくれたようで何よりである。
「体位はどうする?」
「…………バックで」
「……わかった」
了解して、寺崎は荒垣を仰向けに押し倒した。
荒垣はポケッと瞬いたあと、起きあがろうともがき出した。
「な、何も分かってねェじゃん!?」
「だって、お前が寂しそうな顔するから」
おおかたノンケの寺崎を気遣った発言だったのだろうが、ここまできたらもうバックだろうが正常位だろうが付いていようがいまいが関係ない。
それを伝えると、また荒垣は照れたように両手で顔を覆った。本日何回目だろう。
兎も角、荒垣が暴れなくなったのは寺崎にとっても都合がいい。
先程尻を解す時に取り出したコンドームの、新しいものを開封して十分な硬さを保った自身に装着する。
そして動かない荒垣の脚を開き、先程解した穴に自身のものを擦り付けた。
「……挿れるぞ」
後孔の縁がヒクリと震える。
固まっていた荒垣が、震えながら頷くのを確認してから。震える荒垣の下肢を抱えて、ゆっくりと先端を挿入した。
「ぁ、あ、あ……!」
「……っ!はぁ…………」
荒垣の震える声が少しずつ大きくなっていく。
ゆっくりと肉壁に包まれてゆく陰茎は、直接的な快感を受けて奥へと進むほど、少しずつ質量を増した。
そしてついに全てを挿れ切り、寺崎は汗まみれの額を拭った。
「荒垣、痛くないか?」
「ん……ぅ、ふぁ……あ、すご…………」
「……あっつ」
まだ春だからと余裕をこいてトレーナーを着ていたが、行為の最中では暑いは動きにくいわで邪魔でしかない。
荒垣に一言入れてからトレーナーを脱ぐと、動いたせいか荒垣の下腹が震えた。
「んぁ!あ……やば」
「どうした?」
「すごい……挿れただけで、こんなに気持ちイイの……はじめて」
「好きな人とのセックスって、こんな気持ちイイんだな」
照れくさそうに微笑む荒垣に、寺崎も胸の辺りがグッときた。
荒垣に対して愛でたいといった感情は湧いたことは殆どないが、今の表情にはクるものがあった。
「……まだこれからだぞ」
「ぁっ……ぅん、てらさき、は、きもちィ……?」
「、……ああ、気持ちいいし、満たされてる気分だ」
そろりと顔から手をどかして覗き込んでくる荒垣に、今の内情を全て正直に伝える。
まだ顔の半分を覆っている両手をどかして、額にキスをしてやれば、荒垣は鼻を啜りながら唇を噛み締めた。
「動くぞ」
「え、あ……ァ、ふァ……!」
様子を伺うように、寺崎は自身の腰を揺する。女性器と違い挿入に適していない箇所を抉っている為、慎重に動くように心がけた。
寺崎が腰を引けば荒垣は泣きそうな声で恋しがり、押しつければ叫ぶように悲鳴を上げた。
「ぁ、あっ!ア、ァ、あっ……!」
先程指で撫でた前立腺辺りを意識して擦ってやれば、わかりやすく荒垣の声が大きくなった。
しっかりと荒垣も快感を拾っていることに満足していたが、ふと、荒垣がスウェットの上から自身の胸辺りに手を押さえているのに気がついた。
「寺崎?……痛い、か?」
「んぁ……ちが……ァ、ぁのさ、」
「ああ」
荒垣が何か言いたそうだったので、一度律動を止めてやる。
「さっきから、寺崎にキスとかされるたび……胸が締め付けられる感覚で」
「……ああ」
「う、うまく言えないんだけど……コレが人を好きになるってことなら、俺、寺崎を好きになって良かった」
好きの言葉と同時に、寺崎の性器を包む肉壁がキュ、と絞り上げた。
……今日の荒垣はずっと人として嬉しいことを言ってくれる。
照れていることがバレて欲しくなくて、隠すように寺崎は律動を再開した。
「っ……はぁ…………ふっ」
「ア!あっ……、さき、すき……好きだ……アッ!」
なのに、荒垣はまるでうわ言のようにすきだ好きだと熱に浮かされたまま愛の告白を繰り返す。
まるでまだ気持ちが追いついていない寺崎を、惑わして引き摺り込むかのように。
「あ……アッ!好き!てらさき、すき!」
「……荒垣」
「ふァッ!あ、さき……てらさき……」
「祐介。好きになってくれて、ありがとう」
だから、せめて自分が今返せる精一杯を返そう。
口の悪さで傷つけた分、たくさん名前を呼んでやろう。荒垣の気持ちに気づいてやれなかった時間の分だけハグしてやろう。
気持ちが"まだ"追いつかない分、感謝をできる限り伝えよう。
好きになってくれてありがとう。
セックスまで至れるくらい、心を動かしてくれてありがとう。
好きを返せない代わりに愛してる。祐介。
そう伝えてやれば、荒垣はじわじわと顔を歪ませて、そして遂に泣き出してしまった。
「うぁ、ァ……でら、さき」
「そこは名前で呼んでくれよ」
「グスッ…………たか、と」
「よくできました」
荒垣の頭を撫でてやれば、鼻を啜りながら擦り寄ってくる。その姿に、愛らしいと思う心がまたくすぐられた。
生え際が黒くなりつつある頭を撫でながら、そろそろ我慢の限界を迎えそうな自身の性器を荒垣の奥へ強く押し付けた。
「ア、たか……は、ぁア!あ!」
「悪い、……そろそろイきたい」
「ぅん、ん……俺、も……!」
寺崎に腰を打ちつけられながら、荒垣はカウパーが滴る半勃ちの自身を握り込んだ。
最初の気遣いなどとうに忘れて、達することしか考えられなくなる。
せめて一緒に、という考えだけが頭の片隅に引っかかり、自身を握り込む荒垣の手に、自身の手を重ねた。
「っ……!ふっ、う…………!」
「はぁ、アッ……!……ぁ、あ……!」
肉壁の律動に身を任せて、寺崎はゴムの中に射精する。少しずつ冷静になりかける頭で荒垣の手の中を見れば、半勃ちの性器が白濁した体液で濡れていた。
あの状態で、ちゃんとイけたことに関心と安堵を覚える。
「……てら、…………高人」
「ん?」
「…………ハグ、したい」
本当に好きだな、と内心笑いながら、目の前の巨漢を抱きしめてやった。
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