20 / 23
成就編
触れ合い*
しおりを挟む食事を終えた食器も片付けられていない部屋で、唇を啄む音だけが室内を満たす。
先に身を離したのは荒垣だった。限界とばかりに寺崎を引き剥がすが、引き剥がされた本人は不満げだ。
これでは、どちらが想い想われているのか分からない。
「タ、タンマ!」
「なんだよ、不満か?」
「ふ、まんじゃ、ない、けど……」
荒垣はモゾモゾと不自然に胡座をかいていた脚を折りたたむ。
当然、寺崎が違和感に気が付かない筈がなかった。
「勃ったか」
「う……しょうがないだろ」
同じ男として理解できなくはない。が、好きな相手に恥ずかしそうに縮こまる荒垣のことが、柄にもなく可愛いと思ってしまった。
「じゃあやめるか?」
「……やめないで」
恥ずかしがるクセに欲に忠実な姿に、寺崎は思わず笑ってしまった。
荒垣のベッドに場所を移し、再び荒垣の唇に自分のものを重ねる。
「ん……ちゅ、うぁ……」
角度を変える為に口を離すたび、隙間から漏れる吐息が興奮に繋がる。
寺崎は一旦口を離し、荒垣の首筋に唇を寄せた。
「ん、ちょ、寺崎……!」
「キスしてるだけだ。痕は付けない」
慌てる荒垣を宥めながら、ちゅ、と音を立てて唇を押し当てるだけの行為をする。荒垣だけ先に風呂に入っていたので、汗臭さや荒垣自身の匂いはあまりしない。
今のところ、荒垣に対する性欲は働いていない。
それよりも、ハグやキスをしてゆっくりくっついていたい欲の方が寺崎の中では大きい。
ゲイ嫌いであることを考えれば十分大きな変化だ。しかし、荒垣に対しても、己に対しても不快感がないのだから不思議だ。
「はぁ……」
「んっ!……くすぐってェ」
自分よりも大きい荒垣の身体を抱き寄せながら、肩口に額をくっつける。
髪やかかる熱い吐息が首筋に触れるたび、荒垣がピクリと身体を動かす。
寺崎はくっついているだけで満足なのだが、やはり荒垣はそうもいかないらしい。どうしてもモゾモゾと動くので、寺崎も不満げに顔を上げた。
「どうしたんだよ」
「なんか、積極的過ぎねェ……?俺逆に怖いんだけど」
「んー?アルコールが入ってるからな。ハイになってることは認める」
ついでに、内心考えてた企みも暴露してみる。
「あと、勢いで身体の一線を越えれば、後から気持ちも追いつきやすくならないかな、とは考えてる」
「おま、自分を大切にしろよ……!」
「お前に言われたくないな」
言いながら、寺崎は荒垣のスウェットの中に手を突っ込んだ。
「お、おい……!」
慌てる荒垣を尻目に、寺崎は荒垣の素肌をなぞる。荒垣の抗議を無視してさわさわと堪能していたら、ある一点を掠めたところで荒垣が口を閉ざした。
「……ここか?」
「んぁ!つよく、触んな……」
親指で潰すように乳首を触ってやると、荒垣は鼻にかかった声を漏らした
言われた通りに力を弱めて触ってやると、次第にそこは芯を持って固くなった。
「自分で開発したのか?」
「んぅ……きもちぃって聞いたから」
「へぇ」
乳首を触ってやるだけで興奮した息を漏らす荒垣には多少の嗜虐心が煽られる。
このまま乳首だけを触り倒しても良かったが、初めてで一点だけイジメ倒すのは少し気が引けたので、そこからは手を逸らしてやる。
「なぁ、お前は何かしたいとかないの」
「んぇ……?」
「俺ばっかり触ってるけど」
「ん……寺崎に触られんの、好きだから。このまま触ってほしい」
「……そっか」
「んンッ!?」
このままと言った口でまたしても驚きの声をあげるのだから、寺崎は内心どっちだよとツッコミを入れた。
しかし荒垣が慌てるのも無理はない。
寺崎が手を這わしたのは、服の上とはいえ股の間。緩く兆した荒垣の股間だからだ。
「えっ……えっ!?」
「なんだよ、そういう流れだっただろ」
「そうだけど……い、イヤなら無理すんなよ?」
「不思議とイヤじゃない。無理ならそもそも触らないから安心しろ」
「んっ!むぅ、ん」
荒垣のブツを柔く揉みながら、再び荒垣に口付ける。
手の中のそれは寺崎の想定より勃ちが悪い。そういえば今日は随分と飲んでいたな、と思い出す。勃ちが悪いのはアルコールのせいだろう。
少し悩んで、唇を離す。
「っ……荒垣」
「んぁ……なに?」
「コレ、直で触っていいか?」
コレ、と荒垣の股の間を指すと、赤かった荒垣の顔が固まる。
ここから先は寺崎にとっては完全に未知の領域だ。この先に進んでも良いかという確認も込めて、荒垣に尋ねた。
荒垣はたっぷりと間を置いて、頷いた。
荒垣が頷いたのを確認してから、寺崎は一度、触れるだけのキスをした。
「ローションとかあるか?」
「ある……待って」
荒垣はその場で伏せるように、ベッドの脇にあるサイドテーブルの引き出しに手を伸ばす。
取手を引いて中からローションを取り出した直後、寺崎は荒垣のパンツの中に右手を突っ込んだ。
「んぁ!?あ……あっ、んな、いきなり……」
「……やっぱり先走りも出てないか」
荒垣の陰茎を確かめるように触りながら、荒垣に覆い被さるようにして左手を伸ばす。
左手で荒垣の手からローションを取り上げるのと、右手の中にあるものを外に出すのは同時だった。
「あ……ぅあ、あんまり見んなよ」
性器だけ丸出しの間抜けな姿で荒垣は恥ずかしがって顔を隠す。が、陰茎はピクリと寺崎の手の中で動いている。
実際に他人の男性器をここまでまじまじと見たり、触ったりするのは寺崎も初めてだ。正直、コレを直で見ても嫌悪感が湧かないかが一番の壁だった。
結果的に恐れていた拒絶感がないことに、寺崎が一番ホッとしている。
寺崎は一度荒垣の陰茎から手を離し、右手にローションを絞り出した。
「荒垣、見てろ」
「はぁ……あ……?」
「俺がお前のちんこ触れてるとこ。お前のちんこ触っても大丈夫だってとこ、しっかり見てろ」
荒垣の視線が自身の性器に移動したのを確認してから、ローションまみれの手で荒垣のものを握り込んでやる。
先程よりも断然に滑りが良くなった手で緩く扱いてやれば、荒垣の下腹が震えた。
「あ、ふぅ……んぅ」
「コラ、視線を外すな」
荒垣が視線を外した瞬間、性器から手を離してやる。ぬちゃ、と音をたてながらローションが糸を引いた。
突然快楽から解放され、荒垣は切なそうな声を上げて悲しげに寺崎の顔の方を向いた。
「あぅ、わ、わかった……わかったから、もっと、触って」
「ふふ。ああ、もう目を離すなよ」
許すように笑ってやれば、荒垣はくすぐったそうに頷いた。荒垣が視線を戻したのを確認してから、再び性器に触れる。
ぬちぬちと音を立てて扱いてやれば、縋るように寺崎のトレーナーを握りしめた。
「あ……ふ、ぅ……きもち、ぃ……」
しかし、幾ら扱いてやっても、裏筋やカリ首をなぞってやっても、一向に荒垣の陰茎は持ち上がらない。
反応を見る限り荒垣は快感を拾っているようなので、決して寺崎が下手な訳ではない……筈だ。
筈なのだが、流石にここまで来ると自信が曖昧になってくる。
気持ちいいかと荒垣に聞けば、陰茎から目を離さないまま必死そうに頷くばかりだ。
やはり酒の勢いに乗じて上手く乗り切ろうとしたことがそもそもの間違いだったか。このままではキリがないし、さてどうしたものか。
「な、なぁ……ぁ、てらさき」
「ん?どうした」
正直どう収拾をつけようか悩んでいたところ、荒垣が訴えかけるように呼ぶので一旦手を止めてやる。
荒垣は躊躇うように、しどろもどろになりながら口を開いた。
「あのさ、ケツに突っ込むのって、平気?」
「ん?尻?」
「じ、実は……準備してきた。アナルセックスの。ちょっと解せば突っ込める、と、思う」
「……………ン!?」
今度は寺崎が驚きの声を上げた。
5
X(旧Twitter)にて更新予定や裏話などを発信しています。また、良ければマシュマロなどでも感想などいただけましたら励みになります。https://marshmallow-qa.com/torikara_kun?utm_medium=url_text&utm_source=promotion
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった
パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】
陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け
社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。
太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め
明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。
【あらすじ】
晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。
それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl
制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/
メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる