11 / 38
第一章 絶望と異世界と狼男と少女
第十話 妖精達の○○屋─2
しおりを挟む
「……え?」
ネロの言葉に、私は声を失った。
「嘘……伐採って……それも、人間が……?」
「信じられないかもしれないが本当だ。……信じたくは無いと思うが」
口元を歪ませながらネロが告げる。歪んだ口元から、鋭い犬歯が見えた。
「で……でも、なんで? なんで人間はその……レムレスの森? その森を破壊したの?」
「道路を造るためだよ」
ずっと黙っていたボックルちゃんがボソッと答えた。
「人間達は、レムレスの森を無くして道路を造れば、国同士の結び付きが強くなるって判断したんだ。そのせいで、俺達の住んでいた森は見る影も無くなっちまった」
「…………」
淡々と話すボックルちゃんに、私は罪悪感を覚えた。レムレスの森の事を私は知らない。でも、同じ人間の行いだというだけで、私は彼に謝らなくてはならない気がした。
「いっしょに暮らしてた仲間も、皆散り散りになっちまった。最後に俺の手元に残ったのは、僅かばかりの金と、このきょうだい達だけだ」
そう言って、ボックルちゃんは傍にいた子達を抱き寄せる。
「俺は今まで、木の実の在り処や住んでる動物達の事なら知っていた。逆に言えば、それ以外の事は何も知らなかった。今こうやって苦しい状況を招いているのも、俺の無知が原因だという事は重々承知してる」
そこまで言ったボックルちゃんは、決然とした表情で言った。
「だからこそ……お前達の知恵を貸してほしい。頼む──この依頼、引き受けてくれるか?」
そう言って頭を下げたボックルちゃんを、しばし静かに見ていたネロは、フゥっと溜め息をついてからこう告げた。
「言ったろ? それ相応の依頼料を払うなら引き受けてやると──」
「……! それじゃあ──」
「あぁ、分かった」
「その依頼──ネロ=ガング=ヴォルフの名に懸けて解決する!」
そう言ったネロの口元には、ハードボイルドな笑みが浮かんでいた。
「解決する──ってカッコつけたのは良いけどさ、具体的にどうするつもりなの?」
私の問いに、ネロは沈黙で返す。
「私達出会って間もないけどさ、ネロが結構調子に乗りやすくて、ええかっこしいなのは今日一日でよく分かったよ」
「…………」
相変わらずだんまりを決め込んでるネロの背中に向かって、私は構わず続ける。
「それと私がどこから来たのかまだ分かんないよね? 色々情報が入りすぎて混乱してるけど、結局この世界はどんな──」
「えぇい少しは静かに出来ないのか!」
振り向き様にネロが吠える(遠吠えじゃないわよ)。その時ネロの体が傍にあった本の山にぶつかり、山が崩れる。
「わーっ!」と叫んで、本の山を直し始めたネロを尻目に、私は歩きながら部屋を眺める。
今私達はボックルちゃんの店を出て、ネロの事務所に帰ってきている。店ではあれこれアイディアを出したのだが、結局これといった名案は浮かばず、その時点で時刻は遅くなっていたので『じゃあ続きは明日』ということになったのだ。
その時になって気づいたが、この世界にも夜はあるらしい。ずっと日の照る世界だったらどうしようと思ったが、杞憂に終わって良かった。
本を直し終えたネロは、部屋を眺めていた私に向かって言った。
「君の事については、これから色々調べていくよ。とはいっても、今はあまりにも分からないことが多すぎるけど」
「うん……分かってる。あまり期待はしないでおくよ」
本棚に入った本の背表紙を目で追いながら、私は答える。
今日一日、本当に色んな事があった。今まで当たり前だった筈の日常がどこか遠いところへ行ってしまい、突然知らない世界へと放り投げられてしまった。そんな感覚だ。
これから私がどうなるのか……そしてどんな振る舞いで生きていけば生きていけば良いのか……分からない事があまりにも多すぎる。
多すぎる……けど今はとりあえず──
「眠い……」
霞んできた目を擦りながら、私は呟いた。
「眠い? そうか、もうそんな時間か。君はそろそろ寝た方が良いな」
「寝るって……どこで?」
「え?」ネロがキョトンとする。
「……外?」
「泣くわよ?」
「冗談だよ。二階に寝室があるから、君はそこで寝るといい」
「本当?……あなたはどこで寝るの?」
「僕はそこのソファで寝るよ。寝場所にこだわりは持ってないからね」
……意外と良い奴じゃない。
いや、良い奴なのは知ってたか……
「ありがとね」
少し照れ臭くて、それだけ言って私は二階へ上がった。
「……寝室を貸した理由が分かったわ……」
二階の寝室というのは、服や本や変な置物が乱雑に置かれた部屋だった。
私の頭の中で、『ゴミ屋敷』という言葉がライトアップされる。その周りで盆踊りを踊るネロのイメージが浮かんでしまった。
「まぁ、ベッドで寝れるから文句は言わないけど……」
ベッドの周りの物を最低限どかしてから、私はベッドに横たわる。
仰向けになったとき目に入った天井は、私がよく見知ったものとは違った。それだけで、強烈な違和感が自分を襲う。
「早く寝なきゃ……」
自分に言い聞かせるようにしてから、目を瞑って体の力を抜く。
私の脳裏には、今まで向こうの世界で見てきた記憶が写される。
その記憶の中に両親の顔が無かったことが、私はなんとなく悲しかった。
ネロの言葉に、私は声を失った。
「嘘……伐採って……それも、人間が……?」
「信じられないかもしれないが本当だ。……信じたくは無いと思うが」
口元を歪ませながらネロが告げる。歪んだ口元から、鋭い犬歯が見えた。
「で……でも、なんで? なんで人間はその……レムレスの森? その森を破壊したの?」
「道路を造るためだよ」
ずっと黙っていたボックルちゃんがボソッと答えた。
「人間達は、レムレスの森を無くして道路を造れば、国同士の結び付きが強くなるって判断したんだ。そのせいで、俺達の住んでいた森は見る影も無くなっちまった」
「…………」
淡々と話すボックルちゃんに、私は罪悪感を覚えた。レムレスの森の事を私は知らない。でも、同じ人間の行いだというだけで、私は彼に謝らなくてはならない気がした。
「いっしょに暮らしてた仲間も、皆散り散りになっちまった。最後に俺の手元に残ったのは、僅かばかりの金と、このきょうだい達だけだ」
そう言って、ボックルちゃんは傍にいた子達を抱き寄せる。
「俺は今まで、木の実の在り処や住んでる動物達の事なら知っていた。逆に言えば、それ以外の事は何も知らなかった。今こうやって苦しい状況を招いているのも、俺の無知が原因だという事は重々承知してる」
そこまで言ったボックルちゃんは、決然とした表情で言った。
「だからこそ……お前達の知恵を貸してほしい。頼む──この依頼、引き受けてくれるか?」
そう言って頭を下げたボックルちゃんを、しばし静かに見ていたネロは、フゥっと溜め息をついてからこう告げた。
「言ったろ? それ相応の依頼料を払うなら引き受けてやると──」
「……! それじゃあ──」
「あぁ、分かった」
「その依頼──ネロ=ガング=ヴォルフの名に懸けて解決する!」
そう言ったネロの口元には、ハードボイルドな笑みが浮かんでいた。
「解決する──ってカッコつけたのは良いけどさ、具体的にどうするつもりなの?」
私の問いに、ネロは沈黙で返す。
「私達出会って間もないけどさ、ネロが結構調子に乗りやすくて、ええかっこしいなのは今日一日でよく分かったよ」
「…………」
相変わらずだんまりを決め込んでるネロの背中に向かって、私は構わず続ける。
「それと私がどこから来たのかまだ分かんないよね? 色々情報が入りすぎて混乱してるけど、結局この世界はどんな──」
「えぇい少しは静かに出来ないのか!」
振り向き様にネロが吠える(遠吠えじゃないわよ)。その時ネロの体が傍にあった本の山にぶつかり、山が崩れる。
「わーっ!」と叫んで、本の山を直し始めたネロを尻目に、私は歩きながら部屋を眺める。
今私達はボックルちゃんの店を出て、ネロの事務所に帰ってきている。店ではあれこれアイディアを出したのだが、結局これといった名案は浮かばず、その時点で時刻は遅くなっていたので『じゃあ続きは明日』ということになったのだ。
その時になって気づいたが、この世界にも夜はあるらしい。ずっと日の照る世界だったらどうしようと思ったが、杞憂に終わって良かった。
本を直し終えたネロは、部屋を眺めていた私に向かって言った。
「君の事については、これから色々調べていくよ。とはいっても、今はあまりにも分からないことが多すぎるけど」
「うん……分かってる。あまり期待はしないでおくよ」
本棚に入った本の背表紙を目で追いながら、私は答える。
今日一日、本当に色んな事があった。今まで当たり前だった筈の日常がどこか遠いところへ行ってしまい、突然知らない世界へと放り投げられてしまった。そんな感覚だ。
これから私がどうなるのか……そしてどんな振る舞いで生きていけば生きていけば良いのか……分からない事があまりにも多すぎる。
多すぎる……けど今はとりあえず──
「眠い……」
霞んできた目を擦りながら、私は呟いた。
「眠い? そうか、もうそんな時間か。君はそろそろ寝た方が良いな」
「寝るって……どこで?」
「え?」ネロがキョトンとする。
「……外?」
「泣くわよ?」
「冗談だよ。二階に寝室があるから、君はそこで寝るといい」
「本当?……あなたはどこで寝るの?」
「僕はそこのソファで寝るよ。寝場所にこだわりは持ってないからね」
……意外と良い奴じゃない。
いや、良い奴なのは知ってたか……
「ありがとね」
少し照れ臭くて、それだけ言って私は二階へ上がった。
「……寝室を貸した理由が分かったわ……」
二階の寝室というのは、服や本や変な置物が乱雑に置かれた部屋だった。
私の頭の中で、『ゴミ屋敷』という言葉がライトアップされる。その周りで盆踊りを踊るネロのイメージが浮かんでしまった。
「まぁ、ベッドで寝れるから文句は言わないけど……」
ベッドの周りの物を最低限どかしてから、私はベッドに横たわる。
仰向けになったとき目に入った天井は、私がよく見知ったものとは違った。それだけで、強烈な違和感が自分を襲う。
「早く寝なきゃ……」
自分に言い聞かせるようにしてから、目を瞑って体の力を抜く。
私の脳裏には、今まで向こうの世界で見てきた記憶が写される。
その記憶の中に両親の顔が無かったことが、私はなんとなく悲しかった。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
神さま御用達! 『よろず屋』奮闘記
九重
キャラ文芸
旧タイトル:『よろず屋』奮闘記~ヤマトタケルノミコトは、オトタチバナヒメを諦めない!~
現在、書籍化進行中!
無事、出版された際は、12月16日(金)に引き下げ、レンタル化されます。
皆さまの応援のおかげです。ありがとうございます!
(あらすじ)
その昔、荒れ狂う海に行く手を阻まれ絶体絶命になったヤマトタケルノミコトを救うため、妻であるオトタチバナヒメは海に身を投じ彼を救った。
それから千年以上、ヤマトタケルノミコトはオトタチバナが転生するのを待っている。
アマテラスオオミカミに命じられ、神々相手の裏商売を営む『よろず屋』の店主となったヤマトタケルノミコトの前に、ある日一人の女性が現れる。
これは、最愛の妻を求める英雄神が、前世などきれいさっぱり忘れて今を生きる行動力抜群の妻を捕まえるまでのすれ違いラブコメディー。
天高く馬肥ゆる草野球
萌菜加あん
ライト文芸
商店街の豆腐屋の娘、東雲聡子は大手宝生グループに就職できたはいいもんの、
鳴かず飛ばずの冴えない事務職員をしている。
入社三年目にしてようやく企画をまかせてもらったのだが、徹夜で考え抜いた企画がボツになってしまい、
気分を変えようと屋上で素振りをしているところを、超絶美形のバツイチ社長に見られてしまい……?
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
小説探偵
夕凪ヨウ
ミステリー
20XX年。日本に名を響かせている、1人の小説家がいた。
男の名は江本海里。素晴らしい作品を生み出す彼には、一部の人間しか知らない、“裏の顔”が存在した。
そして、彼の“裏の顔”を知っている者たちは、尊敬と畏怖を込めて、彼をこう呼んだ。
小説探偵、と。
月乙女の伯爵令嬢が婚約破棄させられるそうです。
克全
恋愛
「溺愛」「保護愛」多め。「悪役令嬢」「ざまぁ」中くらい。「婚約破棄」エッセンス。
アリスは自分の婚約者が王女と不義密通しているのを見てしまった。
アリスは自分の婚約者と王女が、自分に冤罪を着せて婚約破棄しようとしているのを聞いてしまった。
このままでは自分も家もただでは済まない。
追い込まれたアリスだったが、アリスは月乙女だった。
月乙女のアリスには二人の守護者がいたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる