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当然の流れ
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「えっ! ええー! そ、それは大変じゃないか。ちょっと詳しく話してくれるかい?」
「今は、そんな時間はありません。とりあえず、取り調べが終わり次第、今日中に留置所から出してください」
「出してくださいと言われても……。阿部君も知っていると思うが、今の私には保釈金にできるようなお金はないぞ」
「そんなこと分かってますよ。リーダーの警察官時代の知り合いに、警視正だか警視長だかがいるじゃないですか? その人に頼み込んでなんとかしてもらってくださいよ。できますよね?」
そう、私は今の仕事を始める前は警察官だったのだ。なってから辞めるまで、何かの手違いでずっと巡査だったが。今はそこまで詳しく話している場合ではないな。ちっとも恨んでなんかいないし。
それでその交番勤務の時に、キャリアの当時は警部補で今の警視長が配属されてきたのだ。そしてなぜだか、私とその新人警部補は馬が合った。これは嘘ではない。こういうと、私が嘘をついてばっかりのように聞こえないかな。うーん、えっとー、私は嘘をつくつもりで嘘をつくわけではない。ほんのちょっぴりだけ大げさに話すことはあるかもしれないが……今は言い訳なんかを考えている場合ではなかったな。私と警視長が仲良しだというのは、話が進めば分かってもらえるのだから続けるぞ。
そんな警視長と私は、今の私の本職のミッション中に偶然再会してしまった。それも警視長が絶体絶命の場面で。その絶体絶命は私とは無関係だったので、何も危険を冒してまで助ける必要はない。だけど私がどうしたかは説明するまでもないだろう。だからこそと言えば恩を着せるようで気が引けるが、阿部君を助けるためには四の五の言っている場合ではない。何よりも阿部君が有無を言わせないだろう。
ただ、警視長だからって何でもできるわけがない。まして傷害のそれも殺人になるかもという凶悪事件の容疑者を釈放なんて。もう一度言うが、釈放金もないのに。
「阿部君、それは不可能だと思うぞ。少なくとも勾留期限が過ぎるか、起訴されるかまでは。それが、日本の司法だからな。犯罪が犯罪なだけに、どんなコネや裏口ルートや大金を使っても保釈なんて、夢のまた夢だろうな」
「そ、そうなんですか……。いや、でも、我らがリーダーに不可能なんてないじゃないですか。でしょ?」
お世辞と分かっているのに、嬉しいじゃないか。
「ま、まあな。私にできない事なんて、ないな」
「それじゃ、待ってまーす。今日中にですからね、くれぐれも」
「わ、分かった。あっ、ちょっとまだ切らないでくれー。最後に確認だけど、本当に阿部君は何もやってないんだな?」
「はい、ただ第一発見者というだけで捕まっちゃったんです」
阿部君が嘘をつかないことは、私がよく知っている。だから阿部君は無実に違いない。
よし、警視長に頼んでみるか。ただ、この前の私が警視長を助けた時の警視長の言葉が気になるな。警視長は私が何らかの犯罪に関与していると察して、この次会った時は見逃さないというようなことを言っていた。
あー、そうそう。そろそろ私の本業を発表しておいた方がいいな。みんな、準備はできてるな? 初めて聞いた感じで驚いておくれ。いくぞ。
私は……怪盗だ。
驚いているところを悪いが、話を進めるぞ。いいか? ……。……。いいかげん落ち着いてくれ。まったくもおー。ここまで反響があるなんて、さすが私だな。さあ、目を開けて、耳に当てていた手を外そうか。
怪盗だとは言ったよな? 私が怪盗だと。怪盗な。あくまでも『株式会社ラッキー』の社長というのは仮の姿なのだ。ということは分かっていただけると思うが、『株式会社ラッキー』の取締役の阿部君と明智君も怪盗だ。
そう、私たち二人と一頭は、泣く子も黙る世界を股にかけようとしている恐れ知らずの怪盗団なのだ。これで私がやっきになって阿部君を助けようとしている意味が分かってもらえただろう。
無実にもかかわらず阿部君が刑務所に入れられたとしたら、間違いなく私を売ることが目に見えているのだ。阿部君のことを知らない人は、そんな簡単に仲間を売るだろうかと疑問に思うかもしれない。だけど阿部君はそういう人なのだ。断言できる。詳しくは私たち怪盗団の馴れ初めや活動記録をいつの日にか発表するので、是非読んでほしい。そして私に同情しておくれ。ついでに尊敬もしてくれたら嬉しいな。
今はそれどころではないので、明智君を連れて警視長に会いにいくとするか。
「明智君、阿部君がピンチだから助けに行くよ」
「……」
「明智君、このままだと阿部君が私たちの事を警察に話すよ。そうしたら、私の家は刑務所で、明智君の家は保健所だよ。だから阿部君の口止め……じゃなくて救出に行くよ」
「ワンッ! ワンワワン、ワワワンワーンワッワーンワッワツワッ! ウォエッ!」
阿部君なら明智君と会話ができるのだけれど……不思議だけど本当だ。阿部君は犬だけでなく様々な動物と話せるというかジェスチャーなどを駆使して意思疎通が完璧にできるのだ。どんな人にもそれなりの才能があるということなのだろう。ただ残念ながら、私は明智君が何と言いたいのか正確には分からない。
それでも明智君の性格と表情からして、同意したことだけは確かだ。阿部君に同情したかどうかは定かではないけど、保健所が悲惨な場所であることは知っているようだ。私は明智君に引っ張られるように警視庁に向かった。
「今は、そんな時間はありません。とりあえず、取り調べが終わり次第、今日中に留置所から出してください」
「出してくださいと言われても……。阿部君も知っていると思うが、今の私には保釈金にできるようなお金はないぞ」
「そんなこと分かってますよ。リーダーの警察官時代の知り合いに、警視正だか警視長だかがいるじゃないですか? その人に頼み込んでなんとかしてもらってくださいよ。できますよね?」
そう、私は今の仕事を始める前は警察官だったのだ。なってから辞めるまで、何かの手違いでずっと巡査だったが。今はそこまで詳しく話している場合ではないな。ちっとも恨んでなんかいないし。
それでその交番勤務の時に、キャリアの当時は警部補で今の警視長が配属されてきたのだ。そしてなぜだか、私とその新人警部補は馬が合った。これは嘘ではない。こういうと、私が嘘をついてばっかりのように聞こえないかな。うーん、えっとー、私は嘘をつくつもりで嘘をつくわけではない。ほんのちょっぴりだけ大げさに話すことはあるかもしれないが……今は言い訳なんかを考えている場合ではなかったな。私と警視長が仲良しだというのは、話が進めば分かってもらえるのだから続けるぞ。
そんな警視長と私は、今の私の本職のミッション中に偶然再会してしまった。それも警視長が絶体絶命の場面で。その絶体絶命は私とは無関係だったので、何も危険を冒してまで助ける必要はない。だけど私がどうしたかは説明するまでもないだろう。だからこそと言えば恩を着せるようで気が引けるが、阿部君を助けるためには四の五の言っている場合ではない。何よりも阿部君が有無を言わせないだろう。
ただ、警視長だからって何でもできるわけがない。まして傷害のそれも殺人になるかもという凶悪事件の容疑者を釈放なんて。もう一度言うが、釈放金もないのに。
「阿部君、それは不可能だと思うぞ。少なくとも勾留期限が過ぎるか、起訴されるかまでは。それが、日本の司法だからな。犯罪が犯罪なだけに、どんなコネや裏口ルートや大金を使っても保釈なんて、夢のまた夢だろうな」
「そ、そうなんですか……。いや、でも、我らがリーダーに不可能なんてないじゃないですか。でしょ?」
お世辞と分かっているのに、嬉しいじゃないか。
「ま、まあな。私にできない事なんて、ないな」
「それじゃ、待ってまーす。今日中にですからね、くれぐれも」
「わ、分かった。あっ、ちょっとまだ切らないでくれー。最後に確認だけど、本当に阿部君は何もやってないんだな?」
「はい、ただ第一発見者というだけで捕まっちゃったんです」
阿部君が嘘をつかないことは、私がよく知っている。だから阿部君は無実に違いない。
よし、警視長に頼んでみるか。ただ、この前の私が警視長を助けた時の警視長の言葉が気になるな。警視長は私が何らかの犯罪に関与していると察して、この次会った時は見逃さないというようなことを言っていた。
あー、そうそう。そろそろ私の本業を発表しておいた方がいいな。みんな、準備はできてるな? 初めて聞いた感じで驚いておくれ。いくぞ。
私は……怪盗だ。
驚いているところを悪いが、話を進めるぞ。いいか? ……。……。いいかげん落ち着いてくれ。まったくもおー。ここまで反響があるなんて、さすが私だな。さあ、目を開けて、耳に当てていた手を外そうか。
怪盗だとは言ったよな? 私が怪盗だと。怪盗な。あくまでも『株式会社ラッキー』の社長というのは仮の姿なのだ。ということは分かっていただけると思うが、『株式会社ラッキー』の取締役の阿部君と明智君も怪盗だ。
そう、私たち二人と一頭は、泣く子も黙る世界を股にかけようとしている恐れ知らずの怪盗団なのだ。これで私がやっきになって阿部君を助けようとしている意味が分かってもらえただろう。
無実にもかかわらず阿部君が刑務所に入れられたとしたら、間違いなく私を売ることが目に見えているのだ。阿部君のことを知らない人は、そんな簡単に仲間を売るだろうかと疑問に思うかもしれない。だけど阿部君はそういう人なのだ。断言できる。詳しくは私たち怪盗団の馴れ初めや活動記録をいつの日にか発表するので、是非読んでほしい。そして私に同情しておくれ。ついでに尊敬もしてくれたら嬉しいな。
今はそれどころではないので、明智君を連れて警視長に会いにいくとするか。
「明智君、阿部君がピンチだから助けに行くよ」
「……」
「明智君、このままだと阿部君が私たちの事を警察に話すよ。そうしたら、私の家は刑務所で、明智君の家は保健所だよ。だから阿部君の口止め……じゃなくて救出に行くよ」
「ワンッ! ワンワワン、ワワワンワーンワッワーンワッワツワッ! ウォエッ!」
阿部君なら明智君と会話ができるのだけれど……不思議だけど本当だ。阿部君は犬だけでなく様々な動物と話せるというかジェスチャーなどを駆使して意思疎通が完璧にできるのだ。どんな人にもそれなりの才能があるということなのだろう。ただ残念ながら、私は明智君が何と言いたいのか正確には分からない。
それでも明智君の性格と表情からして、同意したことだけは確かだ。阿部君に同情したかどうかは定かではないけど、保健所が悲惨な場所であることは知っているようだ。私は明智君に引っ張られるように警視庁に向かった。
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