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幕間~王都での休息~
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しおりを挟む全員のお茶を煎れ直すことしばし。
香り高いお茶を一口。フルーツティーのようで美味しい。
カーク殿下やドラン、エドワードは遠慮しているが、ステューが視線をやると口をつけた。
「全く、学生時代からどうしようもないと思ってはいたけどここまでとはね。図体だけ成長しても精神が成長しないのは何で?君、婚約者もいるんでしょ?」
「・・・それとこれとは関係ないと思うが」
「大アリでしょ、婚約者の女性可哀想すぎない?
君がそんなんだから結婚できないんじゃない」
「彼女は理解して待ってくれている」
「いつまで?それっていつまでなのさ?君が近衛騎士団に入るまで?それっていつになったらできるの?」
「今年、試験に挑む」
「へえ?そういえばケリーとディーナもでしょ?」
「はい、挑戦させていただきます」
「有難くも推薦をいただきました。主に恥じないよう結果を出します」
「頼もしい二人だね」
「ええ、頑張ってもらいたいわ」
「君の推薦?」
試すような質問。
私を、というよりはドランの反応を。
…またちょっかい出し甲斐のあるオモチャとでも思っているのかしら?現実を見せたいだけなのか。ステューが何をさせたいのかイマイチ分からない。
向こう三人の視線を感じるが、ドランの視線が一番鋭い。
私に、というよりケリーへの対抗意識?ディーナ相手にはないのかしら。
「近衛騎士団の試験はどの貴族の意見も介入させないものよ。クレメンスがそうさせないわ」
「そう?君の言葉なら届くんじゃない?」
意地悪な質問。さらにドランが怖いんですけど。
わかっているくせに聞くのね。狙いはドランに現実を見せたいって事かな。
「そんな事で揺らぐようなら近衛は今頃使い物にならない騎士しかいないでしょうね。あちらと一緒にしないで頂戴」
「ははっ、辛辣だね」
声を上げて笑うステューと対照的に、悔しそうな顔をしたドラン。
『そんな事は無い』と断言できないところが惜しいわね。
全部が全部、という訳ではないが、王国騎士団は縁故採用が許されている。つまり、貴族の出であれば王国騎士団へ推薦入団が可能であるし、最初から見習いで入らずともいい事もある。
それだけの幅があるからこそ、平民からの入団も許される。
本人の腕ひとつである程度のし上がれる場でもあるのだ。
そして、貴賎の差なく近衛騎士団への入団資格は得ることができる。王国騎士団で一定の経験を積み、実力共に兼ね備えている事。それだけが条件。
大丈夫かしらね?ドラン。入団したら一から下積みじゃなかったかしら。先輩騎士の雑用からさせられると聞いた覚えが。
ふと、ステューが私を向く。
にっこり、と悪魔の微笑み。…こういう時にろくな事がないんですが?何したのかしら。
「お茶、美味しい?カーク殿下」
「あ?ああ、果実の甘さがあって美味しいが」
「ドランとエドワードは?」
「・・・甘いが」
「どっちかって言うとブランデーとか入ってる方が好きだけどな」
「じゃあ大丈夫だね」
じゃあ大丈夫、とは…?
3人も思い当たる事はないようで、頭の上に『?』と浮かんでいそうな顔をしている。
ステューはゆっくり私に向けてだけ見えるよう、手のひらを開く。
「んっ、グフッ」
「あはは、大丈夫?」
「大丈夫ですか?エンジュ様」
「だっ、大丈夫、ちょっと変なとこに入っただけで」
大丈夫ではない。
ステューの手のひらにあったのは、小瓶。
蝶の意匠が入った。
この人、一服盛ってるーーー!!!
え、どっち、どっちに盛ったの!?
こちら側に盛った所でメリットはないだろう。…まさか、そっち3人にってこと!?
私の気持ちを察したのか、またまたにっこり。
「これで気兼ねないでしょ?全てとは言わなくても、言っておく方がいいことは伝えておいた方がいいかと思って」
「言っておいた方が、って」
「必要なかった?君のやりやすい方がいいでしょ。
例えば、彼等は君の騎士であって、贔屓じゃないってさ」
何をいまさら、と思ったのだが、カーク殿下とドランは顔色を変えた。え、知らなかったんだ。エドワードに関しては薄々気付いていたのか、そこまでではない。
キャズ達を見ると、どうする?とお互い目で探り合っている。
「成程?キャズ、貴方達この人達にも言ってないのね」
「言う必要、ある?」
「ねえだろ?」
「ないだろうな」
「なっ!クーアン、クロフト、お前達いつから!」
「いつからと言われてもなあ?別にお前に言う必要ねえだろ。
一応自分達の上司には報告しちゃいるが」
「その通りだな。ドラン卿、貴方と私達は接点もないし、普段も会話をするような仲でもないだろう?説明の必要があるか?」
それはそうだが、とぐぬぬぬぬ、と唸るドラン。
ケリーに何だかんだと食ってかかる所を見ると、学園時代の同期でもある為、大々的に比べられる事はなくてもドラン側からすると目の上のたんこぶ的なものらしい。
王国騎士団入団当初は、それぞれ別の隊に配属され意識してなかったようだが、2年経ったくらいからメキメキと頭角を現したケリーに対して好敵手視していたようだ。
隊長格の先輩達も挙って2人に目をかけていたらしく、何かと引き合いに出されていた…らしい。
ちなみにディーナは女性のため、ドラン的には好敵手対象とは見ていないようだ。
キャズとエドワードについては、『やっぱりなあ』と察していたようである。お互い仕事関係での噂を集めている関係上、『冒険者ギルドにタロットワークの騎士がいる』というまことしやかな噂があったそうだ。
キャズはキャズで表立って噂を消しはしなかったし、エドワードもわざわざ探る事もしていなかったとか。
「いや、下手に探ってこっちの痛い所を付かれるのもな」
「それはそうね、私じゃなくて本職が動く可能性もあったでしょうから」
「その噂もここ1年くらいだからな」
「・・・そうね、確かに」
ここ1年、という事は私が再度こちらへ来てからという事か。
確かにそれまではタロットワークの騎士、と言っても『コーネリア』としてだったはず。恐らくひっそりとしていただろう。
だが、エンジュが戻ってきてからはあれやこれやと皆を引っ張り出している。
そういえば本職って誰のこと?オリアナかしら?
ちなみに本日はいないだろうと思うのだが、多分どこかに居るはずだ。誰も付いてきてないって事ないし。
だからこそドランの身がちょっと心配ではある。
ふと、思い出した事があった。
今なら、『答え』が聞けるのだろうか。
「エドワード・サヴァン。『高貴なる者に伴う義務』とは何か?」
「───は、」
「あの時の、馬車の中で聞いた質問の答えは見つかったかしら?」
思い出してくれるはず。だって貴方は獣人連合でエンジュに向かって話してくれた。忘れてはいないのでしょう?
「今の貴方なら、答えを聞かせてくれるの?エド?」
「─────嘘、だろ?まさか、レディ、貴方が、いや、お前、」
「その名前は出さないでね?もうあの時の私とは違うの」
「参ったな、マジかよ・・・」
「私の名前は『エンジュ・タロットワーク』。
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だから、彼等を招集した。逃げ出さない事を選んだ。
─────これが、私の『高貴なる者に伴う義務』よ。
貴方の答えは?もう一度、私の前で、貴方の口から聞きたいわ」
私とエドワードの話を聞いて、カーク殿下も気づいたのだろう。
目を見開いて、『まさか、嘘だろ?』と呟いていた。
…ドランは全くわかっていません。仕方ないわよ、私、彼と接点ないもの。
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