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幕間~王都での休息~
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しおりを挟む私が投げた問題に、皆さん揃って長考タイム。
まあここで答えが欲しい訳じゃないのでね。
カチリ、とソーサーにカップを戻す音でエドワードがこちらを見る。
「ここで出る結論ではないと思うわ。
本格的に道路整備をするならば、王族直轄の事業となるでしょう」
「そうですね、他の都市で試してみます。ありがとうございますレディ」
じゃあどこにするか、とカーク殿下とエドワードで話が始まる。
ドランもたまに意見を出していた。まとめ役には向いているのかしら?
と、ステューが私にそっと話の続きを促す。
「あんまり乗り気じゃないね」
「そうねえ、多分実現するとキャズが壊れるから」
「この国出るしかないわ」
「そこまで嫌なの?冒険者にだって獣人たくさんいるでしょう」
「アイツらは別よ」
「僕としてはそこまでの違いがわからないんだけど」
「ねえステュー?たくさんの国を回ってきていると思うんだけど、夜の街にも詳しかったりするのかしら?」
「え、どうしたのいきなり。そりゃまあそれなりには。
でもそういう話題ならエドワードの方が適任じゃないの」
自分の名前が聞こえたからか、エドワードがこちらを向く。
こんな所で爆弾を落とすのはどうかと思うが、半人半馬と関わるってんなら知っておいてもいいわよね。
…寧ろ、需要と供給が成り立つのでは?
「どうかしましたか?」
「レディが夜の街に詳しい話題をご所望だよ」
「そ、れはまた」
「言い方に棘があるんじゃなくって?カーティス?」
「ああごめんね謝るよ。だから呼び方直してくれる?」
テヘペロ、とばかりに素直に謝罪するステューに目を丸くするカーク殿下とドラン。エドワードも目を見張った。珍しいのね、こういう姿。
「エドワード、貴方、彼等が喜ぶ事は何かご存知?」
「半人半馬族の好み、ですか?
彼等は走る事を史上の喜びとしていると認識していますが・・・他に何かあるのですか」
「ヒント、私の隣にいる彼女」
「やめてよちょっと」
「我慢なさい、キャズ」
少しばかり格好つけて命令口調にすれば『うぐぅ』と呻いて黙る。すまんキャズ後で謝るからちょっと我慢してね。
ステューとエドワード達はじろじろ、とキャズを眺める。
ちょっぴり遠慮がちなのはドラン。婦女子に対して失礼とか思ってそうね。ドラン公爵の躾はきちんとしていそうだ。
今ひとつピンと来なかろう。キャズはケリーやディーナにも話していないのか、二人も気付いていなさそうだ。
「キャズ、貴方ケリー達にも言ってなかったの」
「そ、─────みだりに口外すべき事ではないと思いましたので」
いつもなら『そんなの言えるわけないでしょ!思い出したくないのよ!』と言いそうな所をグッと我慢したようだ。
セバスの英才教育は流石である。
「ふたつ、彼女の得意武器」
「キャズ嬢の得意武器、ですか?」
「確か、・・・え。」
「えっと、あの?エンジュ様?」
エドワードが考え込むように声を発すると、流石にケリーとディーナは思い出せたようだ。
そういった事にも耐性のありそうなケリー、分かるものの今ひとつピンとこないディーナ。
他3人はキャズの戦っている姿を見かけた事がないからか気づかない。ステューは気になるというよりも『どうなるかな?』と展開を期待しているように見える。
「ケリーは察せたかしら?」
「ええ、まあ。私の想像が当たっているのであれば、ですが。
キャズが口外しないのも納得はできますね。にわかには信じがたいのでは?」
「・・・・・話さなかった、という点で察していただければ」
この場でなければまくし立てていたかもしれない。
多分この後2人にはがーーーっと話をするだろう。ガス抜きは大切です。はい。
内輪だけのやり取り、が気に入らないのかドランがケリー達を睨みつけている。口を開いて文句を言わないだけの分別はあるのだろうが。
ステューの話していた事は当てはまるのだろうか?
やはり騎士団内でも身分差と本人の資質や剣の腕は関係ないのだろう。前にディーナもパワハラやモラハラあったみたいだものね。
近衛騎士団はそういった事は無さそうだが。
と、ここに来てエドワードが何かに気づいた。
ぴしり、と固まった後にキャズを見る。そして私。
「あの、レディ?まさかとは思いますが」
「あら、ようやく思い出してもらえた?貴方ならキャズがギルドの仕事をしている場も見た事があると思うのだけれど?」
「ええ、数度ばかり。いやでもあの、・・・彼等が、そうだと言うのですか?」
「もしかしてそういうお店も扱っていたりするのかしら?サルドニクス商会では夜の街にもお店を出していたものね」
「あー・・・はい、一部ですが。しかしあの紳士的な彼等の姿からは想像もつかないですね」
「人って見かけによらない面があるわよね」
あえて言葉にはすまい。
エドワードもその辺りの配慮はしている。
察しの悪いカーク殿下とドランは気付いていないが、ステューは理解したのか『ぷくくくくく』と肩を震わせて笑っている。
ディーナにはケリーが一言、二言耳打ちすると『あぁなるほど』とあっさり理解した。騎士団に揉まれすぎてディーナの許容範囲深くなり過ぎてやしないだろうか。
「なるほどね、あー笑った。そりゃビックリだね、キャズ嬢が口にしない訳だ。それにしてもよくそんな事わかったね」
「企業秘密にさせてもらうわ?まあそんな訳で、ちょっと私の騎士が苦手にしているから、王都で闊歩されてしまうと困るのよ」
「承知しました、配慮させてもらいます。
万が一にも何かあってはサルドニクス商会も困りますからね。獣人連合であれば獣人の性癖にも寛容ですが、他国では同じようにはいきませんし。ましてや王都となるとまだ私の商会もそこまで手を伸ばせませんので」
「ま、そうだね。あと10年はかかるんじゃないの?僕の支援があってもそれくらいだよね」
「飽きさせないように精進させてもらうさ」
「ま、頑張ってよ。エドワードにはちょっと期待してるから。
カーク殿下は悪いけどまだ手を貸せないよ」
「っ、まだ、ダメか」
「うん、駄目。もっと頑張りなよ。出し惜しみしてるような人に手は貸さないよ」
おそらく朝から来ていた件はこれだろう。
カーク殿下のこれからに『カーティス侯爵』の力を借りたいと直訴しているに違いない。
セバスの調べた資料には、カーク殿下の陣営はドラン公爵家とサヴァン伯爵家の一部のみ。流石にこの二人が動かせるだけの範囲のみといったところか。
それだけに年齢の若い者が比較的多く、勢いはあれど知識の深さが足りない。
そこをステュアート、『カーティス侯爵家』が陣営に加われば不足部分の補完となる。
しかし、当の侯爵本人にダメ出しを食らった、という訳だ。
ステューの評価は『出し惜しみしている人』な訳だ。
本人自身はそんなつもり無いんだろうけど、ステューから見たらまだまだ頑張れるはずでしょ、と評価している。
…結構高く買っていると思うんですけどね。
その判断に納得がいかない人が1人、いる。
「黙って聞いていれば、不遜だと思わないのか」
「金魚のフンは黙ってたら?それに不遜だと言うなら君もでしょう。
『公爵令息』が『侯爵』に楯突くなんていい度胸しているね。ドラン公爵の躾は充分でないようだけど」
「っ、身分差の非礼は後で幾らでも詫びよう。
だがカーク殿下に対しての礼儀はどうなのだ!言葉や内容もだが、今日の態度も何なのだ!我々を無視しておいて!」
「それは仕方がないでしょ?そもそも正式なアポイント取っていたのはエドワードだけだよ。君たちはそれに付いてきただけでしょ」
「いくら面会予約をしたところで貴様は無視するだけだろう!」
「そうだよ、だって会いたくなかったし。この話を蒸し返されるの何度目?
カーク殿下、僕は君に言ったはずだよね。
陣営に加わってほしいなら、自分の配下にしたいならその器量を示せって。君は僕が求めた事をしていないのに、僕に力だけ貸せって言うの?それは無理だよ」
「まだ、足りない。そういう事だな」
「足りないにも程がある。器量を示せ、って言っている意味をちゃんと理解できていないでしょ?だからこうやって見当違いの話をする」
「この2年、必死になってやってきた。努力もしている。結果も出してきたはずだ。まだ、まだ足りないならどうしろって言うんだ」
言葉を絞り出すようなカーク殿下。
第二王子として、できる範囲の事を必死になってやってきたのだろう。彼の考えるできることを。それを身近で見ていたドランは気が気でない様子。エドワードはステューが求める物が何であるのか少し理解しているのか、困ったような顔をしている。
私?今、凄く場違いなところにいるなと思ってずっとケーキ摘んでいます。
チラッとキャズ達を見ると、なんとも言えないような目をしてカーク殿下とドランを見ていた。
擁護するまででも無いけど、理解はできるというような顔。
ケリーは男として感じる物があるのか、一番それが顕著な顔をしていた。それにドランが噛み付いた。
「自分はなんでもわかっている、そんな顔だなクーアン」
「そのような事はありません」
「気取った物言いをするな。お前はそんな奴ではないだろう?そういう所も気に入らない」
「場に合わせた振舞いをするのは当然の事です、ドラン卿」
「主の前だからか大人しいなクーアン卿。だいたい、」
「はいそこまで。君も本当大概だよね。そんな事でよく王国騎士団なんて勤まるね?君の先輩一体何を教えているの?」
「なっ、」
「やめとけドラン、今はお前が悪い」
「なにを、」
「ナル落ち着け、どうしたんだ」
ヒートアップしかかったドランをステューが止め、エドワードが止め、カーク殿下が止めてようやく止まった。
落ち着いた、というより一旦我慢した、が正しいか?
婚約者できて落ち着いたって誰情報よちょっと。
単に拗らせちゃっただけで表に出てきてないだけじゃない。
ケリー達はそれを知っていたのか、言い返す事も表情に出す事もない。キャズは話半分に聞いていたくらいか。少し冷ややかな目を向けている。…半人半馬ショック落ち着いたかしら。
さてどうしたもんかなあ、この空気。
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