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獣人族編~時代の風~
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しおりを挟む滔々と不満をぶつけまくるネキ・バエル。
それをただ聞き続けるフェンイルさんも、たまに言い返しもするが黙り込む時もあるのを見るに、思い出す事もあるのだろう。
思いの丈を散々吐き出したのか、ハアハアと肩で息をしながらもフェンイルさんを睨み付ける。
と、フェンイルさんは床に額を付けて謝った。
「すまなかった、ネキ・バエル」
「・・・」
「正直、お前の言う事にも一理あるのだろう。俺はこれまで散々な真似をしてきたし、その影で傷付けた人も多いのだろう。それは認め、謝罪しよう」
「ようやく、罪を認めたか」
「だが、お前の想い人を奪った、という点においてはどうにも納得がいかない」
「まだ、そのような事を!」
「待ってくれ、その『想い人』とは誰の事だ?
俺には全く覚えがない。かなり女性関係は悪かったが、相手がいる女は一切相手をしていない。俺の中でそれだけは言える」
「っ、この場に及んで!ラミルちゃんの事も!キラミラの事も!シェーナの事も遊びというのか!」
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ガロン卿とマナト卿は『さすが蛇族だな、記憶力がいい』『恨まれると子々孫々までというが本当だな』『一晩とは…やりますね坊ちゃん』『適齢期に入る雌の思考は怖い物があるからなあ…』とか言ってる始末。
もう1人の言い分に関しても、10代後半のエル・エレミアの学園に入る前または帰国後の、女性に関する素行の悪さに関してなので、もうなんとも言えない。
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『今のうちに唾付けとこう』とする女の子達が体を使って落としに来ていた、としても驚かない。…そういうお国柄だものここ。
しかも一夫多妻制みたいだし、アルミラ家子息、であれば愛人の1人や2人抱え込めるだろう。女の子達にとっては玉の輿だ。
結局、ガロン卿やマナト卿が間に入り、女性問題に関しては『女が目移りするのは男に魅力がないせいだ』『坊ちゃんと比べてその頃のお前に男としての甲斐性がなかっただけだから諦めろ』と、どうにも体育会系の説得をしていた。
…そこで反論するならまだしも、何故聞き分ける?こういう吐き出す場が無かったからなのか。よく分からない…
「・・・で?私はいったい何のお芝居を見せられているのかしら」
「申し訳ない」
「誠に申し訳ありませんでした、レディ・タロットワーク。
己の不徳の致すところに身が狭い思いです」
「まあ、わだかまりが無くなったのならいい事ね。
先程、フェンイル・アルミラに対して恨みを持つのは貴方だけでは無いと言っていたけれど」
「これからの私を見てもらって判断してもらうしかないと思っています」
「・・・私にも非がございます。今後は忌憚なく言葉を交わし、新たな関係を築いていければと。勿論フェンイル殿が許して下さるのであれば、ですが」
「こちらこそ申し訳ない。是非お願いしたい」
「長い間の不満をぶつけてしまった私が言う事では無いのかもしれませんが、貴方の不評を晴らす為に力添えをしましょう」
男らしく、一度ぶつかり合った事で和解した様子。
こういう所はサッパリしていていいわね。…ガチンコ勝負のぶつかり合い、もこの国の人々にとっては無くてはならないものなのかもしれない。
大団円だな、と思っていたところに、中央庁舎の職員が駆け込んできた。
「す、すみません!一大事です!」
「なんだ騒々しい」
「ここには指示があるまで近寄らないように、と言っていませんでしたか?」
「しょ、承知しておりますが!事は急を要します!」
「一体なんだと言うのだ」
「こ、こちらを!」
慌てている職員さんが、メモ用紙を手渡す。
それを受け取って読んだ閣下の目尻が吊り上がる。
「どうなっている!被害はどのくらいだ!?」
「閣下!?何事で・・・なんですって!?」
「どうしたというんだ!?」
メモを読んだ閣下が声を荒らげると同時に、そのメモをガロン卿へと突き出す。
それを読んだガロン卿も声がひっくり返った。
その様子に、職員さんが悲鳴のように叫ぶ。
「現在入ってきている情報より、リリンゴートに入港する全ての商船が交渉を打ち切り!今後獣人連合との通商を断ってきています!
他の街でも同様に、ほとんどの商会が撤退するべく店を閉じています!この国から出ていってしまうのも時間の問題です!」
「どういう事だ、どこの国の差し金だ?」
「閣下、保守派のやり口でしょうか?それにしても国の商業全てを道連れとは考えにくいです」
「全ての商船が交渉を打ち切りって・・・いつからだ?リリンゴートからの連絡が途絶えていたのか?おい、これはいつの情報だ!」
「はっきりとはわかりません!ですが2日前から商船が沖に停泊し、一向に港に入ってこないと・・・食料は国内で生産しているものについては流通可能ですが・・・」
「おい、後は何だって言うんだ」
「流通に関しても阻害されているようで、未確認ですが半人半馬族の協力が得られなくなったと」
「半人半馬族が?あの温厚な種族がどうしたというのだ、これまでそんな事はなかったはず」
「保守派であの種族に影響があるような者がいたか?政治的な駆け引きには一切応じないはずだろう?」
「何やら、不穏ね?」
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不肖の息子を救ってくれた恩は返しても返しきれないのだが」
「いえ、もう済んだことですから。私達はお暇いたしましょう」
「追って礼をさせていただきます」
「申し訳ない、レディ。貴方には最大の敬意と親愛を」
なんか大変な事が起きているみたい。
私にはどうする事もできない政治的な話のようだし、という事で引き上げた。
その後、オルドブラン閣下側はてんてこ舞いで事の収束に当たっているようで、別れの挨拶もろくに出来ないまま、私達は帰路に着く事になった。
…王都から港町であるリリンゴートまでは、ダチョワールの鳥馬車に乗りました。だってキャズが必死な目で見てくるんだもの。その背後からは半人半馬さんが期待を込めた目で見ていたが、無視しました。
リリンゴートからは、ギルド管理の連絡船を用意してもらった。
他国の船が全然行き来しない港に、ぽつんと大きな船が止まっていたのでちょっと異様に写った。
********************
「はあ、慌ただしかったわね、帰り」
「そうね、こっちはギルドに詰めていたのもあったから最後は見届けられなかったけど。円満に済んだのよね?」
「そうね、不幸な行き違いがヒートアップした結末だったわ。
しかしフェンイルさんの過去は掘り起こしちゃいけないレベルかもしれないわね?獅子王に匹敵しそう」
「え、そ、そこまでなの?」
「そうみたいよ?だからキャズ?気をつけなさいな」
「っ、ま、まだそんな関係って訳じゃないわ。
それに、これからどうなるかだって分からないのだし」
少し焦ったようなキャズ。耳が赤い。
どうやらあの晩、とてもご縁が結ばれたようで、フェンイルさんからは『今後の付き合いを考えて欲しい』と言われたとか。
フェンイルさんにはキャズの激しい所とか気に入ってしまったのかしらね?キャズもあの晩の事を覚えているのかいないのか、満更でも無い様子。
…まあ、今後に期待、といった所かしら。シオンの部下とはそこまで進んでいないようだから、好きにするといい。
と、オリアナが話しかけてきた。
「そういえば、あの場で申し上げる事でもないと思いまして、ご報告が遅れましたが。
今回の一件、リーベル様の耳に入りましたようです」
「え?リーベルさんて、ゼクスレンの妹さん、よね?
オリアナ、フレーベル商会に話を通していたの?」
「いえ、こちらからは何も。ただ、相手のジャーク・マバール商会と、中央庁舎の両方にリーベル様の『耳』がありましたようで。
今回の騒動を踏まえ、相応の仕置をさせてもらう、と」
「えっ・・・まさか」
「恐らく、他国の商船が入港しない事や、あまたの商会が店を閉じているは、リーベル様の指示によるものかと」
う、うわぁぁぁ…
私自身、特に被害を被った訳でもないし、どうこうなったらいいとか願った訳では無いんだけど、リーベル・フレーベルにしてみれば『タロットワーク一族を軽視した』とでも判断した様子。
恐るべし、フレーベル商会の力。
というのか、リーベル・タロットワーク個人の力なのか。
『フレーベル商会』の名前を冠しておらずとも、他の商会に対しても圧力を掛けられる存在であるという事か。
しかし半人半馬族が仕事しない…っていうのもリーベルさんの影響なのかしら?
…まさか勝手にあの半人半馬さんが反旗を翻したとかないわよね?
帰国するべく船の中で過ごした数日間に渡る旅の間、絶え間なく入ってくる獣人連合の様子に気を揉んだ時間でした…
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