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獣人族編 ~迷子の獣とお城の茶会~
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しおりを挟む散策することしばし。
花壇を愛でるために作られたであろう、東屋。
既にここへ案内することが決定していたのか、お茶が運ばれている。
そこにはちゃっかり、オリアナの姿。
「本当に、神出鬼没ね」
「王城におきまして、私以外にエンジュ様をお守りするものがいるばずもございません」
「そ、そうですか」
「ご用意整いましてございます。タロットワークの騎士と共に、こちらの警備に立ちますのでごゆっくり」
「あ、ありがとう」
「よろしくお願いしますわ、オリアナ。さ、お座りになってエンジュ。クーアン様もいかが?」
「いえ、私は警備がありますので」
「あら残念ですわ。学園時代も一度もお話しできませんでしたから、ちょっと期待しましたのに。
いつもアリシアさんとはお話ししていて、羨ましいと思っていましたのよ?」
「ですって、ケリー?」
「お言葉だけで充分に」
なんだかいつもよりも他人行儀なケリー。
ていうかいつの間に召集掛かったの?しかもナニその制服。カッコいいじゃない。好みだわ。
なんていうか、その格好で無理に迫られたい。こう手首とか掴まれて押し倒…ゴホンゴホン。
オラオラ系に弱い私としては、この感じで壁ドンとかされたら『抱いて!』ってなりそう。
呆れたような視線でケリーがチラッと見た。
妄想です、妄想。いいじゃない少しくらい夢持ってもさあ。
お茶を一口飲むと、すっとした香りが。
さて、さっきのなんだったのか聞かなくちゃね。
「で?何したの?エリー」
「私は特に何もしてませんわ。王妃様がどうしても修羅場に突入する!と仰って聞かないものですから、止めるのに難儀したくらいで」
「あっ、そうなのね」
「いくらなんでも、元とはいえ婚約関係にあったお2人の所に王族自ら乗り込んでいくのも違いますでしょう?
だから、血縁者に一役かっていただいたのですわ」
「それが、さっきのレナーテちゃん?」
「ええ。先だってご挨拶頂いておりましたし。小道の近くで、どうにも気遣わしげにされていましたから、ちょっとご協力頂きましたの。
きちんと、お母様にも許可を頂きましたわよ?むしろお母様の方が大変な意気込みでいらしたわ」
義理の弟が、元婚約者と2人で消えたとなれば、気にせずにはおれないのだろう。
どうやら、カイナス侯爵家では、あの2人の婚約破棄からお相手の動向にはかなり気を揉んでいたようだから。
夜会で2人で話していることも、あまり良く思われていなかったようだ。…とは、セバスの調べてきた情報です。
「レナーテ嬢も、大好きな伯父様を助けないと!と闘志を燃やしていらっしゃいましたから。
二つ返事でお引き受けくださいましたわ。子供の乱入に、さすがのフィヨル男爵夫人も度肝を抜かれておりましたもの」
「ちょっと現場を見たかったわね」
「ふふ、エンジュが来ていたら大変なことになってましたわよ?
カイナス伯爵の慌てぶりが目に見えますわね。・・・でも、そちらの方が良かったかもしれませんわ」
「なぜ?」
「だって、先程のカイナス伯爵の顔、ご覧になりまして?フィヨル男爵夫人にもお見せしたかったこと。
もう、見ているこちらが顔から火が出そうなくらいでしたわ。惚れ抜いていますのね、エンジュに」
「うっ」
あの時のシオンは、確かに見ているこちらが奇声を上げるレベルだった。
スチルだろ!?これ絶対スチルだろ!?という。
あー、桃子さんに会いたい。
これはまだ乙女ゲーの途中なのかと問い詰めたい。そういえば、ドランとはどうなったのだろうか。
「どうかしまして?」
「あの、ドランってまだ独身?」
「ドラン、って。あのオリヴァー・ドラン様の事ですの?なんでまた」
「いやちょっと思い出して」
「そうですわね、まだ婚約中でしたかしら?ねえ、クーアン様」
「・・・そうですね、確かまだ独身です。婚約中の令嬢はおりますが、本人が騎士としてまだ未熟だという事もあって、結婚はまだかと」
「未熟?」
「自分と同じ一兵卒ですが、本人は近衛を目指しているようです。
私やクロフトと同様に、今年近衛騎士団への入団を希望していますが、どうなるか」
「あら、ケリーもディーナも近衛に入りたいの?」
すると、ケリーは少し笑って言う。
「私もクロフトも、タロットワークの騎士です。そちらの任務を最優先しますが、王国騎士団だと遠方の任務が多く、王都に常駐が難しくなります。
一兵卒で居られればそうでもないですが、既に小隊長の任を頂いています。これ以上出世すると、地方砦の常駐任務も増えてしまいますので」
「そうですわね、近衛騎士団の方が王都に常駐する確率は高いですわ。
今回のように、エンジュの護衛を急遽頼む事もありますから、その方が宜しいわ。腕前も申し分ないようですし」
「お褒めのお言葉、感謝致します」
「うふふ、手に口付けを許しましてよ?」
「王太子妃様はご冗談がお好きでいらっしゃる」
あら残念、と笑うエリー。わかるわかる、ときめきって大事よね。
今のケリー、格好いいもの。制服効果ってやつ?ハァハァ。心なしか、ケリーの視線が痛いです。
その後、エリーがかき集めたという噂話をあれやこれやと聞いた。
まあよくそれだけ集めてきたなと。
その中には、今聞いたドランの話も。
桃子さん…マリーベル嬢との仲は上々のようだ。マリーベル嬢が結婚を強請る事もなく、ドランが近衛騎士になるのを待っているらしい。
彼女自身、なんでも作家業をしているとのことで、貴族女性の中でも高評価なのだとか。
ドラン公爵家は2人の仲を見守っていて、こちらも家との関係は良好とのこと。
ステュー…、カーティス侯爵家のいざこざは、以前ステュー本人から聞いた通り、お家騒動があったようだが、今は静かだと。
弟さんが殆どの夜会なり、公的な仕事をしており、カーティス侯爵であるステュー本人はあまり出てこない。
そりゃそうよね、本人、今は樹海の奥だし。いつ戻ってくるのやら。
カーク王子は公になっていることが主で、なんにも面白いことはない。
アリシアさんとは順調だし、結婚も近い。するとなると、本人が公爵となってからと決まっているので、今はまだお互い恋人同士だ。
横から入ってくるような女性がいるはずもなく、安定しているそうだ。
「わたくしとしては、アリシアさんの方が心配ですの」
「アリシアさんが?」
「ええ・・・未だに『聖女』の話は消えていませんの。巫女頭であるレオノーラ様が頑張っておりますから、神殿内は静かですが」
レオノーラさんか、懐かしい。
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「アリシアさんはあの通りの方ですから、文官となった今でも時折神殿の手伝いに行っていますの。
とはいえ、炊き出しだとか国の公務と併用して、ですけれども」
「本人が率先してやっている事なら構わないのではない?それを悪用されるようなら考えものだけれど。
そのような事はないのでしょう?それに、それも結婚するまでじゃないかしら」
「だと思いますわ。こちらも静観しておりますが、気にしておくつもりです」
後はエドだ。あんまり話聞かないのよね。
今でも色男っぷりを発揮して、ものすごい人気なんじゃないかしら。
それとも、もうガッチリ捕まって、妻帯者かしらね?
だが、意外な事に、彼はエル・エレミアにはいないらしい。
「あら、そうなの?」
「エドワード様は学園を卒業以来、他国を転々としていますのよ。
ご実家の家業を継いで、修行中だそうですわよ」
「ん?ということは、サヴァン伯爵家は、エドワードが継ぐということ?」
「そのようですわね。まだご当主は健在でいらっしゃいますし、それまでに商売の目を磨くのだそうですわ。
お兄様達は他国で外交官としてそのままお帰りにならないようですし」
あらまあ…いつだったか、自分にお鉢が回ってくるかもなんて言ってた気がしなくもないけど、本当になっちゃったのね。
当主になるまでの間に自由な時間があるのは、まだ幸運なのかしら。
いつか会えればいいのだけど。
********************
王城から帰る馬車の中。
護衛してくれているケリーに質問。
「ところで?なんでここに?」
「俺だっていきなり呼び出されて焦ったよ。王城に着いたらオリアナ?だったか?あのメイドに『これに着替えてください』って言われてよ」
「その髪型、初めて見たわ?オシャレよ」
「そうかあ?着替えたらあのメイドにちゃちゃっと整えられたんだ。ちょっと気取りすぎじゃないか・・・?」
「その制服に映えてるわよ。さすがはオリアナね」
どうせなら全部上げても…と不満そうだが、違うんだよケリーよ。
その半分だけオールバック風にしてるのがまたワイルドさを醸し出していいんだよ!
ドSな指揮官様っていうかさあ!!!
タロットワーク別邸へ到着。ケリーの手を借りて降りる。ドレスアップした私を支えるケリー、ちょっと頬が赤い。照れないでくれ、こっちも照れる。
「でもその制服、どこから持ってきたのかしらね」
「それはタロットワークの騎士の正装です」
「わっ」
「おいっ!驚かすな!」
すいっと寄ってきたオリアナ。
ケリーの全身をチェックし、後ろからセバスも来て、うんうんと頷いてチェック。
「サイズも良いようですね。作らせておいて正解でした」
「あの?これセバスが?」
「はい。そろそろ制服があってもいいと思いまして。エンジュ様の護衛は我等がいたしますが、今回のように人目に付く所ではクーアン殿達が良いでしょう。
その時に揃いの制服があれば、一目瞭然かと思いまして」
「確かに」
「目立ってた、という実感はあります」
聞けば、ケリーだけでなく、キャズやディーナにも専用の制服を作っているとのこと。デザイン別で。
誰が?
それはもちろん、マダムである。ドレス作ってくれた人ね。タロットワークお抱えだもんね、そうだよね知ってた。
今度はキャズにも頼もうかな、護衛。どんなデザインなのか気になるわー。
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