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森の人編 ~魔渦乱舞~

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しかし、フラグというのは立っているものなのである。
来ました、アナコンダの大群が。

おそらく、三陣との間にいたのだろう。
でもないわ、この数は。泣きそうです。だが、泣きそうなのは私だけです。



「おいおいおいおい!なんだなんだこの数は!」
「凄いわ!今日は焼肉パーティーね!」
「おおおおお!革職人の血が騒ぐ!!!」
「イヤッホォォォォォォォイイイイ!!!!」



すでにパリピでした。繁殖期関係ないやん。
幼子からご老体まで。もう狩る気満々です。



「皆さん、なんでアレ見て挫けないんですか」

「いやいやいや、あのな、レディ。繁殖期のパイソンスネークはな、美味いんだ」

「ハイ?」

「何時もよりもお肉がしっとり柔らかくなるの」
「卵も持ってれば、一石二鳥ね」
「皮も光沢が出るし、強度も上がるんだ」
「だから、奴等の繁殖期はお祭りなんだ」
「まあこの数はだけどな」



でしょうね、なんか結界ミシミシ言ってますから。
私から魔力供給されてるから保ってますけど。

でもやだやだ、視界の隅になんか結界をうねうね昇ってるやつがいるぅ!!!下から見たくないんですけど!!!



「お、元気なやついるなー」
「おーい、あれ撃ち落とせるかー?」

「待て待て、子供達の的にするか」
「あっちにもいるぞー」



皆さん、結界が私のおかげで破れないとわかるとめっちゃ余裕。ていうか、子供達がやる気出して皮鎧付けて弓持ってんのかわいい。

でもその隣で包丁研いでる革職人が怖い。
もしかしてその包丁で倒しに行ったりしますか?



「大丈夫よ、レディは私達が守るからね」
「任せなさい、得意だからね!」
「ドンと大樹に乗った気持ちでいなさい!」

「まかせます・・・」

「そうそう、ここならあんまり見なくて済むでしょ。
さすがに向こうの結界の際は行かない方がいいわよ」
「凄かったわねー!あれ!絵描きがスケッチしてたわよ、あまりの光景に」
「わかるわぁー、血が滾るわよね」



滾るんだ。滾っちゃうんだ。皆さんお元気ね。
私なら絶対見たくないんだが。

どうやら、エルフはパイソンスネークを駆除しに行くことが大人への第一歩というしきたりがあるそうだ。
弓一本で仕留める、というのが試験らしい。アレを仕留められるだけの腕があれば、他の魔獣も問題ない!とされるそうだ。

頭付きで食卓に上ることは『お祝い』だそうです。
ダメだ私、この郷に住んでいけない。あんなものの頭付きとか泣けてくる。タイの尾頭付きとエラい違い。

そしたら彼等の生き血とか、強壮剤になったりするのかしら。
…だとすると、皆の目にははお宝がやって来てるようにも見えてます?



「お肉、お肉、お肉、お肉」
「卵、卵、卵、卵」
「皮、皮、皮、皮」
「バッグに靴、いやマントにもブーツにも」



完璧にお宝です。遠くでは既に狩りが始まっています。
もう考えるのやめよう。ああ、お茶が美味しいなぁ…



「見てみてー!僕の矢が当たった!」
「わーん、当たらないよー!」

「頭を打つんだよ!腹も狙え!よーく見て!」

「「「「「はーい!」」」」」



*******************



ヘビ祭りが開催されてから一昼夜。
全然皆さん元気です。私だけグロッキー。

確かに焼肉は美味しかった。
なんていうか、脂はしつこくなく、お肉は柔らか。しっかり火を通していても、肉本来の味やジューシーさは損なわない。

多分、1人1匹は食べてる。確実に。
この郷には30名くらいの老若男女…いや、幼子と老体、そして繁殖期のお姉さんがいるのだが、皆食べてます。という事は30匹は美味しくいただかれているってこと?

それでもまたパイソンスネークはいる。
ていうか、どこかから来る。



「さすがにしつこかないですかね!?」

「いやいや、ひとつの球状の蛇スネークボールにはだいたい30~50いるからね」
「大きい規模だと100いる事もあるわよね」
「まだ半分くらいじゃないか?」



もう見るのも嫌。なんか気になって寝れないし。
こっそり魔法で殲滅してやろうかと昨日の夜ちょっと思った。

広場にいると、否が応でもパイソンスネークを見る。
既に息絶えて捌かれるやつね。あと、結界をうねうね登ってる元気なやつ。子供達の的になってるけど。



「レディには刺激が強すぎるのねえ」
「我々には見慣れたものじゃからのう」

「もう一生分見たと思います」

「なら、家の中にいるといいわ。結界はレディのおかげで安泰だし、休んでいてもらいたいからね」



うーん、そうしようかな?と思っていると、勇ましくも皮鎧を身につけ、ヒラヒラとチュニックの裾をなびかせて歩くリーファラウラさんの姿が。
私を見ると、まっすぐこちらへと向かってきた。



「随分と辛そうね、人の娘」

「平気なんですねリーファラウラさん」

「当たり前ではなくて?こんな事で弱るようでは、エルフの風上にもおけませんもの」



フン、と鼻で笑う。ふぁさっと髪をかきあげれば、絹糸のような金髪がキラキラと陽の光を反射する。

利き手には篭手が装備されている。弓を引くのに保護してるのかも。そのまま腕組みし、私を見下ろした。あ、彼女の方が背が高いです。



「族長様も見当違いですこと。このような人の娘に生きてる杖リビングワンドを託すだなんて」



その一言で思い出した。そういえばそんなものを預かっていたなって。もう蛇のショックで忘れてたわ。

周りにいたエルフさん達がすっとリーファラウラさんとの間に立つ。そのおばちゃんエルフは同じように腕組みして言った。



「リフ。気持ちは分からなくもないが、あんたには荷が重いって事さ。弁えな」

「まあっ!そんな事ありませんわ!私だって、本調子であれば!」

「そうかもね、でもあんたは今本調子とは
気を抜くと暴走するような術者に、どうして我等の至宝でもある生きてる杖リビングワンドを託せると思うんだい」
「『世界樹ユグドラシル様』は全てをお見通しだよ、リーファラウラ。さあ、あんたはあんたの出来ることをおし。森の主も見ているよ」

「わかっていましてよ!」



まるで子供の駄々のようだ。
リーファラウラさんが幾つなのか知らないが、このおばちゃんエルフ達にとっては子供なんだろうな。
…そうなると私はなんだ、赤子ですか?

リーファラウラさんがいなくなったのを見て、生きてる杖リビングワンドを出してみる。
で、どうやって使うんでしたっけ?結界の強化っていってたかしら?

試しに少し魔力を込めると、



「え」

「おや。・・・そのまま魔力を込めてみてもらえるかい?」

「はい」



少しずつ流すと、枝は伸び、まるで絡み合う様に伸びる。
葉っぱが付いていた先は、どんどん葉っぱが生えてくる。
最終的にちょっとした観葉植物みたいになった。ベンジャミンの木のように、木の幹部分は螺旋のよう。

長さは1.5メートル程か。
とはいえ重さはほとんど感じない。じっと葉っぱが茂った先を見ていると、ポムっと花が咲いた。



「・・・はな」

「おやたまげたね!花まで咲かすとは」

「えっ!?普通咲かないんですか!?」

「見たのは2回目だよ」
「ワシは初めてだなあ」
「綺麗なものですね、『世界樹ユグドラシルの花』は」



しげしげと確認。…なんだろうか、この花見覚えが。
某RPGのヒロインの目に刺さって咲いてませんでした?
似ているだけだよね?違うよね?

しかし、先程までギシミシと言っていた結界の軋みがピタリと止んだ。もしかして安定したのかしら?魔力の巡りが良くなったのかもしれない。

私の気の所為ではなく、パイソンスネークのシューシューいう声も聞こえなくなったそうだ。だから寝ずらかったのか…耳鳴りかな?と思ってたわ。

とりあえず観葉植物状態だったので、そっと地面に刺しておきました。何故か倒れなかったのでそのまま放置。
あーよかった、今日はぐっすり寝られそう…
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