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森の人編 ~魔渦乱舞~

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だが、平和だったのはその日の夜までだった。
朝方、ツリーハウスのドアが叩かれる。

出てみると、ディードさんが。



「朝早くからすみません、レディ。緊急事態のようです」

「どうかしたの?」

「二陣の一部が突破されたようです。
一陣が落ちた、という連絡は来ていませんが、私はこれから確認に向かいます」

「二陣という事は、青の均衡ブルーバラストの子達が戻ってきているの?」

「いえ、彼等はその場で持ち堪えると告げて、他のエルフ達に伝令として郷へ戻したようです」

「わかったわ、郷は私が。ディードさんは確認に」

「はい、頼みます」



身支度を済ませ、外へ出る。
ツリーハウスの下、族長宅の前の広場には、二陣から戻ってきたのだろうエルフが数名。回復はしているのだろうが、顔に疲れが見える。

周りでは料理をするエルフ達が、心配そうにしていた。
しかし手を動かし、料理を続ける。自分達の作る料理が、前線で戦う戦士達の命綱ともなる事を知っているから。



「すみません、レディ。後を頼みます」

「ええ、わかったわ。頼りないかもしれないけど任せて」

「貴方以上に適任はいませんよ。皆もいいですね、郷の結界は何があっても壊れません。ここを離れず、作業を続けなさい。
貴方達の安全は、ここにいるレディが護ってくださいます」

「わかりました族長」
「お気をつけて」
「レディの事は我等にお任せを」

「・・・ん?私が心配されてるの?」

「だってなあ」
「私達の半分しか生きてないものね」
「娘みたいなものよね」
「違いない!」



気後れしないようにしてくれているのだろう。
ここ数日で、私も彼等と打ち解けてきているし。

と、また出立するエルフの戦士に混じり、1人のエルフの女性が駆け寄った。



「族長、私も行きますわ」

「リーファラウラ、貴方は待機です。残りなさい」

「私も戦えます。ここに残る必要を感じませんわ」

「それを決めるのは貴方ではありません、

「族長様!」

「貴方は元々森の人エルフの中でも感情の起伏の激しい子でした。今は繁殖期でそれが更に顕著となっています。
戦いのさなか、貴方は自分の感情を制御する事ができますか?」

「当たり前ですわ!」

「だとするならば、今この場でそうして激昂している事が不安でしかありません。前回のタイドでクルエリーサが、覚えているでしょう」

「っ!」



押し黙るリーファラウラさん。
そのクルエリーサ?さんがどなたなのか知らないが、何やら前回のタイドで一悶着あった様子。

そのまま俯いて押し黙るリーファラウラさんを放置し、ディードさん達は足早に郷を出立した。



********************



その場はすぐに皆が解散し、元の持ち場へと戻る。
料理をする者、里の入口に立つ者。
リーファラウラさんも気付けばいなくなっていた。

私はまたもやテーブルと椅子のお世話になり、朝ご飯。



「たーんと食べてもらわないとね!」
「力つけないとな!」

「え、ええと?さっきのクルエリーサ、さんというのは」

「ああ、クルエリーサねえ」
「あれも可哀想だったなあ」

「お亡くなりに、なった、とか?」

「いや生きてるわよ」
「でもなあ、クルエリーサが暴走した事で仲間内に結構被害が出てなあ」

「あれは凄かったわよねえ」
「ああ、あれが外界の花火かと思ったよ!」



前回のタイドの時、そのクルエリーサさんは繁殖期でパリピ状態だったらしい。
元々物静かな性格の多いエルフの中でも、純粋なエルフにしては社交的な子だったとか。今のリーファラウラさんも似ているという。

周りの反対を押し切り、討伐に出たクルエリーサさん。



「よせばいいのになあ、魔法を連発してなあ」
「あれは凄かったわよー、他の子達にも伝染しちゃって」

「森の木々もなぎ倒す程の勢いでな、魔獣も討伐できたが、仲間もしちまったんだ」
「死人は出なかったのだけど、それなりに重傷者がね」

「だから、繁殖期の女を戦場に出すのは禁止となったんだ」
「クルエリーサはね、リーファラウラのいとこなのよ。クルエリーサ本人もものすごく気落ちしてしまって。今はほとんど家から出てこなくなってしまったの」

「なるほど・・・それはさすがに許可できませんね」

「リーファラウラも魔法も弓も扱う戦士なんだがな。繁殖期でなければ喜んで見送らせてもらうが・・・今はな」
「暴走したら凄そうなのよね・・・強いだけに」



狂戦士状態バーサーカーモードになっちゃうということか。しかしそれは避けたい。それでなくても、今はフォローできる人がいるとも限らないのだから。暴走したら誰かが止める、というストッパーがいればまだしも。

と、私の元に魔法の鳥が飛んできた。
肩に止まると、二、三言葉が流れる。
私はその言葉通りに、少し皆さんから離れる。広場の隅のベンチに腰掛けると、背後にオリアナが現れた。



「おかえりなさい、オリアナ」

「戻りました、我らが主。ご報告です」

「二陣が破れたと聞いたのだけど。一陣が崩れたのかしら」

「どうやら、そのようです。とはいえ、獅子王殿が護る場ではなく、別の郷が受け持っていた所からの様ですね。
見に行きましたが、現在は立て直しています。ですがその時に逃がしてしまった魔獣が近くの二陣を襲いました。その魔獣が些か厄介であったようで、多数の負傷者が出ています」

「・・・援護に行くべき?」

「いえ、それは族長殿が行きましたので不要でしょう。
ある程度は私の方で間引いておきました」

「そう、なら安心かしら」

「・・・」

「オリアナ?」



少し、口ごもった。何かしらの不安要素でもあるのだろうか。
やはり最終手段、セバス召喚魔王降臨をすべき?



「あの、エンジュ様。パイソンスネーク、という魔獣をご存知で」

「ああ、あれね・・・エルフの皆さんは好物のようよ?
昨日ご馳走になったわ、蒲焼きを」

「そうですか、ご存知ですね。あれはこの大森林でのみ生息する魔獣で、エルフの好物のようです。しかし、今現在、森の至る所で繁殖をしています」

「それって、ディードさんも言ってたけど球状の蛇スネークボールってやつ?」

「はい、ここへ来る前も見ました。普段はエルフ達が食料調達として駆除しますが、今はタイドの為、狩人が皆そちらへ行っています。が仇となるかもしれません」

「普段は駆除できてる数が、駆除できない。大量発生に繋がるということ?」

「おそらくは。あれは成長すると10メートルほどにもなります。郷の結界があれば大丈夫でしょうが、大量に来ると、その・・・」

「あっ、うん、言いたいことは察した」



破れる、破れないではない。
そんなアナコンダが大量に来たら見た目で負ける。
ヤダヤダ、そんなの見たくない。

エルフさん達はもしかしたら食欲が勝って別の意味でパリピ状態になるかもしれない。・・・それはそれで見てみたいような気がしなくもない。



「一応、こちらでも見かけたら潰してはおきますが、私もこの森の全てに目を配れる訳ではありませんので。戻りしな、族長殿にも報告をします。エンジュ様も無理をなさらない様」

「ええ、わかったわ。・・・ごめんね郷が壊滅してたら」

「その時はエンジュ様の魔法で、ですよね」

「否定はしません」



私もキレたら大魔法連射してこの辺何も無くなるかもしれない。そんな時に広範囲魔法って便利よね。こんがり焼いたらいいかしら。それとも爬虫類だから氷?…はっ、私も危ない思考になってる!

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