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森の人編 ~種の未来~
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しおりを挟む先に歩いていた獅子王に追い付くと、そこは森の中とは思えないくらいポコっと開けた荒野。
それまで草原に近い所を歩いていたのに、一定の場所を境に何も無い。ほんの僅かに苔…らしきものが生えているのを見るくらいだ。
「こんな所が、あるのね」
「その昔、ここでデカい竜種と戦ったらしいぜ。その時の影響でここ一帯だけば木も草も生えねえ。
竜種の息吹の影響なのか、その当時のエルフや人間の魔術師が放った魔法のせいなのかは未だにわからねえみてえだがな」
こんな広範囲に渡っての影響、って何をしたらこうなるの?
原子爆弾でも落としました?それともN2爆雷…ゲフンゲフン。この世界には秘密結社はいないはずだ。うむ。
んじゃ始めるかね、とばかりに青髪君へ向かう獅子王に私は声を掛ける。
「待って、アルマ。その子は私が」
「あん?戦りてえのか?」
「ええ、お仕置きをしてあげようかなって」
「・・・こりゃいい。カーバイド、エンジュに喧嘩を売ったのか?」
「いえ、滅相もありませんよ!・・・ちょっと腕試しをお願いしただけです」
「・・・あの女、ジョシュアに勝つつもりなの?」
「危なくないでしょうか?レディは前衛職ではないですよね?」
「誰に喧嘩売ってんだよジョッシュの野郎。おいシェリア、回復魔法の用意しとけ」
「浅はかというにも程がありますね」
「何言ってるのよウルズ、ジョシュアが負けるわけないじゃない」
「回復魔法、ですか?」
「馬鹿なのか?ミレイユ、お前獅子王様に勝てないジョッシュがレディに勝てる訳ないだろが」
パーティメンバー同士で論争中。
私はそれを聞いて青髪君へ笑いかける。
「いい仲間ね」
「そうですね。・・・ただ俺が『負ける』前提なのが悔しくもありますが」
「いいのよ別に?仲間に助けを求めても」
「余裕ですね、レディ。もし俺が買ったら何かご褒美をくれますか?」
「私ができる事ならいいわよ」
「じゃあ楽しみにしておきます。とりあえず、アイツらに頼らず自分の力を試させてください」
チャキ、と長剣を構えた。
その瞳にはさっきまでの遠慮のあるものではなく、私を『敵』として認識した色。さすがにA級の冒険者だけあって、切り替えは上出来といえる。
対する私は、ある程度の距離を取って杖も出さずに佇むだけ。獅子王が私と青髪君の間に立ち、意思確認をする。
「んじゃ、1VS1の試合だな?」
「はい」
「危なくなったらパーティに声を掛ける事は許可するわ」
「随分甘いもんだな?いいのかエンジュ」
「これくらいしてあげないと私の相手にならないじゃない」
「・・・怖え女だよ全く。それでいいんだなカーバイド。最初は1人でいいのか?」
「はい、自分の力だけでどこまでやれるか試したいので」
「何よあの余裕!やっちゃえ、ジョシュア!」
「お二人共、怪我なく終わってください・・・」
「・・・これで俺達も絞られる事が確定したな」
「一蓮托生、ですか」
「嫌な言葉だな、一蓮托生」
********************
獅子王の試合開始の合図・・・上げていた手を振り下ろすなり、青髪君の長剣が燐光を帯び、振り下ろされた。
と、同時に剣閃が向かってくる。え、〇神剣?あの人アルベイン流の剣士なの?ていうかこの世界にあるんですか、アルベイン流。
よく見たような光景。地を光の閃光が走り、私に向かってくる。
「やったわ、カッコいいジョシュア!」
「大丈夫でしょうか、レディ・・・」
「・・・なあキール、あれ何枚破れると思う?」
「良くて2枚じゃないだろうか。見たところジョシュアも全力で放っているようだし」
「何言ってるのよ2人とも!ジョシュアの烈光斬から逃れた人なんていないじゃない!」
「じゃあ見とけよミレイユ。その初めてを体験できるぞ、よかったな」
瞬間、青髪君の剣閃が私に届く。パキィン、と響く音。
ふむ、2枚か。まあまあかしら?
と、剣閃と同時に飛び込んできていた青髪君。
振り下ろしたその剣も、私の貼っている結界に阻まれる。当たった場所は薄く亀裂が入った。
「・・・届きませんか、やりますね」
「まあまあね、これで終わりじゃないわよね?」
「ええ、と言いたい所ですが。最初の烈光斬はかなり自信があったんですけど、ねっ!」
ガガガっと斬撃が入る。亀裂が深まり、1枚結界が砕けた。だが私は基本的に5枚は結界を貼っている。だってそれすら簡単に破ってくる化物夫婦がいますからね、あの2人には5枚でも足りないよね。
「ちょ、嘘でしょ、」
「・・・あんな風に結界魔法を使えるのですね」
「あー、まあ、届かんよな」
「これまで物理攻撃を避けるのに防盾魔法と固定観念を持っていたが、結界魔法でも可能とは。どちらかというと結界魔法は魔法攻撃を防ぐものと思っていたのですがね」
「そ、そうですよね?あそこまで物理攻撃を防ぐ、ということは魔法攻撃はさらに防御力は高いのではないでしょうか?」
「ああ、シェリアの言う通りですね。さすがはレディ、『偉大なる女魔術師』の名に相応しい」
「まあなあ、ていうかアレどうやったら破れんだ?アレを突破できねえとレディにダメージを与えられないだろ」
「何を悠長に話してるのよ!あんなのズルに決まってる!」
やいのやいの外野が賑やかです。
確かにウルズ君のつぶやきに一理ある、と思ったのか、青髪君は斬撃を重ねる事を辞めて距離を取った。
「ここまで力の差を感じるとは思いませんでしたよ。
・・・もう切り札を使わないといけないとは」
「・・・貴方達、賑やかね?いつも魔物を倒す時にこんな悠長に話をしているの?」
つか、話してる暇があったらさっさと攻撃すべきでは?
私に時間を与えると、魔力どんどん回復しますけど?結界もさらに増やしていってますけど?
魔物を倒す時もこんなトークしつつやってるのかしら。
ちらっと獅子王を見ると、やれやれとばかりに両手を上げて肩を竦めた。…これ多分後でめちゃくちゃ突っ込まれるんだろうな。
敵に時間を与えるとこうなりますよ、という事を実践してあげる事にしましょう。セバス、貴方の特訓をここで再現させてもらいます。
私は杖を呼び出す。
手元に瞬時に出てきた杖を青髪君へ向ける。
突然武器を取り出した青髪君は、隙の無い構えを取る。…うんごめん、既に完了しているから、意味ないね。
「『光球』」
「っ、な!!!」
選んだ魔法は初級魔法の光球。
灯りの代わりにもなるし、破裂させればちょっとした衝撃が来る。どれくらいかっていうと、子供に全力タックルされたくらい。地味に痛い。
私はそれを青髪君の周囲に数十発出現させた。
わかりますよね?何をするか。
私は無言で杖の先を小さく円を描くように回す。
次の瞬間、数十と出現させた光球が全て青髪君へと殺到した。当たると破裂します。大きな風船を間近で破裂させられたかのような衝撃が彼を襲い続ける。
「っ、くうっ、」
「ほらほらまだまだ行くわよ?次は火球にしようかしらね?」
「っ、この数は、くそっ!」
「何よあれ!キール!」
「あの数、あんなに?」
「・・・おいおいおい!さすがにジョッシュもヤバいんじゃないのか!?」
「・・・あれはただの光球に、火球だ。しかしあれだけの量を捌ききれるかというと・・・まずいな」
「ははっ、やるなエンジュ。確かにあれは地味に痛えな。俺なら突破できるが、カーバイドにゃ無理だろうな」
「っ、止めてください獅子王様!」
「は?馬鹿じゃねえのか、何で止める必要がある。部外者は引っ込んでろ姉ちゃん」
「そんな!」
なんだか外野がさらに賑やかです。
質より量、とはこの事よね。一撃一撃は弱いのだけれど、四方八方からボールをぶつけられているのと同じだ。一方に絞って突破すればいいのだが、私は意地悪なので青髪君が突破しようとする方向の魔法だけ威力を強めてみたりしている。
青髪君もそれなりの装備をしているし、魔法攻撃を弱める結界も貼る事ができるようだ。しかし、初級だとしても攻撃を受け続けていればどうか?そろそろその結界も意味をなさなくなってきているだろう。
剣術で叩き落としているようだが、背中からも襲い来る魔法を全て捌ける訳では無い。ダメージは蓄積され続けていく。
…さっさと仲間の手助けを願えばいいのになあ。
適わない事を察しているなら、早めに作戦を切り替えないと命の危機となる、とわかっていないのだろうか?私がそうしないとでも思っているのだろうか。
「・・・判断ミスね、ジョシュア・カーバイド。貴方では私を打ち負かす事はできそうにないみたいね。残念だわ」
「くっ、まだ、倒れてません、よっ」
「さよなら、青髪君。『毒霧撃』」
「っ、くあっ!」
ばふり、と毒撃が命中。
彼自身が纏っていた結界も、私の初級魔法責めに既に無い。という事は?…まともに食らったわけだ。何秒保つのかしら?
ぐらり、と目の前で影が倒れる。
遠くから悲鳴が聞こえた。
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