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森の人編 ~エルフの郷~

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「では、行きましょうか」

「馬車でも借りてくりゃよかったな」



結局、あっさりお出かけ許可が出たので、翌日出発。
お昼ご飯やら各種回復薬ポーションやらお着替えをマジックバッグに詰め込み、手ぶら出発です。

まあいつものようにオリアナがひっそり着いてきます。
今回はターニャとライラはお留守番。セバスも『行き先がエルフの集落であれば、余計に付いて行って刺激する事もないでしょう』と言っていた。
…刺激ってなんだろう。過去何かあったのかもしれないが、迂闊に突っ込んだら火傷しそうなのでお口はチャック。

困ったら呼んでください、と言っていたので、緊急時には何とかして来るのだろう。何らかの手段で。…なんでもありだな、セバス



「馬車は要りませんよ、転移門ゲートがありますから」

「んなもんあんのか?」

「ええ、森の人エルフだけが起動できるものです。もちろん私が同行しているので、あなた方も通れますよ」



その場合オリアナはどうなるのだろうか、と思ったが聞かなかった。イヴァルさんがこちらを見てニッコリしたからである。私に護衛が付いている事を知っている、のかな?

王都を出発し、街道を歩く。30分ほど歩き、森の中へ。
1時間ほどハイキングの後、目の前には立派な大木。
イヴァルさんはその木に手を付き、何やら詠唱をしている。小声だから私には聞こえない。
…ここまで来る途中、二三魔物が出たが、アルマの剣とイヴァルさんの弓で瞬殺。私はぼんやりしているだけでした。



「エルフの集落での魔獣討伐だが、お前は参加しなくていいからな。集落で待機して、回復要員に徹してくれや」

「ええ、そのつもり」

「ま、どうしようもない時は声掛けに来るぜ」

「・・・どうしようもない時?」

「イヴァルに聞いた話だが、何でもごく稀に魔法しか効かないような特異体質が出ることもあるらしい。基本的にエルフの魔術師はレベルが高いから大丈夫だとは思うが、今集落にどれだけの人数が控えてるかわからんからな。
万が一、手を貸してもらいたい時は呼びたい」

「まあ、そういう事なら・・・」

「最下層の魔法、期待してるぜ?」



ニヤッと笑う獅子王アルマ
それ絶対フラグですから。これ多分フラグ立ってますから。
頑張って折ってやろう。エルフさん頑張れ。

と、イヴァルさんの周りに光のサークルができた。
…これはまさしく妖精の輪フェアリーサークルというやつでは?周りにできた輪状の光の上にキノコやら花がポツリポツリと咲いている。



「さて、扉が開きました。アルマ、レディ、こちらへ」

「おう」
「はい」



獅子王アルマは私の肩を抱くようにイヴァルさんの周りに。

取り替え子チェンジリングってあるけど、この世界にもあるのかな。そんな事を考えつつサークルへ。
一瞬、視界がぐにゃりと歪み、数秒後には元に戻る。

私の目の前には………立派なキャンプ場が。



********************



瞬きをしても消えない。…現実か。



「・・・なぜに?」

「ほぉー、エルフの集落ってこんな感じなのか」
「まあそうですねえ。変わりないですね」

「コテージに、ツリーハウス・・・」



そう、私の目の前には、立派なコテージが。
なんだろう、本当にキャンプ場に来たみたいだ。町…というより村よね、これは。

道路も舗装…というよりは自然を大事にしました、ってスタンス。花壇…っていうか畑?いや、芝生、そのまま。

ふと、近くをエルフが通り過ぎる。
そしてイヴァルさんを見て振り向いた。



「・・・ん?あんた、もしかしたらイヴァルさんかい?」

「・・・おや、久しぶりだね、マールゴット」

「あらあらあら、珍しい人が帰ってきたもんだ」
「見てみろ、変人のイヴァルが戻ってきたぞー」
「あらほんとー」



第一声を発した村人がイヴァルさんの名前を呼ぶと、どこからともなくわらわらわら、と集まってきた。
なんか気になる単語ありましたけど。…『変人』?

イヴァルさんは集まってきたエルフ村人達と話し、少し離れていた私達の所へ戻ってきた。



「待たせたね、行こうか」

「何処にだよ」
「え、もういいんですか?」

「とりあえずは族長の所にだね。彼等かい?ああいいのさ、毎度の事だ。数日は滞在するのだから、話があればまた来るだろう」



こっちだよ、と先導して歩き出すイヴァルさん。
随分とドライだな、エルフって。さっき集まってきた村人達も、あっさりといなくなっていた。…知り合いではあるのよね?

行くぞ、と軽く肩を押される。どうやら獅子王アルマは殿のつもりらしい。私は軽く足早にイヴァルさんに追いつく。どうせね、私が早足で歩いたところで獅子王アルマにして見れば数歩歩くくらいなのよね。しってるしってる。



********************



集落の奥、大きなログハウス。
後ろには見事なまでの大木がドシンとそびえ、集落中を見守っているかのようだ。ログハウス自体もこの樹に隣接して建ててある。

村の御神木、とか何かかしら。
イヴァルさんはログハウスの扉をノックするでもなく、スチャっと開けて入っていく。



「えっ、ちょ、イヴァルさん」
「いいのかよ勝手に」

「構いませんよ、我が家ですし」

「「え?」」

「言っていませんでしたか?現在の族長は、私の弟です」

「聞いてないです」
「言ってねえだろ」

「そうでしたか?言ったつもりでいました」



そりゃ自分の家なら勝手に入るか。…入るか?
私が迷っていると、獅子王アルマはズカズカと入っていく。遠慮ってものは何処ですか?

私も入ってみると、室内は思ったよりも明るい。
大きく吹き抜けになった室内には、天窓が。
そこから太陽の光が入ってきているため、想像よりは明るい室内になっていた。



「おや、早いお帰りでしたね、兄上」

「今帰ったよ、ディード。森はどうだい?」

「そうですね、去年よりは騒がしいかもしれません。早々に討伐を始めるのがいいですね。兄上も帰ってきたことですし」



世間話でもするかのような兄弟。そこには『お帰りなさい!』みたいな感動の再会はない。私も獅子王アルマも少し離れて見ていると、弟さんがこちらへ近付いてきた。



「兄上が人間を連れてくるとは珍しい。ようこそお客人」

「すまんな、世話になる。アルマ・レオニードだ」
「はじめまして、エンジュ・タロットワークです」

「タロットワーク!これはこれは素敵なお客様だ。兄上も粋なことをなさる。それに『獅子王』とは」
「レディは森の人エルフに興味があるようだよ」

「そうですか、好きなだけ見ていってください。どうぞどうぞ」

「あ、あの~、割と・・・好意的、なんですね?」



私はてっきり『・・・人間ですか』みたいな冷たい態度になるかなと思っていたのだけど。
そもそもエルフが森に隠れ住んでいるのって、迫害があったからでしょう?…と、聞いているのだけど。それにしてはなんかあっさりというか。

イヴァルさんに限らず、弟さんも…そういえばさっきの村人エルフ達もだけれど。私は拍子抜けする気持ちを味わっていた。

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