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近衛騎士団編 ~小鬼の王~
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しおりを挟む「なんだと?あの山岳地帯か?」
「そのようだな、アナスタシアが潰した洞窟以外に巣があったということなんだろう」
「くそ、私がもう少し注意深く周囲を探索していれば!
・・・今更言っても詮無き事だな、先行しているのは王国騎士団か」
「その様ですね、左軍の中隊が出て応戦しているようです。
近衛からも数隊、援護要員として捻出しますか?」
「無論、その通りだ。カイナス、選別は任せる。私の指揮下から数隊と、後はお前とフリードリヒの所から数隊ずつ寄越せ。
私の指揮下だけでもいいが、それだと偏りが出る。連絡役としても貴様等の指揮下からこちらに出せ」
「畏まりました、その様に」
「やっぱ判断早いよなあ、アナスタシア。俺ん所から3番と4番隊連れて行け。何度か組んだ事もあるだろ?」
「了解した。私が行くのが1番いいだろう。あの時何処を潰したのかも目端が効く奴もいる。カイナス、貴様も後から付いてこい」
「私も、ですか?」
「・・・嫌な予感がするからな」
「了解しました、隊を整えて追い掛けます」
「おい、アナスタシア。俺はいいのか?」
「お前は王都に残れ。万が一、別働隊が出ないとも限らない。
恐らく王国騎士団も、これ以上の手駒はさけまい。あれらの役割は『王都の守護』が第一だからな」
「だろうな、左軍が動いてるんなら、これ以上は動かせんだろうよ。国境線の守護に今は右軍が動いてるからな。王都の守りに当てている中軍までも動かすような真似はせんだろうよ」
近衛が『槍』ならば、王国騎士団は『盾』だ。
どちらかと言うと、近衛騎士団は攻撃を得意とするが、王国騎士団は防御に主を置いている。
そうしてバランスを取っているのがこの国の騎士団だ。
その中間のバランスを取っているのが、冒険者ギルド。
一般市民の悩みから、依頼までを一手に引き受けている。
シリス王太子が発令をかけてから、両騎士団とギルドの連携は非常にスムーズだ。
お互いの得意分野を個々に任せ、必要なだけ手を貸す。
…これまでどうしてこうやって連携が取れなかったのか不思議に思うくらいだ。
アナスタシア様は団長と必要なだけ言葉を交わすと、サッと出ていった。さて、俺も準備をしなければな。
「おい、シオン。お前も気をつけろよ」
「わかっていますよ。アナスタシア様が『嫌な予感がする』と言った時にいい事なんてありませんからね。
・・・最悪、王格が出てくる前に全てを済ませたいですから」
「アナスタシアの読みだと、既に役職持ちがいるとの事だ。前回はそこまでではなかったと言っていたが、あれから1ヶ月以上経っている。・・・進化していてもおかしくない」
「そうでしょうね。でなければ、アナスタシア様が俺にまで出動するように言いませんよ。
大方、どちらかは任せるという事なんでしょう」
「俺を呼んでもいいと思うんだがなあ?」
「何を言っているんですか。『護国の剣』まで引っ張り出すような事態になる時は、小鬼の王の出現が確定した時に他なりません。
・・・その前に片をつける。そういう事なのでしょう」
「アナスタシアを頼む」
「お任せ下さい・・・と言いたいのですが。むしろ俺がアナスタシア様に守られるような気がするんですが」
「ああそれと、神殿からは『星姫』が向かうと聞いている」
「・・・驚きましたね。よく第2王子殿下が許したと」
「『星姫』自らが行くと言ったそうだ。神殿には『巫女姫』が残り、王都の守りを引き受けるとな」
「生存率が上がりますね、助かりますよ」
「アナスタシアはエンジュにも要請をすると言っていた」
「っ!?エンジュ様にもですか!?
・・・いや確かに、現在最高位の魔術師のおひとりでしょうが、危険すぎるのでは」
「・・・いやどっちかっていうとエンジュの召喚獣1匹で全て事足りる気もするんだがな」
「え?なんですか?団長」
「いや、気のせいだ、気のせい。後方支援を頼みたいんだそうだ。神殿の癒し手もいるが、エンジュも引けを取らないからな」
「それは、そうなのですが・・・」
「だったらお前が守ってやればいい。なに、エンジュなら危険があったらいざとなったら影達が無理矢理にでも撤退させるだろう」
「確かに、それもそうですね」
「その前に魔法ぶっ放して殲滅しそうな気がするがな」
「・・・知ってますか団長、そういうの『ふらぐ』って言うらしいですよ」
「何だよその『ふらぐ』って」
「俺にもよく分かりませんが、最近部下がよく読んでる娯楽小説に出てくる単語らしいんですよ。お約束、というものらしいです」
********************
「えっ?私も?」
「ああ、頼めないか?エンジュ」
別邸に戻ってきたアナスタシア。
来ていた騎士服を脱ぎ捨て、また新しい物に着替えて降りてきた。
お茶でも、と誘った私に『一緒に討伐隊に加わって欲しい』と相談してきた。
「・・・戦場、よね」
「ああ、そうだ。本来ならエンジュにはそんな所にいて欲しくないと思っている。だが、今回はこちらにいてもらいたいのだ」
「どうして?そんなに危険なの?」
「うまく、言えないんだが。そうした方がいいという気がしている。すまない、危険な場所へ連れて行こうとしているのに、きちんと説明ができない」
一緒に来て欲しい、と言うアナスタシアの目は真剣だ。
でも、その中に私を心配する過保護な色も見える。
本当は連れていきたくない、でも連れて行かないと拙い、というような。
私は困ってしまった。
うーん、行きたくない一択。でもここまでアナスタシアが言うのは多分なんらかの理由があるんだろうなあ。
だって毎日のように私を心配するママンのようなのに、戦域に連れて行こうとするんだもの。
ここは単なる自分の格好いい所を見せたい、とかそんな理由ではないと思う。…まさか王都の方が危ないとかじゃないわよね?
と、セバスがお茶を淹れ直してくれた。
「行ってらしては如何ですか、エンジュ様」
「セバス?」
「すまない、セバス。姫を危険に晒すかもしれない」
「万が一もございませんよ、私がついて行きますので」
「へっ!?セバスが!?その間ゼクスさんどうするの!?」
「心配ありません、きちんと私以外の者が付きます。私も毎日のように旦那様に付いている訳ではないのですよ、ほとんど別の物がいますので。
今回は外に出ますし、オリアナもいますが私がついて行けば傷一つ負わせませんので、御安心を、アナスタシア様」
「な、なら、いいけど・・・?」
「すまないなセバス、お前にも迷惑をかける」
「いえいえ、たまには動きませんと腕が鈍りますのでね。
私にとっても良い気晴らしとなりましょう」
なんだろう、セバスが1番イキイキしていませんか?
気の所為なのでしょうか?
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…どうやら皆さん、あまりない外での運動に張り切っている様子。お願いだから騎士団の人達の活躍の場くらいは残してあげてください。
「よし、エンジュ、私は先に行って露払いをしておく。
セバス、エンジュを連れて後から来てくれ。整えておく」
「かしこまりました、アナスタシア様。
ですが少しくらい残しておいて頂きませんと、我等の気晴らしにもなりませんので、程々にお願い致します」
「はは、セバスも変わらないな。あちらに行ったら、また背中を預けて戦いたいものだ」
「アナスタシア様がよければその様に致しましょう」
「楽しみにしておこう、ではエンジュ、また後で」
チュ、と頭に口付けてアナスタシアは出ていく。
これから自分の部下達を連れて、山岳地帯へ向かうそうだ。
「・・・なんでアナスタシアが男性じゃないのかしらねえ。そうしたら私、いの一番にアナスタシアのお嫁さんになって子供も産むんだけどねえ」
「それはかなり魅力的な未来ですねエンジュ様」
「そうよね?すごく大事にしてくれるし、幸せにしてくれそうだわ・・・まあ、現実はこうな訳だけど」
「私共はエンジュ様がどなたを選ばれても祝福いたしますよ。
もちろん1番はこのままここに居てもらうのがいいのですが」
「老後まで安泰ね、私。嫁ぎ遅れても安心だわ。
・・・で?いつ出発すればいいと思う?」
「明日でいいでしょう。支度もありますし。
移動は箒で飛んでいくのが1番安全かと」
「・・・確かにそうね。近くまで飛んで行って降りましょうか。
後は任せるわ。私は身一つでいいのかしら?」
「はい、本日はごゆっくりお休みください」
セバスやターニャ達がついてくるのなら、道中の安全どころか、向こうでも安全も確保されたも同然。
私は後方で医療活動に専念するとしましょうか。
回復薬、少し多めにマジックバッグで持っていくべきかしらね。
私は魔術研究所へ戻り、多少の身支度をすることに。
ゼクスさんにはセバスから話が飛んだようで、色々と用意をしてくれていた。
キリ君達は、魔術研究所で留守番。
…彼等が出るとなると、本当にヤバい時らしい。まあ一人一人が『火気厳禁』みたいなものだしね。
あまり、大事になりませんように。
ここに来て戦争…争いを体感することになるとは思わなかったな…
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