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近衛騎士団編 ~予兆~

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「失礼します、エンジュ様・・・」
「なんだどうしたシオン」

「あ、いや・・・」
「・・・なんだこりゃ」



魔術研究所のエンジュ様の部屋。
きちんと入口で訪問を告げ、ここまで入室を許可された。

今日は所長のゼクスレン様が不在、とのことでタロットワーク塔の党の主であるエンジュ様へ報告に来た。
暇だ暇だと騒ぐ団長も連れてきたのだが…

部屋の扉を開けると、ぴょこぴょことスライムが跳ねている。
俺達の足元にも1匹。ぷるりん?と『?』マークを出していた。



「・・・芸が細かくなっている」
「なんだよこりゃすげーな?」



団長は面白がってひょいっとそのスライムをつまみ上げる。
『?』マークを出したままのスライムはそのままぷらーん、とつまみ上げられたまま、笑顔は取れない。

すると、奥の扉からエンジュ様が顔を出す。



「あら?もう来たの?早いわね」



トレイに茶器。どうやら隣の部屋からお茶の用意をしてきてくれていたらしい。
足元を見て『ありがとね』と声を掛けているところを見ると、もしかしてスライムが呼びに行った…のか?



「おう、久しぶりだな。しかしかわいいなコレ」

「でしょう?でも持っていかないでね」

「やっぱりダメか?」

「さすがに近衛騎士団の中にスライム飼う訳にはいかないでしょう?ねえ、副長さん」

「さすがに他の騎士から見たら何かと思われますね。
ウチは魔術研究所ほど出入りを規制している造りではないですから」
「コレがいりゃあなあ、色々面白そうなのになあ」

「そんなに欲しかったら捕まえてきたら?もしかしたら気に入られて来てくれるかもしれないわよ?」

「・・・どうだかな」
「その前に団長の前に出てくるかが怪しいですね」



スライムは基本的に弱い。
レベルの高い相手の前に出てくることは滅多にない。
だからこそ、オルガが捕まえてこられた事が驚きだ。もしかしたらこのスライムが変わっていたのかもしれないが。

お茶を入れるエンジュ様。何故かスライムがそれを興味津々…?に見ている。

それを見ていた俺に気付いたのか、笑ってソファに促された。



「何?珍しい?スライム」

「そうですね、なんだかエンジュ様のする事を覚えようとでもしているかのように見えました」

「・・・」

「どうかしましたか?」

「いや、本当にやりだしそうな気がして」

「・・・お茶を入れるんですか?」

「多分そのうちやる気がするのよね・・・特に何かを教えてはいないんだけど、いきなりできるようになってるのよこの子達」

「・・・いや、魔物ってそういうものではないですよ?」

「そうなんだけど・・・ほら」



エンジュ様が俺の隣に目をやる。
すると、そこでは団長とスライムがなぜかジャンケンをしていた。団長の掛け声と共に、突起部分がニュッと形を変えている。



「私、別に教えてないわよ?」

「えっ・・・」
「すげーな、説明したらできるようになったぞ、コイツ」

「向こうからの意思表示はわからなくないんだけど、やたら知能が高い気がするのね・・・スライムってこういうものなのかしら」

「それは・・・どうなんでしょうか」
「エンジュが主だからだろう?使令ってのは、マスターたる契約者に左右されるもんだ。
マスターなら、多少違う事があった所で驚く事もそうないだろ」



タロットワーク、であることが影響しているのだろうか?
確かにエンジュ様の魔力量は普通の人とは違うだろう。
そこは調べてみないとなんとも言えない所、だろうな。

団長は意味有りげにエンジュ様を見ている。エンジュ様もまた団長を窘めるように視線を送る。
…俺の知らない2人の仲、があるのだろう。少し、妬ける。



********************



いやーね、団長さんたら意味深。
だからって事はそれってだからって事を指してるのかしら?それとも、タロットワークの源流ってところ?どっちにしろ『普通じゃないのは仕方ない』と言われているのと同じよね。

あとでとっちめておこうかしら。…と思っていると、周りにいるスライム達がにじり寄っている。え、まさか、と思っていると一斉に団長さんに飛びかかり始めた。



「なんだなんだこりゃ」
「団長!?えっ、なんですかこれ」

「・・・あ、フレンにお仕置きしなきゃと思ったからかしら?」

「・・・でも痛くはねえんだよな」
「でしょうね」



ポコポコポコ、と総当りしているものの、分裂して小さいのが多いため全然ダメージにはなっていない。
多分、カラーボールをそこら中から当てられている程度に等しいと思う。スライム達もちょっと楽しそうだし。

ぽよん、とミニミニスライムがシオンの膝の上に落ちた。
ぴょこぴょこ、と跳ねている。



「・・・あの、エンジュ様。また小さくなってませんか」

「そうねえ」

「しかもなんか増えてませんか」

「これ以上は増えないでね、って言っておいたからここで打ち止めだと思うわ」

「・・・」
「小せえなぁ。ひと口で食えそうな大きさだな」

「食べるのはさすがに止めるわよ?」



スライム達も飽きたのか、突撃は止めたようだ。
もう思い思いにそこらで遊んでいる。主にイスト君作のピラゴラスイッチで。…イスゴラスイッチかしら?

ミニミニスライムが数匹、クッキーを持ち上げて2人にどうぞ、と勧めている。おもてなしのつもりなのかしら。私の前にも3匹くらいいて、クッキーを差し出している。…最近この子達の流行りなのよね、おもてなしごっこ。



「いやー、本当に飽きねえな、エンジュの所は」

「かわいいでしょ?欲しくなるのもまあわかるわ」
「ダメですからね」

「んだよ、お前だって欲しいだろ、1匹」
「・・・まあ、確かに」

「他に捕獲テイムできそうなら捕まえてきてみる?」

「・・・いや、いいよ。見たくなったらここに来りゃいい。息抜きの場所を奪わんでくれ」



ははっ、と笑う団長さん。
チラッとシオンを見ると、全くもう、と苦笑い。私にもすみません、という仕草をするあたり、そこら辺は見逃すっていう副官の暖かい心配りなのかしらね。

さて、ゼクスさんの代わりに話を聞かなきゃなのよね。
あんまり難しい話じゃないといいのだけど…


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