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冒険者ギルド編 ~悪魔茸の脅威~
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しおりを挟む奇妙な迷路、3階層目。
いました、踊る茸。
「いましたね、あれです」
「・・・本当に踊ってるわね」
「離れて見ている分には・・・平和ですよね」
「そう、ね」
数メートル先にノリノリで踊っているキノコがいる。
どんなもんかと思っていたが、もうルンルンである。
何か気になるな、引っかかるなと思い、『討伐しますね』というシオンの腕を止めて、眺めている。あのリズム…どこかで…
「・・・あ、わかった、マイムマイムだ」
「え?なんですか?」
「ううん、なんでもないわ。あ、討伐する?」
「私としてはこのままでもいいかと思えてきましたが」
「放置するってこと?」
「それも、ですが」
目線が降りる。そのまま辿ると、私がシオンの腕を掴む…というよりは内側から絡めている感じ。
カップルが腕を軽く組んで歩く、という仕草に近い。
見上げると、よく見た揶揄うようなアイスブルーの瞳。
しかし今の私はこれくらいでは怯まない図太いオバチャン耐性があるのである。
…何かしらね、『コーネリア』の時はやたらドキドキしたのだけど。不思議なもんね。
わざと誘うように見つめ、少しだけ腕を引き寄せるように力を込める。
「いい男に誘われるのはありがたいのだけど、さすがにここでは雰囲気も何もあったものではないと思わない?」
「・・・そうでしたね、では次の機会を楽しみにします」
『コーネリア』にする時よりは大人の男らしく余裕気に微笑む。以前であれば耳元に囁くくらいの攻め方をしていたが、相手が大人であればそれなりの対応をするらしい。そりゃ当たり前か、お互い様だなあ。
ゆっくり歩きながら剣を抜き、サクッと倒す。
何かドロップしたようで、拾って戻ってきた。
「以前の悪魔茸は『毒胞子』を落とすのですが、踊る茸はこれを落とすんです」
はい、と渡されたもの。それは、キノコの形の何か。
…ノーマルなきのこの山が1粒落ちているようにしか見えない。
「・・・何?これ」
「よくわからないんですよね・・・ギルドでも鑑定しきれていないらしく、どう扱うか困っているそうで」
「毎回出るの?」
「そうですね、かなり高確率で落ちるそうです」
「・・・『精査開始』」
フォン、という音を立てて鑑定領域が出現する。この魔法を使う時は術者それぞれのイメージで鑑定領域が出てくる。
しばし見ていれば、結果が文字として浮かび上がる。
そこには不思議な内容が。
「・・・使えない」
「何かわかりましたか?」
「これを踊る茸に与えると、踊るジャンルが変わります、だそうよ」
「・・・何の意味が」
「さあ?試したことないんでしょう?
・・・もう1匹出ないかしら?試してみましょ」
さらに探索すると、4階層目でさらに発見。2匹踊っていました。
「ねえ副長さん?これ1つしかないけど、2匹に効くかしら」
「ど、どうでしょうね?もし何かあっても対応しますから試してみてもいいですよ」
「頼もしい言葉ね、じゃっお言葉に甘えて!」
シオンが剣を抜いて1歩前に。
私はそれを見て、えいっ、と投げてみる。
踊る茸の前にポン、と落ちると、それはパチンと弾けてしまった。
その瞬間、マイムマイム調の踊りがぴたり、と止んだ。
えっ、何、どうするの?と思ったら今度は並んでラインダンスのようなものを始めた。文明堂かよ!
シオンも剣を構えたのを降ろし、ただただ見ている。
まあそうなるわよね、私も見てるしかないし。
一通り踊り終わった踊る茸は、同時にお辞儀をしてプシュっと消えた。
「えっ、何それ!」
「消えた!?」
つい同時に突っ込む私達。
シオンはそのまま踊る茸が消えた場所に。何かを拾い上げた。
戻ってきたシオンの手に、またキノコ。
「・・・またキノコ?」
「いや、これは食用のエリクタケです」
「エリクタケ?なんでまた」
「さあ・・・?また調べてみますか?」
私はまた精査開始をかけた。
すると、今度はおもしろい事が。
「・・・ねえ副長さん、ここでこのキノコ炙って食べたら怒られたりするかしら」
「えっ!?食べるんですか?」
「『食べるとすごく美味しい』って出てくるんだけど」
「・・・キャンプできるような所を探しましょうか」
どうやらこの広いフィールド内で、採取や討伐の為に夜を明かす人もいるそうだ。そんな人の為にキャンプポイントがある。
私達は先へ先へ進んでいたが、下の階層もかなり広い。ここで食材を探しにくる冒険者もいるそうだ。
小さなキャンプポイントでひと休み。
どこからか探してきた枝を少し削り、清潔魔法で除菌?キノコを2つに割いて、火で炙ってみた。
…なにやら美味しそうな香りがする。なんかベーコン炙ってるような匂いがするんですがそれはいったい。
「・・・キノコ、ですよね?」
「そう・・・ですね。焼けましたよエンジュ様」
「ありがとう。・・・私の気の所為でなければ、ベーコン炙ってるような匂いがするんだけど」
「奇遇ですね、私もそう思います」
お互い、せーの、で齧る。
水分を含んだキノコ。ぷりん、とエリンギのような食感。
しかし、噛み締めればなぜかそれは食べた事のある味が。
「なんでキノコなのに、エリンギのベーコン巻きの味が・・・」
「・・・旨いですね」
無心に齧るシオン。
私の舌が確かならば(この言い回し懐かしい)、どう考えてもエリンギのベーコン巻きの味。ここは居酒屋か。
食べ終わって2人で確信したのが『これは流行る。流行るがまた乱獲されそうな気がする』という事だった。
「どうしようかしらね、副長さん」
「またトリュタケ再び、ですよね。旨いことは旨いんですが」
「・・・エリクタケにベーコン巻いて焼けば食べれるわよ今の」
「え、そうなんですか?・・・戻ったらやってみます」
「塩と胡椒振ってね、醤油があれば垂らすと美味しいわよ」
「・・・よく知ってますねエンジュ様。それも外国を回っていた時に知ったんですか?」
「そうよ、色んなもの食べるの楽しかったわ」
「そんな生活も少し憧れますね」
嘘は言ってない。だって日本もここに比べたら外国だもん。さらっと言えるようになったのも図太くなったなと思う。
その後、何度か踊る茸に遭遇し、いくつかドロップした美味しいキノコをゲット。
ここまで連れてきてくれたお礼としてシオンに進呈。
「すみません、こんなに」
「私が持ち帰るよりいいわ。団長さんとギルドに少しお裾分けして、内容を話しておくべきかもしれないわね」
「そうします。エンジュ様、近い内にお誘いしますので、屋台街でお会いしましょう」
「わかったわ、楽しみに待ってるわね」
「はい、予定を調整しますのでお待ちください」
エリンギに似たキノコを抱えるシオン。
…さすがに何か袋が必要では。何か持ってないかしら。
自分のマジックバッグを探ると、ハンカチしか出てこない。
せめてこれで包んで帰ってもらおう。だって今の光景すごくシュールだもの。
「副長さん、これで包んで帰って」
「えっ、いえいえお手をわずらわす訳にも」
「違うの、今、副長さんすごくおもしろい絵になってるから。お願いだからこれで包んで持って帰って」
「・・・すみません」
風呂敷程は大きくないけれど、そこそこの大きさのあるハンカチでよかった。キノコを包んで渡す。よし、さっきよりはマシになった。
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