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冒険者ギルド編 ~悪魔茸の脅威~
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しおりを挟む「お呼びにより、参上致しました。
王国騎士団左軍第3中隊、第2小隊小隊長、ケリー・クーアンであります」
「同じく王国騎士団左軍第3中隊、第5小隊小隊長、ディーナ・クロフトであります。
お目にかかれて光栄です、レディ・タロットワーク」
「お2人をお連れしました、エンジュ様」
「ありがとう、ご苦労様でした、キャズ」
私の前に揃って王国騎士団風の騎士礼を取る2人。
あれから2年。ケリーはますます男前に磨きがかかり、隙のない風貌をしている。
ディーナも髪が伸び、ポニーテールにまとめているが、凛とした女性らしさが増え、そのバランスがもうなんともいえない美人な女騎士。
こりゃ2人ともモテてそうね?そういえば『ニセ恋人ごっこ』はどうなったのかしら?焼けぼっくいに火がつく事にはならないの?
ケリーもディーナも何故呼ばれているのか不明だし、不安だろう。しかしこの2年で騎士の心得や経験を詰んだのか、キリッとして私の前に立つ。私見る目があったのでは?
チラリとキャズを見る。彼女は彼等より少し後ろに立ち、『あんたこの後どうすんのよ?』とでも言わんばかりに見ている。
えっ、どうしましょう?何も考えてなかったんですよね。
「堅苦しいのは苦手なの。そちらのソファへどうぞ。キャズ、お茶を入れるの手伝ってくれる?」
「私がやりますから、エンジュ様は彼等と『お話』なさってください」
「あら、貴方も彼等の友人なのでしょう?だったら貴方が『お話』してもいいのよ?」
「滅相もございません。ここは主であるエンジュ様が『お話』していてください」
遠回しな攻防が展開されています。
『ちょっとキャズ言ってよ』『嫌よあんた説明しなさいよ』『そんなこと言わずにさあ』『あんたの役目よやんなさい!』とばかりに。
ケリーとディーナはそんな事になっているとはつゆ知らず、ソファへ並んで経ち続けている。ああそうか、ここでは私が上位だから、私が先に座らないとダメ?
「2人とも座ってちょうだい」
「御前、失礼致します」
「失礼致します」
「2人とも、そんなに若くて『小隊長』だなんて凄いわね。小隊を任される立場というのはどうかしら?」
「身の引き締まる思いです。抜擢して下さった上官に感謝しています」
「私も同じです、女という身でありながら、諸先輩を差し置いて隊を率いる立場になる事を戸惑いもしましたが、今はその立場に甘んじる事のないよう、精進しております」
えっ…、ちょっと2人とも凄いじゃない、どうしちゃったの?何食べたらこんな立派になるの?私衝撃すぎて手が震えちゃうわ。
「えっ、どうしようキャズちゃん、なんか衝撃的すぎて泣きそう」
「私からしたらあんたのその姿ほど衝撃受けないわよ」
「何よそれ褒めても何も出ないぞ、コノヤロウ(はぁと)」
「何言ってんのよ、逆よ逆。全く常識ぶち壊してくれたわホントに」
「お、おいキャズ」
「キャズ、さすがにその口調は」
「あんた達も覚悟した方がいいわよ、そんな畏まってる事がどれだけ意味が無いか思い知るわ」
「キャズちゃん私の事なんだと思ってるわけよ」
「は?あんたはあんたよ、他にいないわ。私が『騎士』でいるのはあんたがいるからこそなんだから」
やさぐれたようにため息をつくキャズ。
でもその瞳はとても優しく、子供を労る母親のようだ。
…ん?私、キャズに子供だと思われている…?
その言葉に何かを感じたのか、ディーナが固まっている。
ケリーはピンと来ていないようで、『あ?何がだ?』と呟いた。
「まさか、・・・・・・コズエ、なのか?」
「っ、バカ野郎何言ってんだディーナ!」
「さすがはディーナね、私への愛が違うわ」
「違うでしょ、単に勘が鋭いだけでしょ」
固まるディーナ、わかっていないケリー。
そんな2人に、キャズが呆れたような声をかける。
「そうよ、これが私達の『主』。ここに3人集められた意味が分かるでしょ?」
「戻ってきた、んだな。でもその姿・・・」
「・・・あ?嘘だろ?この人が、コズエ、なのか?」
「話せば長いけど、とりあえずただいま?」
ケリーはぽかん、とした後笑って『おかえり』と言ってくれた。
ディーナは涙を零しながら『・・・おかえり、私の主』と呼んでくれた。…ちょっぴり刀剣乱舞を思い出したのはいうまでもない。
これまでキャズにもきちんと話をしていなかった。
私は3人に、これまでの事、再召喚された事を話す。…そして、王配ネイサムとの関わりも。今後彼等を私の騎士、『タロットワークの騎士』として動いてもらうならば、隠し事はない方がいい。
『影』を除けば、私の手足となるのはこの3人だけだ。
下手な事を頼むつもりはないけど、力を借りたい時もあるからね。
「あー・・・そりゃそうだよな、これが本体だってんなら、俺みたいな小僧が何言っても落ちねえわ、そりゃそうだわ」
「腐るなケリー、まだ頑張れば何とかなるんじゃないか?」
「あのなあディーナ、お前欠片ほども思ってねえくせに言うなよ」
「そんな事はないぞ、マリオの例があるじゃないか」
「俺をあいつと一緒にすんな」
「何そのマリオさんて人、何したの?」
「マリオはな、同期の母親と恋に落ちて結婚したんだ」
「チャレンジャーねえ」
「そういう問題か?違うだろ」
「・・・さてエンジュ様、私達を揃ってここへ呼んだという事は、何かやるべき事があるからですね?」
キャズが軌道修正した。
その言葉に、ケリーもディーナも居住まいを正す。
「頼っていいかしら?2人とも」
「お任せ下さい、エンジュ様」
「我等はずっと、この為に腕を磨いておりました」
「見てよキャズこの差」
「はいはい、私も手伝うわよ。・・・で?何をして欲しいの?」
「ケリー、冒険者になってくれる?」
「・・・は?」
「あ、2人とも外では困るけど、私達だけの時は今まで通りでね。じゃないと話しずらいからね」
「・・・お前がいいならいいけどよ」
「いいのか?エンジュ様」
「いいわ、構わない。キャズ見たら分かるでしょ?」
「だんだん格式張ってるのが馬鹿らしくなってくるのよ。他の人がいる時ならともかく、お互いだけの場合はこっちの方が早いわ」
「で?何で俺が冒険者なんだよ?騎士を辞めるつもりは今んとことりあえずねーぞ」
「一時的に、でいいの。冒険者の振りをして欲しい」
私は今回の作戦を話す。
『トリュタケ』の異常な市場量。迷宮の不審者。転移方陣の判別。現在『獅子王』が迷宮攻略に向けて動いている事、騎士団に囮となってもらうことも全てだ。
何しろ、これはケリーの演技にかかってくる。
彼が上手く餌となって釣られる事から始まるのだから。
「なーる。確かにそりゃ近衛の坊ちゃん連中にゃ無理な話だな。おし、俺がひと肌脱いでやるよ」
「ケリーなら多分上手くやってくれそうな気がするのよね。冒険者ギルドからもオファーが来るくらいだし、服装と髪型を少し変えればいけると思うの。
コンセプトは『ちょっと身を持ち崩した冒険者』で」
「任せとけよ。上手く釣り上げてやる」
「・・・私では無理だろうな」
「確かにディーナじゃ無理ね」
「うん、任せたわ。・・・じゃあ屋台街にでもビール飲みに行きましょうか」
「は?」
「え?」
「なんでよ」
「え?再会を祝って?」
「俺はいいけどよ」
「待て、まだ任務中だろ」
「あんたね、昼間っからそんなんでいいわけ?仕事どうすんのよ」
「そんなの明日まとめてやればいいじゃない」
「・・・管理者の余裕を見た」
「いやしかしエンジュ様」
「そうやって、サボるつもりじゃないの?」
「どうして信じないかな?あのね?空き時間なんてやりくりすれば作れるもんなのよ?見習いなさいよ」
「・・・まあいいか」
「これも仕事と思えば」
「言い訳に聞こえるわ・・・」
「昼間っから飲んだくれるというのが大切なのよ、わかる?あちら側にアピールするには1番じゃない。これこそ冒険者でしょ?」
「あんた冒険者なめてるでしょ」
えー?間違ってないと思うけど?
私は3人を説得するために頭をフル回転させるのだった。
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