43 / 197
冒険者ギルド編 ~昇級試験~
42
しおりを挟む昇級試験はぶっ続けで行われている。
…すいません、ギルマスさんの体力は底なしですか?
「・・・ねえキャズ?ギルマスさんて体力おばけなの?」
「あんた言い方可愛いわね、それ使うわ。ギルマスは現役時代戦士でね。パーティでの防御専門職をしていたのよ。だからこういう体力勝負にはうってつけなの」
「なるほどねえ」
キャズが私の傍を離れないので、別の職員が審判をしている。
時折、試合の合間にその人がギルマスさんへ回復魔法を使用している。まるでセコンド。
総勢14名の試合をやり抜き、次は試験官がチェンジ。
『獅子王』が愛剣を引っ提げ、中央へ。
「おら、誰からでも構わねえぞ」
「では胸をお借りします!」
「おや、さっきの青髪君」
「・・・青の均衡のカーバイドね。
ここ1年でグッと伸びてきたパーティよ。斥候を入れた事が大きいみたいね」
「へえ、キャズちゃん情報通」
「当たり前でしょ?受付嬢だからね。大抵のギルド員・・・上級クラスの人間の顔と名前くらいはね」
「人気のあるパーティ?」
「そうね、割と指名依頼も多いかしら。討伐専門の冒険者ね。
・・・ちなみに、僧侶職の子とデキてるって噂。幼馴染なんですってよ。前にいた盗賊の子はリーダーの事で揉めて辞めたらしいわね」
「やだあ、パーティ内での色恋沙汰。興味ありすぎて気になっちゃうわ」
「あんたそういうの好きなの?」
「人の不幸は蜜の味よね?」
「性格悪いわよ」
「知ってる、ものすごく」
だってーそんな昼ドラみたいなの、面白すぎじゃなーい?
つーか、やはりというかなんというか、四六時中、年齢も近い若い男女が一緒にいたら、ふとしたきっかけで『それってどんなあいのり?』ってなるでしょうがよ!
しかもリーダー、イケメンだし?そりゃあ修正入って素敵に見えるでしょうよ、特に危険な時とかさあ!
目の前では『獅子王』が無駄なく青髪君を叩きのめ…ゲフンゲフン、稽古を付けてあげている。…あれは稽古よね?多分?
同じ剣士でも、青髪君はシオンと同様に長剣を使っている。なので、大剣使いの『獅子王』と渡り合うには技術がいる。
しかし彼にはその技術がまだ追い付いていない。なのでいい様に翻弄されてしまうわけだ。
「・・・ていうか、『獅子王』にあの武器持たせたらいかんくない?」
「そ、そうね。今更だけど替えてもらうべきかしら」
「じゃないとこれって一方的なやつよ?」
キャズはギルマスさんのところへ。
二、三言話して中断。『獅子王』の獲物を変更させた。
愛剣を別の装備に変更させられた事に少々納得の行かない顔をしているが、軽く振り回してからちょいちょい、と青髪君を挑発。
大剣から長剣に変えた所で、勢いは変わらず。
…習熟度、大剣も長剣もほぼ同じだったしね。状況に応じて使い分けとかしているんでしょう。
その後も次々とお相手をして終了。
実技試験はほぼ問題ない、のかしら?
********************
「ったく、舐められたものね、ギルドも」
「本当よ、あんな何処の馬の骨ともわからない人間を試験官にするだなんて。失礼しちゃいますね」
「あ、あの・・・あの方は『塔の主』ですし、きちんとした方だと思いますけど・・・」
「何?C級が私達に意見する気なの?」
「どこのパーティかな、君は」
「す、すみませんっ」
「ジョシュアもダメね、もっとハッキリ言ってやればいいのに。『部外者は帰れ』って」
「あの女に思い知らせてやりましょうか。魔術師だって、今はギルドの方が優秀だってこと」
・・・なんか言ってますなあ。
この距離で聞こえないと思っている方がどうかしてませんか?
「さて、試験を始めましょうか。最初はC級の昇級試験からにしましょう」
「すみませぇん、一度にやって頂けないんですかぁ?」
「僕達、そんなにヒマじゃないんですよねぇ」
「・・・まあ構わないけど」
「ごめんなさい、すぐに終わらせますからねえ?」
「僕達、とーっても、優秀なので」
おお、いい度胸だ。
ならイスト君たちに組んだレベルでもいいな。
一定時間置きに属性変化と時間制限。酸素が徐々に減っていくモード、と。んー、彼等は1時間にしたけど、彼女達は初めてだし3時間くらい?
もちろん先に見せてもらった資料で、持っている属性は把握済みだ。面倒なので、A級昇級試験を受ける3人には、それで決まり、と。
「なら、先に貴方達から始めるわ。
こちらに来て、一定距離を置いて立って頂戴」
「これでいいんですか?」
「僕達の呪文、この距離で受けられるんですか?」
「解けたら考えてあげるわ?頑張って制限時間内に脱出してね」
「制限時間?」
「何を言っているんです?」
「それでは試験を開始します。『難解障壁』」
フォン、と音を立てて一瞬にしてひとりひとりを薄い膜の中へ閉じ込める。さて、どのくらいで解けるかしら?
「なっ、何よこれ!出しなさいよ!」
「こ、これは、結界?」
「それが試験よ。自分達のできる限りの知識と魔力を持って、そこから出ること。物理攻撃は一切効かないのでそのつもりで。
とても優秀という事なので、私の研究室の子達と同様の難易度にしておいたわ。でも制限時間は伸ばしておいたから頑張ってね?」
「・・・うわあ」
「凄いそあれ・・・」
「『塔の主』って・・・マジなんか・・・」
見ている子達が引いています。
なんかぎゃあぎゃあ結界内が煩いので、声をシャットアウト。
音って風魔法の応用で聞こえなくできるのよね。ありがとうキリ君、君のアドバイスは今役に立っています…!
にっこり笑って残りの受験者に向き直る。
「さて、試験内容は理解しましたね?
もちろん、貴方達にも同じ事をしてもらいます。ただ、きちんと難易度はそれぞれに合うように下げますから無理しないでね」
「よ、よかった・・・」
「難しそうだな・・・」
「頑張らないと・・・!」
さて、B級には、複数属性を組み合わせたものを。
C級には『獅子王』と同じように単独属性で作成。ただし、本人のいちばん苦手な属性を組み込む。
全員が難解障壁に包まれた。
残されたのは、私達試験官と、見学者のみ。
「ちょ、ちょっと!これあんたの魔力持つの?」
「んー、まあ足りたみたいね」
「ったく!あのA級受験者何なのよ!何様のつもり!」
「まあまあキャズ。私も意地悪く難易度高くしといたから」
「え」
「これねえ、時間制限付けてるの。徐々に酸素濃度減ってくのよね」
「・・・マジ?」
「ええ。3時間にしといたけど、解けなかったら酸素不足で倒れるわね?そしたら解いてあげるけど」
「ま、やりすぎとは言わねえよ。いい薬だろ」
ぽん、と私の頭に手を置く『獅子王』。
その後ろでギルマスも苦笑しながら難解障壁をしげしげと眺めている。
「レディ、これは解けるものなのですか?」
「ええ、ちゃんとこの障壁がどの属性の魔力でどうやって構成されているかを理解して、自分の魔力で相殺干渉すれば解除は可能ですよ?」
「まあ、楽じゃねえけどな。かなり魔力持ってかれるぜ」
「お前やったのか、アルマ」
「ああ、こないだな。頭使うしいいと思うぜ、魔力操作ができねえと厳しいがな。後衛職なら魔力操作のできないやつもいねえだろうし、いいんじゃねえか」
「なるほど、魔力操作か。・・・レディ、後で構わないので私も参加させてもらえますか?」
「いいですよ、これが終わらないと私も制御できないので、終わったらでいいですか?」
「・・・制御?って、エンジュ、お前これ全部制御してんのか?」
「A級に挑戦している子達のだけはね。一定時間で構成変化するように組んでいるから、それの制御は必要なの。他のものは自動制御なんだけど」
「・・・そりゃ今んとこ、所長とお前にしかできないわけだ」
417
お気に入りに追加
8,591
あなたにおすすめの小説
殿下、俺でいいんですか!?
神谷レイン
BL
薬剤魔術師として王宮に勤める若者セス。
ある日突然王様から十一歳年上の第三王子のレオナルド殿下と結婚して欲しいと頼まれた。なんでも広まっていない同性婚を世間に周知する為らしい。
でも、どうして俺なの!? レオナルド殿下って、美丈夫じゃん! 俺みたいなのじゃ見劣りするよ!
そう思いつつも、当の本人レオナルドに他の人に変えてもらうように頼むが、ほだされて形式上の結婚を結ぶことに。
困惑しっぱなしのセスに待っている未来は?!
小説家になろうでも同時掲載しています。
https://novel18.syosetu.com/n8355gi/
【完結】レスだった私が異世界で美形な夫達と甘い日々を過ごす事になるなんて思わなかった
むい
恋愛
魔法のある世界に転移した割に特に冒険も事件もバトルもない引きこもり型エロライフ。
✳✳✳
夫に愛されず女としても見てもらえず子供もなく、寂しい結婚生活を送っていた璃子は、ある日酷い目眩を覚え意識を失う。
目覚めた場所は小さな泉の辺り。
転移して若返った?!と思いきやなんだか微妙に違うような…。まるで自分に似せた入れ物に自分の意識が入ってるみたい。
何故ここにいるかも分からないまま初対面の男性に会って5分で求婚されあれよあれよと結婚する事に?!
だいたいエロしかない異世界専業主婦ライフ。
本編完結済み。たまに番外編投稿します。
死に急ぐ悪役は処刑を望む
マンゴー山田
BL
絶対に主を死なせたくないヤンデレ侍従×絶対に死にたい(できれば処刑されたい)悪役。
ホームゲートのない駅。電車が通り過ぎるのを見て『魔が差した』オレ。
無事死んだと思ったら、そこには美形がいて。
「運命が入れ替わっちゃったからそのお礼☆」といういらんお節介のせいで第二の人生を与えられることに。
しかし、その人に「何をしてもいい」と言われたオレは、第二の人生を早々に終わらせるべく動くことにした――。
■設定上自殺方法等の言葉が多々ありますので、苦手な方はご注意ください。
■女性キャラが出てきますが恋愛関係にはなりません。CPは固定です。
■ムーンライトノベルスさんで先行更新中。(アルファポリスさんでは1日遅れ更新となります)
■性描写がある話に▲を付けました。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
小5のショタはお兄さんに誘拐されてしまいました
成竹
BL
「最近、小6の女児が近所で行方不明になった。
誘拐なのではないかと推測されているが、いまだ犯人は見つかっていない。
小5の男の子である翔くんは、自分には無縁であるニュースだと思い、母の忠告も聞かずに友達と遊びに出かけた。
・・・・・・そして行方不明になってしまうのであった。」
お話はこのあらすじを前提にして始まります。
ショタが精神も肉体も犯される話です。
苦手な人はご注意ください。
10万文字ぐらいで終わらせようと思っています。
お嬢様の身代わり役
325号室の住人
BL
僕はいわゆる転生者のイード。
こうして日本で生きた前世の記憶を持っているのだもの。何かの話の登場人物なのかな?と思った時期もあったが、容姿から攻略対象者にはなれない、男爵令息…いや、貧乏男爵んちの子なので王都に行く用事もないし夜会にも招待されない、って言うか着てく服もなければその費用も材料も被服スキルもない。
そんな僕の18歳の誕生日、とうとう家が爵位を失って平民になり、僕はとある公爵家で使用人として住み込みで働くことになった。
仕事は当主一家の居住フロアのベッドメイキングだ。
1人で仕事をする初日のこと。僕は見てはいけないものを見てしまって……
☆完結済み
長くなったので、短編→長編変更しました(12/14)
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
夜明けの使者
社菘
BL
高校時代の淡い片想い。
2歳年上の彼が卒業してからこの恋を捨てたつもりだった。
でもなんの因果か、神様のいたずらで再会したんだ。
だから俺は、この恋をまた拾うことにした。
そしてあなたとの恋は運命だと、そう思ったんだ。
年下英語教師 × 年上国語教師
「でも、朝霧先生ってDomですよね――?」
「おれがいつ、Domだって言いました?」
やっぱりあなたは、俺の運命なのかな。
※話が進むにつれてR15描写アリ
※なろうにも同時連載中なので性描写は控えめです
※表紙は装丁cafe様より作成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる