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冒険者ギルド編~多岐型迷路~
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しおりを挟む冒険者ギルドに到着。
中に入り、納品&アルバイトのキリ君と一旦解散。
時間が合えば一緒に戻る約束。
相変わらず賑わっているギルド内。
受付カウンターには人が途切れないし、掲示板の前には数組のパーティが熱心にクエスト依頼書を吟味している。
うんと?私はどうすると依頼完了になるのかしら?
まずは受付なのかしら?キャズいないかな。
すると、人が途切れたカウンターにキャズの姿。
私と目が合うと、ササッと回り込んでフロアへ。
「来たわね、向こうのバーで『獅子王』様待ってるわ」
「バーにいるの?昼から酔っ払いなのかしら」
「どうかしら?いくら飲んでも変わらないんじゃない?昨日から飲んでる気がするけど・・・」
ギルドとしては売り上げが上がっていいけどね、とキャズ。そっちのお財布事情も握ってるの?そのうち本当にギルマスになったりしてね。
私はまだ仕事中だから、とカウンターへ戻るキャズを見送り、併設されたバーへ向かった。
そこには、数人の冒険者の女性を侍らせた『獅子王』とシオン。キャバクラがあるよ、あそこ。
私が入口から入ると、カウンターのマスターらしき人がこちらを見た。特に何か言うでもなく、グラスを磨いている。
寡黙でないとやってけないとか?何か素敵な情報とか握ってそう。ああいう人からクエストの裏話とかマル秘エピソードとかクエスト達成のヒントとかもらえたりするわよね?
私は『獅子王』達のテーブルではなく、カウンターへ。
マスターの目の前に座り、頬杖を付いて見上げた。
「・・・何か注文を?」
「お酒以外は出てくるの?」
「・・・珈琲なら」
「あら素敵。もしかして豆から挽いてくれたりする?」
「・・・お望みなら」
「じゃあお願い」
意外にも、マスターはテキパキと珈琲の支度を。
おおお!こっちに来て初めて見るわ、サイフォン式!
これは期待出来る!?
ゴリゴリゴリ、と豆を挽く音に、芳ばしい香り。
ああ~いいわいいわ、こういうの。対面式でやってくれる所なんてなかなかないわよ!
「珈琲は、お好きですか」
「ええ、でもサイフォン式なんて久しぶり。いつもはドリップだもの」
「・・・これをわかってくれる人が・・・!」
感慨深げなマスター。
…もしかして珍しいものなのかしら?
あー、このコポコポしてるのがいいわよね…
丁寧にカップへ注ぎ、私へ出してくれる。
薫りを楽しみ、ひと口含む。私のこだわり!最初のひと口は絶対ブラック!何も入れずに味わいます。途中からミルク。
「うん、美味しい・・・」
「ありがとうございます」
「なんだよ、珈琲か?酒じゃねえのか」
「酔っ払いは向こう行ってちょうだい」
「つれねえ事言ってくれるなあオイ。待ってんのがつまんなすぎてよ」
「だから飲むなって言ったろ、レオニード」
「俺にとっちゃビールなんて水だ、水」
「すみませんエンジュ様、止められなくて」
「何ァに言ってんだよ、カイナス。てめえだって飲んでただろうが」
「お前みたいに浴びるほど飲んじゃいないよ」
カウンターで素敵珈琲タイムが終了。
まだひと口しか味わっていないのに。と、マスターが低い声で2人を恫喝した。
「・・・てめえ等黙って酒飲んでろ」
「んな凄むなってのハボック」
「すみません、思慮が足りず」
「こちらのレディが珈琲を堪能する時間を潰すな、引っ込んでろ」
「仕方ねえだろ、クエスト報告しねえとよ」
「はいはい、聞くから移動しましょ。ごめんなさいね、マスターさん。この珈琲とっても美味しいわ。また来るからゆっくり飲ませてもらえる?」
「ああ、あんたなら大歓迎だよ」
「ありがとう。・・・ほら副長さん、私の珈琲持って。そこの酔っ払いはさっさとテーブルに戻る。お嬢さん方と約束するなら後にしてもらいなさい」
「かしこまりました」
「へいへい、行ってくるよ」
「そう、その尻に火くらい付けないとダメなのね?」
「おー、怖えオンナ」
ずっと飲んでいたとは思えないような軽快な足取りでテーブルへ戻る『獅子王』。アルコールの分解速度、マッハなんじゃないかしら?飲み干すと同時に分解してるのかしら。
シオンはマスターにお盆を借り、ちゃっかり自分の分の珈琲も頂いていた。
「もうお酒はいいのかしら?」
「さすがに報告中まで飲むほど気を抜いていませんよ。今日は非番でしたし、レオニードに付き合って飲んでいたんです。たまには昼からもいいかと」
「そうね、日向で飲むビールとか美味しいのよね」
「イケる口ですか?エンジュ様」
「できればテラスとか、風と日向を感じるお席で冷えたビールとか飲みたいわよね」
「ああ、いいですねそれも」
ほら、お花見しながらとか?夏に海で飲むビールとか?
そんなに量を飲むことないけど、昼から飲む外でのビールって美味しいのよね。なんでかしらね、開放感?
テーブル席では、先程まで侍らせていた女性を帰す『獅子王』。やっぱりモテるのよね、強くて金持ってれば女が寄ってくるわよね。
「ほら、行った行った。仕事が終わったら遊んでやるからよ」
「本当ですか?」
「待ってますからね、獅子王様ぁ」
「今夜は私を相手してくださる約束ですよぉ」
「へいへい、覚えてたらな」
どの子もキャズと同じくらいの若い子。
冒険者なのだろう、革鎧を着てミニスカートにスパッツを合わせたような格好。斥候とか狩人かしらね?
「若いっていいわねえ」
「なーに言ってんだよ、若すぎてもつまんねえよ」
「それにしてはチヤホヤされてていい気分だったろ?」
「あれはな、お前にも媚びてんだぞカイナス?騎士様なんぞ捕まえた日にはあいつらさっさと冒険者なんて辞めちまうって」
「勘弁してもらいたいね」
「やっぱり強くてお金持ってる男ってモテるわよね、当たり前だけど」
「あんたも金持ちの男がいいのか?」
「ううん、私自分で稼げるから必要ないわ」
「だろうな、あんな薬作れちゃな」
「お眼鏡に叶う男は幸運ですね」
「この歳になったら恋愛する体力なんてもうないわよ」
恋愛ってホントに体力使うわよね。
会いに行ったり、やきもきしたり、パワーが必要。
アラフォーにもなると、そういった事に時間を使うことで物凄く精神的に削られるのよね…
だから若い頃のようにひたむきに追いかける!とか想い続ける!って事がしたくなくなる。ときめくのは楽しいが、頑張れない。…いやあね、老いって怖いわ。
「さて、無事に帰ってきてくれて嬉しいわ?ハプニングもなかったみたいだし」
「・・・」
「・・・いや、それは」
「え、何なの?その沈黙」
「まあ、な。とりあえず依頼品の確認してくれや」
とさ、とテーブルの上に出された小袋。
手のひらに乗るくらいの小さな皮袋が3つ。
私はひとつ手元に引き寄せ、口を開けようとした。
ふと、思って『獅子王』を見る。
「これって、ここで開けてなんともないもの?」
「あ?構わねえよ、飛び散ったりはしねえ。見た事ねえのか」
「ないわ、初めてなの」
「・・・いい女の『初めて』っつーのはなんとなく唆るな」
「レオニード、ふざけてないで答えてやれ」
「あ、もうその反応で大丈夫ってわかったわ」
私が依頼したのは『毒胞子』だ。
不用意に開けて、中身が飛んだら嫌だなあと思ったのよね。
そっと袋の口を開けて、中身を拝見。
そこにあったのは、私が想像してたのとは違った。
「えー・・・と?これ、何?」
「『毒胞子』ですよ、エンジュ様」
「そ、そう、なの?」
「見た事ねえと不思議に思うかもな」
「確かに、私もドロップした時に不思議に思いましたが、紛れもなく『毒胞子』のようですよ。一応ギルド職員に鑑定もしてもらいましたから」
「悪いな、あんまりドロップしなくてよ。今回の探索じゃそれしか採って来れなかったんだ、すまねえ」
『獅子王』が殊勝に謝っている。
しかし、私は『毒胞子』を見て衝撃を受けていたのでそれどころではなかった。
だって、これ、どうみても…
「きのこの山・・・?」
「まあ、確かに、キノコの形ですよね」
「しかもカラフル・・・?」
「なんでなのかはわかんねえけどな」
袋の中には、あの有名なお菓子の『きのこの山』と見間違いそうなものが5~6個。ノーマルな色と、イチゴ的な色、ムラサキだからぶどう?緑だからメロンかしら…?
どうやらあと2袋も同じらしい。
私はきのこの山…いや、『毒胞子』をひとつ取り出した。
コロコロ、と転がしても特に胞子が出たりだとかは無さそうだ。
「んー、『精査開始』」
「はっ!?」
「な・・・?」
キュイン、と空間が軋むような音と共に、私の手の上で『毒胞子』周りに風船のようなキューブが出現し、その周りを光の輪が回り出す。
キューブの表面には文字や数字が走る。
これはタロットワーク塔…すなわちゼクスさんの研修室で開発された魔法で、主に成分などを分析するのに使用する。
私はそれに独自のイメージが入り、こういう近未来的な解析空間が出現する。他のみんなはまた少し違うのだけどね。
これは結構、役に立つ。私は顕微鏡みたいなものだと思っている。そこそこ魔力消費もあるのだが、私は回復量が多いのでそこまで苦ではない。
さてさて、せっかく手に入れてきてくれたのだもの、効率的に使いたいわよね。無駄にしないためにもしっかり精査せねば。
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