28 / 197
冒険者ギルド編~多岐型迷路~
27
しおりを挟む「ふぁっ!」
「・・・どうしたんですか、エンジュ様。カエルでも踏んだような声出して」
「背中が今ぞくっとした」
「風邪ですか?何か温かいもの入れましょうか」
「ううん、大丈夫。気の所為よ。帰ったらお風呂に長めにつかることにするわ」
「それがいいですね、僕もシャワー浴びよう今日は」
『今日は』という単語に怖いものがあるんですけど。毎日入りなさいよ、頼むから。清潔魔法があるとはいえ、それとこれとは違うと思う。
『獅子王』とシオンが多岐型迷路へ入って数日。どれくらい探索は進んでいるんだろうか。
頭の中はすっかりRPGモード。どんな内部なんだろうな。ちょっと興味あるなー見てみたいなー。キャズ、ギルドの仕事とかで調査に入る時に私を外部協力調査員とかにしてくれないかしら?
脳内想像では、もはやタ〇タロスで再生されている。
仕方ないでしょ、好きなんだものペル〇ナシリーズ。全部制覇したわよ、特にPS3以降は何周も周回してしまうほど。
階層主前に休憩部屋と転移方陣、と思ったのだってあのゲーム想像したからだもの。
まさか長期滞在したら『刈り取るもの』とか出てこないわよね?あの鎖を引きずる音がしたら即階段に離脱!とか必死でコントローラ操作していたあの頃が懐かしい。
睡眠時間?そんなもの画面の前では不要ッ!とばかりに徹夜寸前までやっておりました、若いって素晴らしい。
悪魔茸は希少魔物。おいそれと出てこないのだろう。…『宝物の手』みたいのものかしら。あれも見つけたら速攻逃げていくから追いかける間にシャドウに邪魔されて逃げられるなんてよくあったなあ。
「・・・エンジュ様、またそれ飴化してますよ」
「あああああ嘘でしょ、また!?」
カラカラカラ、と手元のマドラーが音を立てる。
実は、ポーションを制作中にうっかりするとできてしまう。最初にこれができてしまった時も偶然だった。
その時は『『歩いてMP回復』というスキルがあるのであれば、探索とか楽になるよなあ、ポーションとかを飴にしたら歩きながら回復できない?飲み込めない、とかって時も使えそう。やだ私頭いい、天才?』
なんて考えついた事からだった。
それからポーションを攪拌している時に、飴ってどうやって作るんだっけ?固めるのよね?水飴入れるとか?いやそれ最初から飴だし。そもそも水飴作らないとだし。あれ、べっこうあめ、って小学生の頃に理科の実験でやらなかったっけ?あれトースターでチンしてたわよね?材料なんだっけ、お砂糖?
と、延々と考えつつ、脳内では金太郎飴を切る映像が流れていた。テレビでは飴を伸ばしたり切ったりするのは見たことあっても、そこまでどうやるのかまでは見たことないわ。
飴の製造工場見学なんてした事ないし、あー、これは詰んだな?と思った途端だ。
手元がカラカラカラ、と硬質な物を掻き混ぜる音に変わった。驚いて見てみれば、作っていたポーションが固形化していた。
「・・・うっそだあ、何よこれ」
作っていたはずの薄水色のポーションが、キャンディとなっていた。あのねこの世界の神様、私にそんな生産職のスキル授けてなくていいのよ?何ができちゃうか怖くて仕方ないわ、私。
ひとつ取って舐めてみれば、それは私の作るポーションの味。
こちらへ再召喚されてから、私の作るポーションの味にも変化があった。今はポカリスエットみたいな味がする。前はオロCだったのにね?
高級ポーションも同じポカリスエット味。
超級ポーションは色から想像した通り、ジンジャーエール。辛口です。
できてしまったポーションキャンディ。もちろん実験として研究室の4人にも試食してもらった。
しかし、それほど体力を消費している訳でもないので、本当に回復効果があるのかまではわからなかった。
それならば!と魔力回復薬を作成。飴になれ~飴になれ~と念じていたら変化しました。
「あ~、こっちはなんかじわじわきますね」
「疲れ取れそう」
「酸っぱいけどうまいっす」
「これいいですね、新商品として売れそうです」
「・・・なぜアセロラドリンク味?」
赤いから何味だ?と思ってたら懐かしのアセロラドリンク。ポーションキャンディより少し小ぶり。なんか意味あるのかしらね。
今回ちょうどよかったから、『獅子王』とシオンに実験台…ゲフンゲフン、お試しとして預けてみた。
ちゃんと効果あるといいんだけどね。
********************
「あの~、エンジュ様~」
「ん?どうしたのキリ君」
「すんません、師匠にお客様なんすけど、師匠ちょっと他の塔に会議に行ってるんすよ。でもお客様が『待つ』って言ってんすけど、さすがに師匠の部屋に居させるのってどうかと思って」
「今はどうしてるの?」
「研究室にいるんですけど、ちょっと威圧感凄くて。エンジュ様、ちょっとその人預かってくれませんか」
「えっ・・・知らない人?」
「いや、アナスタシア様の旦那さんっす」
「フレンさん?」
キリ君について行けば、そこには疲れた顔のフレンさんがいた。確かにピリピリした空気が隠せていない。珍しいな、あんなフレンさん見たことないわ。
私が入ってきた事に気付き、少し目を細めた。
こちらへ近づいてきたので、私はキリ君に『戻っていいよ』と声を掛ける。
「お久しぶりです、エンジュ様」
「こんにちは、クレメンス様。申し訳ないのだけど、私の部屋に来てくださる?」
「・・・よろしいのですか」
「お茶くらいは出して差し上げるわ。皆、ゼクスレンが戻ったら私の部屋にと伝えて」
「はい」
「分かりました」
フレンさんを伴い、部屋へ戻る。
ソファを勧め、お茶を出した。今日はひんやりアイスティー。
「すみません、気を使わせましたね」
「そんなにピリピリしてどうかしたの?」
「・・・申し訳ない」
初めて見る、神妙な団長
さん。
うーん、ここはなんとかネタばらしして、ゲロってもらう方がいいのかな。どうしようかなあと思いながらじっと見ていると、ものすごく疲れているのがわかる。
…どこかに行ってきた、のかしら?アナスタシアも遠征に出ているし、という事は団長さんもなのかしら?
私は戸棚からひとつ瓶を取ってくる。
彼の目の前に、コトン、と置いた。
それは蝶の意匠が入った小瓶。
「・・・何を、させるおつもりか」
「覚えていますか、フリードリヒ・クレメンス。
以前、近衛騎士団詰所で、タロットワークの始祖の日記について話をしましたね」
「何を・・・」
「元の姿になった私は、どう見えますか?」
「おい・・・ちょっと待て・・・まさか」
「ねえフレンさん?アナスタシア、元気になったと思わない?」
「っ!!!嘘だろ!!!お嬢か!?」
「再び召還されちゃったわ、アナスタシアにね。戻るつもりはなかったから、何も残さなかったのに」
ぱくぱくぱく、と口を開いては閉じ、を繰り返す。
そうよね、何言っていいかって話よね。
「帰ってきたなら帰ってきたと!」
「言った所でどうなるの?『コーネリア』はもういないのよ。私が同一人物に見える?」
「うわ、俺はお嬢にカッコつけて口説いたのか」
「あんなに気取ったフレンさん初めて見たから驚いちゃった」
「・・・アナスタシアがいなきゃとっくに口説いてるぞ、お嬢?いや、もう『お嬢』とは呼べんな。エンジュ様、か」
「エンジュ、で構わないわよ?私も『フレン』と呼んでもいいかしら?それともアナスタシアのように『フリードリヒ』と呼ぶべきかしら」
「好きに呼んで構わない。・・・お帰り、エンジュ」
「ふふ、やっぱりフレンの声いいわね、好きなの」
「俺の声で良きゃ、好きなだけ聞かせてやるよ。
・・・あ~、緊張して損したな。シオンには伝えたのか」
「伝えないわ」
「何故」
「『コーネリア』がいなくなって2年経っているんですってね。なら、貴方達の時間もそれだけ経ったのでしょう?
新しい関係を作った人もいるはずだわ。それを壊すのは気が引ける」
「まだ、あいつは、シオンは忘れられてない」
「でもそれは『コーネリア』であって、『エンジュ』ではないでしょう?彼女と私は違う。そう思わない?」
「・・・確かに、見た目は全く別人だが」
あ、やっぱり見る人が見れば違うんだな。
とはいえ、私自身も鏡を見て似てる部分を探しても、ほんの少ししかない。これを同一人物とわかるには決め手がいるだろう。
団長さんを見ると、先程よりは雰囲気が和らいだ。
さて、もう少し聞き出さないといけないかな。
452
お気に入りに追加
8,614
あなたにおすすめの小説
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる