26 / 197
冒険者ギルド編~多岐型迷路~
25
しおりを挟む迷宮探索当日。
ギルマスであるグラストンから、今回の調査に近衛騎士団から人が来る事を伝えられる。
「こりゃ、近衛騎士団も本気だな」
「ああ。まさか『剣聖』を出してくるとはな。こっちも『獅子王』が行く事を伝えてある。むしろ良かったんじゃないのか?下手にレベルの違う騎士を付けられるよりはな」
「ま、そうだな。あっちが魔物に殺られる心配をしながら調査をするなんて事にゃならなくて済む」
シオン・カイナスか。あの当時もずば抜けて才能がある男だった。自分とはまた違う類の強さだが、今回の調査に関しては助かる。確か、魔法もそれなりに使えたはずだからな。
武器も防具も手入れを済ませ、1週間ほど迷宮に潜るために食料も薬も詰んだ。マジックバッグにはまだかなり余裕がある。一応戦利品の場所も考えんとな。
依頼品である『毒胞子』の目標数は5から8。
あの後、ギルドの資料から『悪魔茸』の交戦率を見て予想した数がこれだ。運が良ければ10個は出るかもしれない。
依頼人であるエンジュ・タロットワークを待つ。すると、カウンターから1人の若い女が近づいてきた。
「すみません、『獅子王』様」
「あん?どうした」
「エンジュ様から伝言です。『支度に時間がかかるから、迷宮の入口で会いましょう』と」
「仕方ねえな、女の支度は時間がかかるもんと相場は決まってるしな。あんがとよ、姉ちゃん」
「キャズ・シールケといいます。どうぞ無事のご帰還を」
「そうだな、無事に帰ってきたら祝杯をあげてくれ、シールケ」
「っ、はい!」
若いが、いい女だ。体は成熟しちゃいるが、男の匂いがしない。勿体ねえな、この見た目と歳でまだ手付かずなのか?
胸も尻も程よく肉がついているし、啼かせたらさぞいい声だろう。ちっと固そうに見えるが、こういう女ほどベッドの上じゃ化けるからな。
「あ、あの。何か・・・?」
「お前、まだ男を知らないのか?」
「えっ!?」
「勿体ねえな、いい体してんだから楽しんどけよ。冒険者なんかしてたらいつどうなるかわかんねえぞ?」
「わ、私はそんな簡単に寝ません!」
「そうか、なら身持ちのいい男でも捕まえてサッサと子を産んどけ。お前ならいい母親になるだろ」
「・・・『獅子王』様はいつもそんな事考えているんですか?」
少し責めるような物言い。だがどこか媚びるような甘い声音。こういうタイプの女は、長期のクエスト後に誘うと大体落ちる。
「当たり前だろ?男ならみんなそうさ、冒険者ならな。
クエストから帰ってきて欲しくなる物と言えば、美味い飯、美味い酒にいい女だ。女の柔らかい肌で眠ってやっと『帰ってきた』って気になる」
「そういうものですか?」
「俺はな。だからお前がその気なら、色っぽい下着付けて、綺麗にして待っとけよ?」
「なっ!!!」
「じゃあな」
さて、ここからは本気のクエストと洒落込むか。
俺も多岐型迷路は初だ。さてさてどんな仕掛けが出てくるのやら。
王都を出て、数十分の先にある道の外れ。
朽ちた砦のような門構えの建物の中に、多岐型迷路はある。
この朽ちた建物も、以前はなかったという話だ。
恐らくこれも迷宮の一部なんだろう。
ギルドの職員が交代で門番を勤めている。
勝手に迷宮に入ることを防ぐためだ。こういったギルド管轄の迷宮に入るには、あらかじめ許可が必要になる。
冒険者であれば、自らのランクを示すタグ。
そこに魔法で名前や職業、パーティ情報、自らの強さを示す冒険者レベルやランク、犯罪歴など、あらゆる個人情報が書きこまれている。
ギルドではこのタグを使い、クエストの受発注をしている。
今回は俺のタグにはギルド本部からのクエストと、エンジュ・タロットワークの依頼したクエストの両方が書き込まれているわけだ。
そこには多岐型迷路の出入りを許可する事も含まれる。
見張りの職員にタグを渡す。
所定の機械へ通し、通行許可を確認される。
これで多岐型迷路へ潜れるというわけだ。
「早いな、もう来てたのか」
「久しぶりだな、レオニード。もう10年振りじゃないか?」
「お前もな、カイナス。いつの間に副団長なんかになりやがった?よくやるな」
迷宮の入口。
そこには近衛騎士団から派遣された、シオン・カイナスが待っていた。周りに数人の騎士。恐らく部下が見送りに来たのだろう。
対して俺は1人。これが単なる冒険者と騎士様の差かね。
「調査は一通り行う事になる。主導権はそちらに譲るよ」
「んな事していいのか?」
「迷宮は君らの独壇場だろ?俺はそれについていって、こちらで重要だと思う調査をするよ。
気掛かりは同じだろうけど、お互いの方法で挑む方が、違う角度から情報が得られるだろう?最終的に得られるものは多い方がいい」
「確かにな。ひとまず足でまといになるような奴が来なくてホッとするぜ」
「俺もだよ」
互いを見れば、どの程度できるかわかる。
ガチでやってもいい勝負になるだろう。それがわかるから安心して戦えそうだ。何があるかわからないのが迷宮の深層。上層は手を抜いていられるが、『悪魔茸』は下層になる。
そういや、依頼人は来ないのか?
こちらで会おう、と言っていたが…
「ああ、いたいた。背が高いと目立つわね」
「来たか」
「ごめんなさい、準備に手間取ったわ。こんにちは、副長さん」
「・・・エンジュ様?何故こちらへ」
「この人に用があってね。私の依頼を受けてくれてるの」
俺の目の前に立ち、手に持っていた巾着を寄越す。
…なんだこりゃ。
「なんだよ、これ」
「薬だけど?用意するって言ったでしょ」
「こんな小せえ袋にか?」
「関係ないわよ、マジックバッグだもの」
「マジックバッグだあ!?こんなに小せえもんがあんのか!?」
「あるんでしょうね、目の前に」
しれっと言う姉ちゃん。
あのな、こんなサイズで作れるなんざ、それこそ国宝級じゃねえのか?大抵は小さくてもリュックサイズだ。俺が持っているのもそのサイズ。
そんな事はお構い無しに、エンジュ・タロットワークは俺にその巾着を渡した。…どのくらいの量が入るんだ?こりゃあ。
「ええと、中身はポーションと高級ポーションが5本ずつ。解毒薬と麻痺解除薬が3本に、聖水が3本ね」
「おいおいおいおい!どれだけかかってんだよ!」
「元手はタダよ?私が作ったものだもの」
目眩がする。道具屋でこれを揃えたら金貨が2枚は吹っ飛ぶだろう。なのにそれをポンと出す。…自分で作っただと?マジかよ…
くるり、と振り返ってカイナスにも巾着を差し出していた。
受け取ったカイナスも驚いている。
「エンジュ様、これは・・・」
「一昨日、アナスタシアが魔術研究所へ来てね。副長さんが彼と多岐型迷路へ入ると聞いたの。
・・・調査に入るのは、私の予想の為よね?」
「いえ、そんなことは」
「まあいいわ。彼には別口で『毒胞子』の依頼もしているの。できたら手伝ってもらえると助かるわ、今後の為にも」
「・・・了解しました、心掛けます」
「その巾着の中身は同じよ。危なくなったら使って?
神殿の聖水に引けを取らないと思うわ、多分」
「待ってくださいエンジュ様、まさかこの聖水」
「それはここで言うべきじゃないわね?」
しー、と唇に指を当てて笑う。
…まさか聖水も作ったのか?頭が痛くなってきた。
またも俺を振り返り、小瓶を差し出した。
「で、これはオマケね。まだ効果を試していないから、ちょっと使ってみてくれない?」
「なんだこれは。・・・飴か?」
「そうなの、新作よ?」
「あのな、子供じゃあるまいし、こんなの俺達にどうしろってんだよ」
「えーとね、疲れたら歩きながら舐めるといい事ある?かも?」
「なんで疑問形なんだよ」
「言ったじゃない、効果を試してないって。青い方と赤い方、味が違うのよ。赤い方は魔法を使ってから、青い方は疲れたなと思ったら舐めてみてね」
「俺達は被検体かよ・・・」
「まあまあ、多分いい事あるから。あ、副長さんも試してね?感想を期待しているわ」
「はは、じゃあご馳走になりますね」
「お前強いなカイナス・・・」
「じゃあいってらっしゃい。お土産を期待しているわね、『獅子王』さん」
「成功報酬は弾んでくれよ?頼むぜ」
「考えておくわ」
にこにこ、と手を振るレディ・タロットワーク。
俺とカイナスは連れ立って迷宮に挑む。
さて、成功報酬を頂きに気張るとするか。
しかしなんなんだよこの飴…
442
お気に入りに追加
8,614
あなたにおすすめの小説
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる