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この世界での私の立場
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しおりを挟むさて、私がどうしてこの国…この世界へ来てしまったのか。
召喚されてからのことをおさらいしておこうと思う。
この世界は『アースランド』と呼ばれているそうだ。
いや『アースランド』って。
まんま地球ですやん。何そのベタなネーミング。こっちの神様ごめんなさい。
そうは思ったけど、そんな事こっちの世界の人にしてみれば関係ないもんね。
私が起きた時は、王城の1室のベットの上だった。
目覚めた後、説明に来てくれた(原因ともいう)ゼクスさんはこと細かく、私が納得するまで話をしてくれた。
…後からゼクスさんのお弟子さんという人に聞いたけど、仕事より私の話を聞く方がいいって言って逃げてたらしい。ダメな人だった。
そういう個性的な人でないと、研究所の所長なんて務まらないのかもしれない。
目覚めてから食事を頂いてしまい、落ちついた頃を見計らってか、ゼクスさんが私の前に座る。
空腹も満たされ、じわじわと『これは夢じゃなくて現実か…』と半ば諦めモードになってはいたが、私は自分の疑問を解消すべく話しかけた。
「えーと、ここはどこでしょうか」
「ここはこの国の城の中ですのう」
「では、私何でここにいるんでしょうか」
「それはですの・・・すんませんでした」
「え」
がばっ、と平身低頭。
五体投地するんじゃないかと言うくらい謝られた。
一瞬で椅子から降りて這いつくばりました。びっくりして探しちゃったし。
見た目『老人』に見えるおじいちゃんに平伏されるとさすがにいたたまれない。
なんとか普通に座って話をしてもらうまで数十分。疲れる。
話を聞くと、おじいちゃん…ゼクスさんは魔術研究所の所長さん。
常日頃、魔法の研究と実験を繰り返し、軍用、生活用、とその他諸々の魔法の研究をしているようだ。
もちろん、ゼクスさん1人でやっている訳でもなく、古くからある古文書や魔術書の研究だとか、新しい魔法の開発だとか、今ある魔法の改良だとか、たくさんの人がチームを作って日夜研究に勤しんでいる。
魔法と魔術の違い?
説明されたけどよくわかりませんでした。
いわゆる技としての呼び名を『魔法』、学問としての呼び名を『魔術』と呼んでいると解釈しました。違うかもしれない…。
で、その中の研究チームのひとつ。
『召喚魔法』の研究チームがひとつの魔法陣を組み立てた。
理論からすると『精霊』の召喚をする為だったみたいだけど、実験中にイレギュラーが発生。
なんかド派手にピカっとしたかと思ったら、魔法陣の中には私がいたらしい。グースカ寝てました。はい。
慌ててゼクスさんを呼びに行き、とりあえず生きてるし、寝てるだけみたいだけど大変だ、とひと騒動。
どこから召喚したのかわからないけど、ひとまず保護。
本人が起きてから話を聞こう…
「というわけでしてな」
「そ、そぉ、ですか・・・」
「何か質問はありますかの」
「ちなみに?なぜ私が『異世界から来た』と思ったんでしょう」
あれかな、黒髪黒眼…とか?よくあるテンプレなお話だとそういう事もあり得るし。
「いや、そうではありません。どこかの場所から連れてきてしまったという事も考えなかった訳ではありませんが。決め手になったのは、魔力パターンですな」
「まりょく?パターン?」
「はい」
「私、魔法とか使えませんけど?」
「・・・そうですか、そちらの世界にはありませんでしたか」
「そうですねえ」
『魔法』なんてアニメか映画、娯楽作品の中でしかお目にかかることはない。
…知らないだけで現実にもいたんですか?魔法少女。あれですか、願いと引き換えに体喪って魂だけになっちゃうやつ。救われないわよねアレ。
それに『精霊』なんてものにもお目にかかった事はない。日本には八百万の神がいる、とは言うけれど神様にだって会ったことないもんね。
一時期『小さいおっさん』ってネットで話題になったけど、それって精霊?妖精?見た事ないからわからないけど。
ゼクスさんの説明によると、この『アースランド』の人間は誰でも何らかの『精霊の加護』を持って産まれるそうだ。
人によってどんな精霊の加護を持つかは様々で、幾つもの精霊の加護がある人もいれば、ひとつの精霊の加護しか持たない人も。
けれど、何もない人はいない。その加護の力が強ければ『精霊』も見ることができたりするらしい。そんな人はほんとに1握りみたいだけどね。
「なんか・・・すごいですね」
「いやいや、コズエ殿には及びませんて」
「・・・は?」
「貴方にはその・・・おそらく『八百万の神』と呼ばれる高位精霊の加護があるように見えます」
え?なにそれ?私にそんなものがあるならば、もしかしたら日本人全員その八百万の神の加護あるんじゃなかろうか。
まぁ正月には初詣って事で神社へお参りに行くし、パワースポット巡りって言って神社巡りしたり御朱印集めとかしてたけどさ。
それを言うと、ゼクスさんは『そのおかげかもしれない』と言っていた。見えなくても、感じなくても、日々の生活の中でそうして感謝を捧げていたのならば、加護を持っていてもおかしくないと。
そう決まったわけではないのだが、ありがとうございます神様。見えないけど感謝します。
その『八百万の神』の加護はこちらのようにハッキリと『○○の精霊の加護』とはいえないが、全ての精霊に好かれるようなものらしい。大まかに『なんかすごい加護』みたいなもの。
なので異世界から来た私にも、魔力があるそうだ。
「とはいえ、まだ弱いものですが・・・徐々に増えてくるかもしれませんな」
「え、それって勉強すれば、私にも魔法が使えるようになったりします?」
「おそらく使えますな。寝ておられた時よりも、今の方が若干とはいえ魔力量が増えているように感じますのでな」
ゼクスさんは『最大値がどの程度なのかわからないが、増やせると思うから勉強してみるのもいい』と言ってくれた。
現在私を元の世界へ返す方法はわからないけど、召喚魔法の研究も進めているし、私が魔法の勉強をする事でわかることもあるかもしれないと。
そう言われると…やるしかないよねえ?
まるで夢の中のお話のようだ、と思いつつ。
その後お役人さんがやってきて(ゼクスさんの息子さんだった)、私の保護…ゼクスさんを後見人とした身分証や、この国での生活の補償。細々とした事に関する手続きをザザザっとされた。
後日ゼクスさんに聞いたところ、早く身を固めないと他の人に利用されないとも限らないと思い、息子を馬車馬の如く使い、周りを固めたそうだ。
*********************
私が王城で過ごしたのは5日ほどだったと思う。
この世界の話…自分が今いる国の話。簡単に周辺諸国の話。
そして、この国に滞在する間の待遇について。手続き等の現実的な処理は、ゼクスさんが代わりにやってくれた。私に投げられてもできないだろうしね。
色々な手続きが済んだ次の日、ゼクスさんによって非公式に王様と引き合わされ、謝罪と今後についてのお話をした。
『此度は大変申し訳無い事をしました。貴方の帰還については、非公式ではありますが全面的に協力させてもらいます』
という言質をいただいた。
…私はかなり幸運だったのではないだろうか。放り出される確率もあっただろう。異世界から来た、だなんてスンナリと信じてくれる内容ではないはずだ。それとも前例があったのだろうか?
王様との謁見を終え、帰路に着く間にゼクスさんに聞いてみた。
「さて、城に押し込めておいてすみませんの。本日からは儂の邸で生活してもらいます故、これから向かいます」
「あ、はい。・・・あの」
「ん?何ですかな」
「とても、気を遣って頂いたと思うのですが」
「陛下ですかな?いいのですよ、我々の失敗でコズエ殿には迷惑をかけております。支援をするのはせめてもの償いと言ってもいいでしょう。それだけの事を我々は貴方に強いている」
「そうでしょうか」
「むしろ、我等が問いたいくらいです。あるべき場所から引き離してしまった。その事で恨まれこそすれ、コズエ殿は我々を責める発言も無い」
「それは・・・」
確かにそうかもしれない。『私を元の世界に帰せ』何故そう言わないのか、と彼等にしてみれば、何も言わない私を不審に思うだろう。
「何と言っていいのか。
多分、まだ半信半疑なのかもしれません。長い夢を見ているというか。本を読んでいるというか」
「現実味が薄い、ですかな」
「そう、ですね」
人の通りの少ない廊下。和式の造りではない。映画で見るような古い様式の建築様式。アール・デコとでもいうのだろうか?
普段あまり見ない風景だからなのか、どこか現実離れしているな、という感覚は確かにある。
「それにしても、お城の中にしては人通りが少ないですね?いつもこんなものなんですか」
「ああ、今は関係者以外立ち入りを禁じております。とはいえ、この一帯だけですが。
コズエ殿を他の者の目に触れさせたくはありませんでしたので」
「えっ?」
「異世界から召喚された人間がいる、と知らされているのはほんの数名です。何があるかわかりませんのでな、対策しておくに越したことはない」
私にはピンと来ないが、いわゆる私の存在は#異分子_イレギュラー_#だ。私がいる事で面倒事だとか、気忙しい事があるのかもしれない。
出口を通って外へ。
いかにもというような馬車が停まっていた。まあそうよね、車なわけないですよね。
********************
コトコトコト、と馬車に揺られる。どれだけ振動がくるものなのだろうと内心覚悟していたけれど、思ったよりも衝撃は少ない。
よくある小説だとお尻が痛い、とかあるけれど、この馬車はそんなこともなかった。
馬車の窓から見える風景に目が惹かれる。
後ろの窓から見えるのは、外国で見るような白亜のお城。
まるで某ランドのお城のようだ。
建ち並ぶ大きな塔や建物を抜け、大きな門を抜ける。
そこには、私の知る限りの風景で表すと、欧風な街並みが広がっていた。
石畳の続く広場。道。常緑樹。建物。
私の目に飛び込んできた光景は、私が暮らしていた日本とかけ離れた風景だった。
それこそテレビの映像で見るような、ヨーロッパ風のお屋敷がずらりと並ぶ。
凱旋門のような大きな門。それだけでも立派な建築物。
整えられた庭に、通りには馬車がすれ違う。
何よりも、路上に見かけるのは映画で見るような立派な『剣』を腰に指した『騎士』と呼ばれるのだろう鎧を付けた人達。
瞬間、私は気が遠くなるような感覚に襲われる。
倒れはしなかったが、貧血にも似たような感覚。血の気が引いた、のだろうか。
私は、
本当に、
別世界へ来てしまったのだ。
視界に広がっていく世界に、言葉が出ない。頭がついていかない。
お城、豪華な調度品、食べなれない料理、王様。
城内にいる間、私は宛てがわれた部屋から出る事はなかった。
部屋の窓から庭の景色は見ていたけれど。
私が会う人は限られていた。
ゼクスさん、メイドさん、王様。
限られた空間、限られた人達。
目にしていても、頭が理解していても。
今、私の目に飛び込んでくる『世界』程には衝撃は少なかった。
同じ馬車に乗るゼクスさんは、必要以上に私に会話を振ってこなかった。
少なからず、ショックを受けている私を気遣ってくれていたのかもしれない。
********************
馬車が止まった事に気付いたのは、体感にして数分に感じられた。
もしかしたらそこまですぐではなかったのかもしれない。
でも私には、時間の経過がほんとに早く感じられたのだ。
馬車から先にゼクスさんが降りた。
私が降りようとすると、この家の人だろう男の人が手を出して支えてくれた。馬車って車高が割りと高い。そりゃそうよ、お馬さんが引いてるんだもの。
あれよ、昔乗った人力車に近いかもね。飛び降りたら怒られるのかな。
お邸はどこぞの別荘?かと思うくらいに大きかった。
部屋は何部屋くらいあるのだろうか。これホテル業もできるよね?
前を歩くゼクスさんが、私を振り返り手招きする。私は急いで後に続いた。
「帰ったぞーい」
お邸の主がご帰還にしては軽ーい呼びかけ。
大きなドアの前でそう言うと、ゆっくりと扉が開く。
そこには初老の品の良いオジサマが。
片眼鏡をかけた執事さん。ほ、本物!
優しそうな笑みを浮かべ、私たちを中へ案内した。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ほいほい、連絡しといたお姫様じゃ。よろしく頼むぞい」
「承っております」
スタスタ、と中へ入っていくゼクスさん。
そんなゼクスさんを目で追いつつ、私はあまりのお邸に立ち竦んでいると、執事さんは丁寧に私に向かってお辞儀をした。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「へいっ!?」
しまった、お嬢様なんて言われて動揺したら変な声出た。
「はっ!いや、あの!私『お嬢様』とか呼ばれるキャラじゃないんで!」
「いえ、旦那様から仰せつかっておりますので。
私はこちらのお邸で家令を務めております。今日からお世話をさせていただきます、どうかセバスチャンとお呼びくださいますよう」
「あ、はい、セバスチャンさん、よろしくお願いします」
「私に『さん』は必要ありません」
「え、でも」
「セバスチャン、と呼び捨てにしてください。
私は家令であり、お嬢様に仕える召使いの1人ですので」
「いやあのでもですね」
「百歩譲ってセバスでも良いですよ」
「えーと、セバス、さん」
「では私も『お嬢様』とお呼びいたしますね」
「いやそのお嬢様ってやめてもらえると」
「では私の事も『セバスチャン』、または『セバス』とお呼びください」
くっ…!この人私が呼び捨てにしない限り『お嬢様』呼びを続ける気だな…?
しかし呼び捨てにするのは慣れない。
だか『お嬢様』呼びは何がなんでも回避したい…!
どうすればよろしいか…!?
玄関先で睨み合う(現実的には睨み合ってるわけじゃないけど)私たち。
さてどうしたらいいのか…
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